15.当日、夕暮れ時
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占い喫茶の紅茶で一息ついて、朱音はまた巡回に戻る。
時刻は間もなく15時。学園祭の終了時間は17時なので残り約2時間。時の流れはあっという間だ。
それでもまだまだ来訪者の数は衰えず、すれ違うだけでも幅広い年齢層が遊びに来てくれているようだ。
現在朱音が通る教室の前には『お化け屋敷』とおどろおどろしい書体で書かれた看板が飾られている。
何となく同じ世代くらいの入場者が多いようで、耳を澄ますと黒布の奥から悲鳴が絶えず聞こえてくる。
事前に各企画店の内容や予算、備品については運営委員として目を通しているため、どんな仕掛けがあるかは大方知ってはいる。実際がどうなっているかは入ってみないとわからないが、外から見ている分には好評のようだ。
そういえばこのお化け屋敷は理科室の人体模型と骸骨くんの借用希望を出していて、学園長と保健医のコスプレをさせると、ちょっと気になる内容も書いてあったような…。
「お?まつ!ろくがいたぞっ!」
「まぁ!ろくもお化け屋敷に来たのですね」
「腕章着いてるから今は見回り中じゃないかい?朱音、お疲れさん!」
記憶を辿っていると、馴染みのある声が聞こえてきた。利家とまつ、それに慶次がお化け屋敷前にやってきた所だった。
「お疲れ様です。皆さんお揃いで!楽しんでおいでですか?」
「ああ!やっぱり今年の学園祭は気合いが入ってるからどこも楽しいぞぉ!まつの焼き菓子なんて三年間の中で一番早く完売したんだ!」
「お陰様で家庭科部も好評で。去年より多く用意したのですが、飛ぶように売れたのでございまする」
「んで!こうして二人の自由時間がたっぷり出来たって訳だな!」
公衆の面前に構うことなく恋人繋ぎをしている二人の手首には、先程目にしたばかりの占い同好会のペアブレスレットがある。
慶次の言葉通り、青春を全力で謳歌しているようだ。
「慶次もおふたりと一緒に?」
「ううん!俺は朝から人手が足りない場所行って手伝ったり呼び込みとかしたり、結構学園内あちこち回っててさ。さっきやっと孫市先生に会えたからデート申し込んで〜……またフラれちまったけど、」
悔しさより今は楽しさが勝るようで、想い人に袖にされても慶次は笑顔だ。
それにしても学園内を飛び回っているなんて学内巡回生徒と大差ない気がするが、慶次は運営側には所属しておらず、ただのお人好しで行動しているようだ。(ひとつに縛られるのは嫌なんだ〜なんて以前言っていた。)
「で、たまたまそこで二人と会ってさ。お化け屋敷に行くって言うから着いてきたとこ」
「ちょ……っとだけ怖いが、これもまつと最高の思い出を作るため!行くぞ〜まつ!」
「はい、共に参りましょう、犬千代様!」
「……ところで朱音はお化け、平気なのかい?」
「どうでしょう……小さい頃テレビで見た幽霊が怖くてそれ以来全く…。そもそも入った事がないもので、」
「そっかぁ。因みに今日はずっと巡回してるとかい?」
「いえ、お昼頃に一時間ほど休憩しました」
「じゃあそれ以外ずっと仕事!?」
仕事ではありつつも、担当範囲の企画店に立ち寄る事も出来るからそんなに縛られているわけではない、と説明する前に慶次に肩をガシッと掴まれてしまった。
どうしたのかと彼の顔を見あげると、何か思案するように目を閉じ眉間に皺を寄せて数秒唸っていたが、パッと笑顔を浮かべた。
「なぁ運営委員さん、ちょいとここのお化け屋敷の中も巡回して行きなよ」
「え!?いえ、事前に内容や備品の書類チェックは出来てますし…」
「いやいやいや!ちゃんとその通りやってるかわからねぇだろ?布で隠されてるから外からじゃ見えねぇし!という事で!」
ぐいっと身体の向きをお化け屋敷の入り口に変えられ朱音は焦る。
「け、結構です!」
「先に行っててくれ、利、まつ姉ちゃん!俺はこのお堅い運営委員ちゃんと一緒に見回りするから!」
「わかった。出口で待ってるぞ!」
朱音が生真面目寄りの性格をしていることは利家とまつも承知しているようで、手を振って先にお化け屋敷の中へ入ってしまった。
「慶次、わたしは、その、」
「別にカップルじゃなくてもお化け屋敷入っていいんだから!久しぶりの探検って事で幼馴染みがお供してやるよ!ほら行くぜ〜!」
そういう事じゃなくてと言い返す間もなく、朱音は背中を慶次に押され、入り口に押し込められてしまった。