16.祭りの後に※
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次々と灯されていくキャンドル達。
生徒達の感嘆が少しずつ大きくなっていく。
グラウンドの隅のベンチに腰掛ける朱音の位置からでもとても綺麗で、自然と見入ってしまった。
暗がりの中の無数の灯。
幻想的で、どこか懐かしい気持ちになれる。
こうして座っていると、確かに足の裏やふくらはぎの疲労感を感じる。心配してもらった通り、先に少し休んでおいて正解だったかもしれない。
じーっと。やがてぼう…と。光の群れを見つめていると少し眠気を感じ、一日動き通しだった朱音はつい目を閉じてしまった。
《……ついて来ていたのですか?》
不意に何処かから聞こえた声に意識が引き上げられた。
だが声の主の姿は見えず、周りを見回しても大半の生徒はキャンドルの所にいる。
うたた寝してしまった。まだ秀吉達の姿はないから、ほんの少しの時間だと思うが…。
《一人で屋敷を忍んで出ていくから。何処行くの?》
姿の見えない声は続いている。
今度は先の声より低い……男性の声だった。
《あなたにはお月様に近い場所でお話してもらいましたものね。……一緒にいきますか、さしけ》
見えない人物達の会話。不思議と不気味さは感じない。
すると朱音の目の前を先の小さなキャンドルと同じくらいの灯が、ゆっくり横切っていく。まるで人が移動しているような速さで。
考える間もなく朱音は立ち上がると、灯の後を追った。
***
「おーい、お忍び君!朱音見てない?」
間もなく全てのキャンドルの点火が完了する。生徒たちの様子と共にシャッターを切り続けていた佐助は、呼びかけられて顔を上げた。
きょろきょろと辺りを見回しながら慶次が尋ねてきていた。
「キャンドル運び出してる時に会って、その後旦那達と一緒にいるの見たけど?」
「夕方はぐれて、そのままこっちもドタバタして合流できなかったから、謝ろうと思ってんだけど……、グラウンドにいないみたいなんだよ〜…」
「……、」
そう言われて佐助もグラウンドを見渡すが、彼女の姿はない。点火に取り組んでいる幸村達の側にもいないようだ。
(運営委員として動いてるはずだから、この場を離れる事は無いと思ってたけど、)
裏方に何か取りに行ってるとか?生徒会の方の手伝いにでも行ってるのかも。様々な予測が立つが、先程の朱音の表情を思い出すとどうも引っかかる何かがあった。
一旦カメラを首にかけ直し、佐助は早足に歩き出した。
***
小さな灯が何処へ行くのかどうしても気になって、とうに学園の敷地内から出ていることに朱音は気づいていない。
惹き込まれたように、目の前の朧気な光の後を辿っていく。今は眠気も疲労感も感じず、まるでさっきまでの自分とは別人みたいだ。
先程聞こえてきた二人の会話は今も続いている。ただ最初のように何と言っているかまではわからないが、声色と語調からして二人が親しい間柄だということは感じ取れた。
内容はわからないまま、静かに朱音は耳を傾けて歩いている。
どうしてか懐かしく思う。
どこかで似たような心地を、最近感じたような気もするのだが……。
たった一人で夜道の深い方へ進んでいく。
足元に敷き詰まった枯葉が擦れる音も今は耳に入らない。