14.当日、午後
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「あの真田さんが、女性とこうも気兼ねなくお話されているところを見る日が来るとは思いませんでしたわ」
「やはりそうなのですか?」
「ええ。あなたが素敵なお人だからかもしれませんね」
「そうでしょうか…?」
転校初日から度々言われる『真田幸村にしては珍しい』という朱音への物腰。
中学時代に一度会っただけでは、大きく態度を変えるには至らないはずだ。人にそれを指摘された瞬間の幸村は慌てるものの、やはり基本的に朱音へは普通の友人として接しているように思える。
去年までマネージャーを担っていたひかりですらもそう言うのだから、本当に珍しい事なのだろう。不思議な心地になりながら、よくばりセットのカレーを頬張っている所に声が掛けられた。
「それは俺も気になる所だな」
「あら、貴方は野球部の…」
後ろから朱音の肩に腕を乗せてきたのはエプロンを着用した政宗だった。
重さは感じないものの、のしかかるような姿勢でひかりとの話に混ざってきた。
「美味いか、朱音?」
「美味しいです。寒空の下ではどちらも温まります!流石ですね、伊達シェフ」
「Ha!将来の選択肢にシェフを入れるのも悪くねぇな」
料理に関心がある政宗は今年の野球部カレーのレシピを担当したそうだ。
以前幸村に指摘していた通り、新鮮な野菜がごろごろ入ったカレーは口に入れる度に様々な野菜の風味がしてとても美味しい。ほうとうも同じく、野菜と麺どちらも食べ応えがあり行列も納得の味だ。
「で、あの真田とはどういう関係なんだよ、irregular girl?」
「クラスメイトで大切な友人です」
「………」
もっとなんか隠してるだろ、的な視線を政宗が寄越してくるが、本当にそれくらいしか説明のしようがなく朱音も苦笑する。
だが、確かに。彼や佐助と話していると時折懐かしさにも似た感覚がする。出会って数ヶ月とは思えない程に親しみを覚えているかのように。
どうしてだろうか。大切な友人。大切な、大切な……。もしかしたら、幸村もそんな感覚なのだろうか。
「おい、こぼすぞ」
「え?あ、わわ…!」
振り返っている間にぼーっとしていたらしい。スプーンを取り落としそうになっているのを政宗が気づいてくれた。
「もしやお疲れですか?午前だけでもあんなに頑張っておいででしたから…」
「い、いえそんなことは!でも…ちょっと張り切り過ぎてたのかな…?」
「Well done.お前割と無茶する性格だって聞いてるぜ。マジでお目付け役がいるってんならこの俺が…」
「政宗殿!またしても貴殿はッ!!」
狙い済ましたタイミングで、お約束の怒号が割り込んで来た。
政宗も承知しきっているようで、驚くことも無く振り返った先には、両手に皿を持った状態でずんずん近づいてくる幸村の姿があった。
「ったく、地獄耳か何かか?」
「ぐ、偶然でござる!某はお館様からの差し入れを持って参った次第!」
「差し入れ?」
「然様、このわらび餅をお二人にと!」
龍虎DININGの屋台入り口の方を見遣ると、本日もとっても目立つ赤ジャージと角兜の教師が腕を組んで佇んでいた。ド派手な格好ゆえに学園外部の人々の注目を集めてしまっている。
そんな中朱音とひかりの視線に気づいたようで、お館様はパチンとウインクをしてみせた。
きなこと黒蜜な掛かるみずみずしいわらび餅が乗った皿を、幸村が丁寧な仕草で置いてくれた。
「Dessertまで拵えてやがったとはな、サッカー部」
「む、むむ……これは実は某らも直前に決めたのでござる…一昨日お館様がめにゅー表を見て、甘い物も欲しいと…」
「………………………あら、そんな直前に?」
知り合って間もない朱音でも気づいた。温和な印象のひかりの声色が、あからさまに冷え込んでいる。
「土壇場になって、学生達にそんな無茶を強いるなんて…あらあら…」
ひかりの異変に幸村も顔を引き攣らせているが、必死になだめようと声を上げた。
「ち、違い申すひかり殿!お館様は、そ、その、提供めにゅーのばらんすをと…」
「わらび餅、きな粉、それに黒蜜……どれもあの方の大好物ですわねぇ」
滑らかな動作で立ち上がったひかりは笑顔を浮かべたままだ。だが如何な弁解をも聞き入れないオーラを纏っている。
「申し訳ございません、私は武田先生に用が出来ましたので、お先に失礼いたしますわ。お昼からの巡回も頑張ってくださいね」
「は、はい……」
差し入れのわらび餅は幸村に譲り、礼儀正しく朱音に頭を下げてから、ひかりは赤い角兜を目指して真っ直ぐ進んで行った。やっとお館様からもひかりの形相に気づいたのだろう、心做しか顔が青ざめ立ち去ろうとしたが既に腕を掴まれていた。
お館様は無論、朱音達もおずおずと状況を見守るしかなかった。
「どうも……お話したい事がございます、信玄叔父様」
「ぬ、ぬぅ……っ!」