15.当日、夕暮れ時
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本日一番の疲労を感じている。
ふら、ふら……と歩く朱音の姿は、お化け屋敷から出た直後のそれとは比較にならないほど頼りない。
兄・忠朝が関与していると思われる体育館のパフォーマンス?も耳に入らなくなるほど集中して、半兵衛との轟速演劇修正に挑んでいたためだ。
合理的だが演劇部にとって神経逆撫でる言い回しばかりをかます半兵衛との仲裁をしつつ、脚本とセリフ中心に全ての内容を確認と変更……を実質30分未満で強いられればふらつくのも然りだ。
『本番は僕らが見張ってるから、君は巡回に戻っていいよ』と最後まで演劇部に隙を与えない半兵衛の提案には喜んで乗らせてもらった。朝から多くの人と関わってきた朱音だが、流石に一人の時間が欲しくなった。
そういえば家康達のステージもとっくに終わっていたはずだが、慶次は朱音の所へ戻ってこなかったと、気づいたのは既に体育館を離れた後だった。
思考フル回転の後は頭が回らないものだ。休息を求めて風通しの良い方向へ歩いていく。
時刻は16時を回っている。学園祭終了まであと一時間を切った。
タイミング良く、この時間帯の朱音の持ち場は正門周辺だ。満足気な表情の来訪者達の背中を見守っていると、少しずつ頭もスッキリしてきた。
(あれ……あそこにいるのは、)
帰っていく人々に紛れ見知った姿を見つけると、朱音は小走りで正門まで移動した。
「秀吉さん!」
「む……ろく、何故ここに」
「この時間はここの巡回担当なんです。秀吉さんは休憩中だと竹中さんから伺っていたのですが…」
「ちょうど終えた所だ」
話しかけられた瞬間の秀吉はどこか慌てているようにも見えたが、朱音が居合わせた事は偶然と知ると、普段通りの落ち着きに戻った。
秀吉の傍には折りたたみ式の机があり、その上にはアンケート回収ボックスがいくつか置かれている。選挙の投票箱のようにしっかりした造りの物だ。
来校時に渡されるパンフレットの中にアンケートが挟まれており、5段階式の簡易評価と共に、企画店グランプリの投票が出来るものとなっている。
「想定以上の反響でな。今日中に合算するのは難しいやもしれぬ」
「後夜祭もありますものね…」
「うむ。実に喜ばしい誤算よ」
複数置かれている回収ボックスだが、既に中身が溢れそうになっている。
秀吉はまちまちに入っている用紙を沢山ある所に纏め、新たに空きボックスを作ると、随分と重くなった回収ボックスを事も無げに抱えた。
「わたしも一つ持ちます!」
「重いぞ?」
「平気です!…て、本当に重い…!中身紙なのに、」
まとめて尚三つ分に及んだ満杯のアンケートボックスを持って行く秀吉の手伝いに名乗り出たものの、早速もたつきそうになる。
一つを両腕で抱える朱音に対し、秀吉は涼しげな表情で左右の腕で二つを持ち上げている。
「無理するな。俺一人で持って行ける」
「い、いいえ!力はあっても三つをおひとりじゃバランス取りにくいはずです!」
生徒会室で会えても、基本半兵衛に邪魔されろくに会話が出来ていなかった。そういう意味でもとても貴重なタイミングに立ち会えて朱音は上機嫌である。
回収ボックスは生徒会室へ持っていく。その間も数え切れないほどの帰路に着く人々とすれ違う。
「皆さん、楽しそうなお顔をされていますね」
「そうだな」
「色んなお客さんがいらしてましたし、秀吉さんもおねねさんをお呼びしたらよかったのに」
「………いたぞ。」
「えっ?」
数歩先を進む秀吉が放った肯定に朱音は思わずフリーズした。
足を止めた朱音にチラ、と振り返った秀吉はかなり珍しいタイプの笑顔を浮かべてみせた。
擬音にするならば……『ニヤリ』だ。
普段はこの手の話題を振れば、気まずそうな素振りを見せるというのに何故…?
カタカタカタカタカタと。違和感に突き動かされるまま、朱音は頭を高速で回転させ、結論に至る。
「な、まさか!秀吉さんが校門にいたのは!」
遊びに来てたおねねさんを見送る為だったんだ!
衝撃に呑まれる朱音を他所に、秀吉はえっほえっほと駆け出した。
妙に軽い足取りは確信犯の証拠だ。
からかう類の秀吉の逃走に、朱音は重たい回収ボックスにじわじわ体力を奪われながらも追いかける。
「なんで会わせてくれなかったのですか!わたしもおねねさんにお会いしたかったのに〜!!ひでよしさん、秀吉さんてばっ!!も〜っ!!」
「よもや回収ボックスも足りなくなるとはな。やはりこれも『6』用意すべきだったか」
「ああもう!なんでそんな意地悪言うんですか!待ってください、秀吉さん、秀吉さん〜!!」
厳粛なはずの生徒会長と元転校生による追いかけっこの図は、学園内で暫く話題になったという。