16.祭りの後に※
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心の奥底から、誰のものでもない声が響く。
灯を追う少女へ厳かに応えを促す。
《全てを辿るか?》
《業を背負う覚悟があるか?》
全てとは。業とは。
言葉が何を意味しているのかはわからない。
けれど迷わなかった。固く頷いた。
瞬間、周囲が火の海に包まれた。
弱々しい灯は炎に呑まれて見失ってしまった。
途端に熱気に呑まれ息が苦しくなる。
「……、あ…つ、!」
突如現れた炎は夢だと思うことは許されない、強烈な感覚が身体を蝕む。目が痛い。皮膚が溶けてしまう。
身体の危険信号以上に、その魂へ数々の情景が、無数の思いが雪崩れ込んで来る。
あれは父の姿だ。兄の背中だ。
行かないで!と手を伸ばした瞬間に肉親の姿は消え、足元には知らないはずの見知った顔達が幾重にも倒れ伏している。
わたしを守ろうとしてくれた人達だ。
命を投げ打って、わたしを逃がしてくれた家臣や女中達だ。
記憶にない記憶が朱音の脚を竦ませる。
場面が直ぐに切り替わる。今度は初めて見るはずなのに見覚えのある、焼け落ちていく寺院だ。
数え切れない助けたかった人達が、血を流して倒れている。最期の苦痛に染まった表情が目に焼き付く。呼吸は更に苦しくなり、自分の胸元に手を宛てがおうとしたが、視線を落とした瞬間、己の右脇腹からも出血している事に気づいた。
内臓が出てしまっているのではと思うほど、大きく鋭利に裂かれていた。
血に塗れた身体。知らぬ間に己の手には日本刀が握られていて、やがて時の理に漏れず、己も人を殺めてきた事を自覚する。
悲鳴すら上げられない。
混乱するまま、地に膝が着いた朱音は呻く。
(ちちうえ、あにうえ……、こわい、苦しい…!)
助けを請う思いを他所に、炎の勢いが増した。
顔を伏せたままでも容赦なく全身を襲う業火と熱気に気を失ってしまいそうだ。
ガッ、と何かが朱音の身体を強く掴んだ。
首を掴まれた。身体が容易く浮く。
誰かがいる。視界が思うように機能せず、誰なのかはわからない。身動きが取れないまま命が削られていく。
けれど、これだけはわかる。
この腕を離してはいけない。絶対に。
大切な人を護る為に。大切な約束を守る為に…!
朱音は己の首を捕らえる腕を掴み返した。
両手で相手の手首と上腕をギッと握りしめる。
そうだ。この火薬の匂いを纏う腕が、この腕の主が…!
「………護る……わたしが、守る………離さない、絶対に……!」
見えない顔へ、睨みつける代わりに言い放つ。
この為に今日まで生きてきたんだ。この瞬間を制し、留める為に!
お前はわたしと一緒に、これで!
「――――――しっかりしろ!朱音ッ!」
朱音の首を掴んでいる人物のものではない声がした。
誰?誰だ。
見えない、知っている声のはずなのに誰なのかわからない。
両手の力を緩めぬまま、朱音は目を凝らそうとはする。業火は絶えず全身を焼いている。
「駄目だ!思い出しちゃ駄目だ!朱音…っ!」
力を込める朱音の腕が、別の誰かの掌に掴まれた。
すると、チャリン!と軽い金属同士が触れる音が朱音の耳に届いた。
瞬間、誰かに触れられている場所から風が沸き起こり、一気に吹き抜けた。
掌から生まれたかのような嵐が、周囲のおぞましい炎をうち払っていく。
ただの風ではない。これは熱を持った風だ。
熱いけれど温かさがあって、先の業火とは全く違う、まるで優しさが籠っているかのようだ。
視界が晴れてくると、打ち払った風にも炎が纏われている事がわかった。
この炎にも不思議と覚えがある。
赤く眩しい景色は壊れ、冬の夜空が戻ってきた。
浮かされていたはずの身体は地面にしゃがみ込んでおり、枯れ葉の刺激がふくらはぎに刺さる。
滝のように汗をかいた朱音は、呼吸が整わぬまま顔を上げた。
目の前の人物……彼の事も知っている。
「………さすけ……?」