16.祭りの後に※
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朱音は覚えていないのだが、はじめに抜け出したという校門まで戻って来たタイミングで、佐助の背中から降ろしてもらった。
流石におんぶのまま学園に戻れば要らぬ注目を浴びてしまう。
多少ふらつくものの、いきなり走る等しなければ、自力で移動できるくらいには回復してきているはずだ。
「じゃあ行きますか」
すっ、と佐助が手を差し伸ばした。
佐助はいいのだろうか。手を繋いで戻ればきっと学生達に好き放題言われてしまうが…、と頭に過ぎりはしたが、留まったのは一瞬だけ。躊躇いながらも手を取った。
たった今までの佐助の体温が心地良くて名残惜しかったのと、やっぱり側に居られるのならそうしたいと。
佐助はすぐに朱音の手に指を絡ませると、ゆっくりと光が集まっている方へ歩き出した。
「こっちはそういうの、とっくに終わってんの。保育園の頃には思い出してんだから」
「そ、そんなに早くから…!?どうして、」
「さぁね。誰かさんが変な歌しょっちゅう歌ってたから。………どんぐりころころ?」
「どんぐりこ?」
「『どんぶりこ』だよ」
所謂どんぐりの歌が思い出すきっかけに?
首を傾げる朱音に説明する気はないようで、佐助は笑いを噛み殺すようにそっぽを向いた。
『変な歌、歌わないでくれる?』
ふと脳裏を掠めたのは……木の葉の記憶。木枯らしの思い出。
鬱陶しそうに目線を向けてきた小さくて可愛い男の子。橙色の髪をした、しっかり者の…。
「……ま、まさか…あれは…!あの時の夢の…!?」
「色々思い出すのは後ね」
何か言いたそうな朱音を遮るように、生徒達の賑わいが聞こえてきた。
前を向くと生徒会の面々もグラウンドに揃っており、どうやらグランプリの集計…発表まで終えた後のようだ。
「佐助!朱音殿!」
そして誰より早く、二人の帰還に気づいた人物が駆け寄ってくる。
彼の声に周囲の人達も気づいたようで、少しずつ視線が向けられ始める。
「……!」
しかしそんな事は気にして居られないほど、朱音はまた感情の渦に襲われる。
(幸村…!)
幸村だけじゃない、政宗も、皆も。対立し合っていた人達すらも皆導かれた様に、この学園に集まっていたのだと気づく。
そして思い出す。先ほどの業火を払った金属が触れ合う様な音。それにあの炎の風……助けてくれたのは、もしかして、と。
彼の胸元にいつも掛けられている六文銭。
戦の記憶の中でも常に身に付けていたものだ。
ふらつきながらも駆け出そうとする朱音に、制しても無駄も言わんばかりに佐助は手の力を緩めるつもりが、朱音は逆に佐助の手を強く握り締め、引っ張るように走り出した。
幸村も駆け寄りながら、二人が手を繋いでいる事に気づいた。普段なら色恋事情の気配を察すれば赤面するはずだが、そうでは無い感覚が身体中を駆け巡る。
――――――どうか赦してもらえないだろうか。
想い合っていた二人なのだから。どうか一緒にいさせてやって欲しい。
そう願いを込めながら、二人に手向けた。
重ねた二人の手へ。その手首へ結んだ、渡し賃。
今、鼓動と共にその手は繋がれている。
「………、」
幸村は戦の記憶を思い出したわけではない。
ただ二人が連れ立って、五体満足で目の前にいる。髪をなびかせ、息を切らしながら己の元へ駆け寄ってくる姿を目にしている。
また声が聞ける、話すことが出来る。明日を共に生きていける。
普段通りの事実がどうしてか、幸村の心をこの上なく満たしていく。
「……、良かった…!良かった、佐助!朱音、殿…!」
泣き虫の権化が泣き出すより先に、幸村の感情が溢れ出してしまったようだ。
佐助と共に飛びついてきた朱音を迷うこと無く受け止めた。
「幸村、ゆきむら…っ!ありがとう…!」
「あぁ〜あ、また揃って……しょうがないねぇ」
二人にギュウギュウと締め付けられ、何事かという生徒達の視線をガッツリ受け止めながら、佐助はため息を吐く。
だが勿論、二人を抱きしめ返す以外の選択肢はなかった。
(いつになっても世話が焼けるんだから、2人とも)