13.当日、午前
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平和すぎて退屈な世。
意識の底にある遠い過去のような記憶は、この世の実情とはあまりにもかけ離れている。
もしかしたら己だけでなく、多くの人間が同じ物を持っているのかもしれない。いや、きっと持っているのだろうと、妙な確信がある。
己だけが導かれるように思い出したのは、あの縁が故だ。
けれど縁の糸を握っているはずの相手すらも記憶の蓋は未だ閉じたまま。
(やっぱり、これでいいんだ。今更になって……)
会って話せる。触れる事も出来る。同じ世界で息をしている。
それだけで、もう十分すぎるくらいに恵まれているのだと。
誰も見ていない所で小さく息を吐く。
それも束の間、気持ちを切り替えると迷わず歩き出した。
***
「………むむむ、」
「どうした。緊張しておるのか、ろく」
「いえその、何かやり忘れたり、連絡し忘れたりしていないか不安で…」
「いや万事整っているぞ!運営委員のチェックリストも全て埋まっているではないか!自信を持て!」
「そうよ。皆で準備してきたんだから、大丈夫。ね?」
先輩方にフォローしてもらっているが、開始前特有の間の持たなさに翻弄される朱音はその場で小さく足踏みをしている。
それを寒さに震えているのだと勘違いした寡黙な先輩から、カイロを手渡されてしまった。
(す、少し落ち着いた方がいいかも……皆さんに心配されている、)
「腕章を付け忘れているじゃないか。しっかりしたまえ。君たち運営委員も学内巡回があるんだから」
いよいよなタイミングで、よりにもよってな相手からチクリと刺されてしまった。思わず眉間に皺を寄せたまま『学園祭運営委員』と記された腕章を腕に留める。
「間もなく狼煙を上げる刻限だ。行くぞ、皆」
生徒会長が声を上げると、教室内の面々は一斉に動き出した。
朱音と同じように緊張している者もいれば、待ってましたと言わんばかりに期待に満ちた面持ちの者もいる。
(本当に今日が来たんだ……始まる、)
「おい、朱音。試合前の選手みたいに表情が硬いぞ。大丈夫か?」
無意識に肩を強ばらせていた朱音の背中を、かすがが擦りながら隣を歩いてくれる。
つくづく周りに気にかけてもらってばかりで流石に申し訳なさが芽生えてきた。
「………全く、仕方ない奴だ。アイツの出番だな。って肝心の奴は何処に行った?」
キョロキョロと見回すが探し人は見当たらないまま、やがて一行は正門前に到着した。
門の前には既に大勢の保護者と地域住民、他校生が整列がいるほど集まっていた。
「………あ、やっと来た!もう待ちきれないって、お客さん達とんでもない熱気だよ!」
「……これはすごいね、秀吉」
「うむ、既に例年以上の賑わいよ」
開始を目前に、待ち侘びる人々を目にした生徒会の二人が感嘆している。
時間をかけて準備してきた運営委員の面々もも、驚きつつ喜びを隠せない雰囲気だ。
「お前、いないと思ったら何やってるんだ」
「記録写真撮りに来ただけだったんだけど、これだけ人数集まっちゃうと、警備の人だけじゃ回らなさそうだったからさ」
(すごい沢山の人だなぁ……列の整頓終わったら急いで宗麟様の雑よ…お手伝いに戻らなきゃ)
なんて警備の誰かがこっそりぼやく傍ら、かすがは朱音を探し人こと佐助の前へ連れていった。