14.当日、午後
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最終的にはちかちゃと一緒がいい!に女の子の要求が変わってしまったが、紫の手乗り暁丸を追いお買い上げする事で何とかなだめられた。
親子を見送る元親の背中も嬉しそうだ。
「こりゃあ学祭後解体できねぇなァ……生徒会に交渉するか。なぁ朱音、あんた生徒会長と仲良いそうじゃねぇか。ここは一つ手を貸しちゃあくれねぇか?」
こんなに大きいと保存は難しそうですよ、と朱音が返す前に頼まれてしまった。
確かにあの女の子の喜びようを目の当たりにした身としては、元の廃材に戻すのは惜しい気がしてしまうが…。
「……秀吉さんへのお取次ぎくらいなら、」
「おう、頼むぜ!来年は、ちみっ子が乗れるくれぇ強度上げて、その次の年は大人も乗れるようにしてやるぜ!」
カハハ!と豪快に笑う元親は朱音と同じ2年生で、普通ならあと一年しかないはずだが…。そんな疑問が生まれたものの、難儀しそうな生徒会への交渉について掘り下げられても今は困るため、突っ込む事はしなかった。何か言われる前に元親へ挨拶をし、巡回を続けることにした。
***
午後からのグランドでは細々と案内する事はあれど、目立ったトラブルはなく、そろそろまた校舎内へと戻る時間となった。
野外運営の宿命、風に飛ばされてきた紙ゴミやプラゴミを目につくだけ拾うと、朱音は学園内にいくつも設置されたゴミ回収場の一つへ向かう。
問題なく分別し終えた視線の先………体育倉庫の方に人影が見えた。
学ランを着ている為、何かの準備をしている生徒だろう。だが彼の手元の奇妙さに気づくと、朱音は慌ててその人の元まで駆けて行った。
「どうなさいましたか!?」
「え?なんだお前さんは?」
「手!何故拘束されているのですか?!」
両手首を木板で拘束されている男子生徒に何事かと詰め寄ったが、本人は特段困っている様子はない。
いわゆる手枷からは鎖が伸びており、先端にはタイヤが付いている。時代懐かしな体力作り装備を学園祭当日にしているのはやはり妙だ。
両手が塞がっている上に、更に台車を拵えて何かを運ぼうとしているトンチンカンさに朱音は事情を訊ねる。
「なんじゃ、お前さんが例の転校してきた運営委員か。なら知らんのも当然か、」
「その手…もしかして今日何かパフォーマンスされるのですか…?」
「好きで付けてるんじゃないやい!」
不自由そうな割には器用に台車を引っ張っている為、朱音は益々この人物の事がわからない。
「小生はもうずっとコイツを付けられたまま生活してるんだよ。オマケに学祭当日まで生徒会の雑用じゃ…」
ため息と共に説明され、よく見ると台車の上には見覚えのあるキャンドルが大量に乗せられていた。
「後夜祭用のキャンドル…?」
「らしいな。手が回らないから夜までに搬入口からこの倉庫まで運んでおけとよ。これで何回目の往復かねぇ…」
「秀吉さんがそんな事を…?」
「指示して来たのは半兵衛と刑部だな。まぁ、秀吉の奴も承知してるだろうがね」
「やれ暗よ。お喋りに花を咲かせるほど余裕があるとは畏れ入った」
手枷の生徒と話している背後から別の声がして振り向くと、宙に浮いた座布団に胡座をかく男子生徒がこちらにやって来ていた。
「げげ、刑部…!」
「そこな御仁は太閤の昔馴染みか……三成も一目置くおなごに声を掛けるとは、実に大胆なことよな、」
顔や手足には包帯が施され、何より世にも奇妙な座布団で浮く男子生徒。直接話した事とはないとはいえ、朱音も彼の事は記憶している。
時折学園内で三成と共にしている姿を見かけていた。
「ち、違う!小生じゃなく、このお嬢さんから話し掛けてきたんじゃい!」
「運営部のエースを足留めするとは……やれ、生徒会への仕返しにしては中々の上策よ」
『半兵衛様と刑部に渡すため多く常備している。貴様に一つ渡すくらい問題ない』
『蜂蜜大根の瓶詰めをこんなに…?重くありませんか?』
『平気だ。多すぎる時は刑部に預かってもらっている』
過去の三成とのやり取りを思い出しつつ、その真意に納得する。曰く刑部がこの人であったとは。
朱音が納得している間にも、手枷生徒と刑部の口論は激しくなっていく。
「おっと、運営部よ。主が気にする事はない。こやつは好きで生徒会の雑用に勤しんでおるのよ」
「んな訳あるか!そもそもお前さんが手枷の鍵を隠しやがるから…!」
「ところで先程から三成が中学生に付き纏われておってな。何があったかは預かり知らぬが、主も見かけたら助け舟を出しやれ。さァ主も持ち回りがあろう、行った行った」
「は、はい。その…お勤め、お疲れ様です!」
何だか覚えのある情報を聞きつつ、確かにいよいよ次の移動時間が迫っていた。
刑部なる人物にまともに相手にされていなさそうな手枷生徒の詳細も気になるものの、挨拶だけして朱音はまた駆け出した。