13.当日、午前
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「だからやろう、一緒に!儂等でやり遂げるんだ!」
『ギュンギュン!ギューーーイ!』
「………なんでまだ諦めてない」
「儂は知ってるぞ忠朝!お前は最後はきっと儂等と共に進んでくれると!さぁ共に絆のラップを!」
クラスや部活の企画店には縛られない、つまるところ有志参加が最高学年たる三年生の原則だ。だがこうして、終業式後の準備期間にも登校し、熱烈なアプローチを受け続けているのは、何だかんだ学園内で注目を浴びる忠朝だ。
パッと見は物静か。或いは怒らせたら怖そうな雰囲気を醸し出しているが、実は押しに弱く人情み溢れる人物であると、一度助けてもらった家康と忠勝は熟知している。それ以降見かけては話しかけ続けた甲斐もあり、忠朝の感情の変化にも少しずつ気づけるようになった。
つまるところ『あと一押しで承諾してくれる』予感がしているのである。
いや、正確に言うならば『断り続けるには忠朝の良心が痛み始めている』といったところか。
「……何故ラップ。そもそも歌も得意ではない」
「島津先生がザビーラップ…?っていうのに嵌っているんだ!学園祭で人を集めて披露したいという事で、儂らにも声がかかってな!楽しそうだから忠朝にも一緒にやれないかと思ってたら、島津先生からも是非誘って来いと言われたんだ!」
現在学園祭当日まで指折りの日数。しかし。
どうもその口ぶりから肝心のラップの練習が進んでいないような気がするんだが……、と訝しげな視線を忠朝が送り付けても家康は胸を張って交渉を続けていく。
「お前の最後の年だから、何か思い出を残したいんだ!一緒に舞台に上がろう!」
「上がらなくていい…!」
なんだって人目を集めるような事をしようとするのか。忠朝は頭を抱える。
ギュイ、ギュイン!と忠勝も忠朝に向かって何かを訴えている。まともに取り合った覚えがないのだが、どうも最近になって忠朝この機動音が何を伝えたいのか分かるようになりつつある。妙に名前が似ているせいだろうか。
顔を覗き込むように話しかけてくる忠勝をどうにも無下にしきれず、忠朝は視線を逸らしつつも応えた。
「………お前たちのお陰で、かなり知れ渡っていると思う」
「そうなのか!じゃあ尚のこと」
「お前たちのせいで、変に注目され続けているという意味だ!」
忠朝にとってはありがた迷惑でしかないこの押しかけ後輩達は、いつだって眩しいくらいの眼差しを寄越してくる。
たった一度助けただけなのに、とてつもなく懐かれてしまった。頭を抱えながら椅子に腰掛けて、改めて状況だけは聞いてみる事にした。
「結局、舞台で何するんだお前たちは」
「ラップを披露する島津先生のバックダンサーだ!」
「DJですらないのか」
『ギュンギュンギュン!』
「物知りではない!なんで舞台上がるお前達が把握していない!?」
「確かにDJが居てこそか…!流石だ忠朝!じゃあ是非儂らより音楽の成績も良いお前に」
「何処で知ったんだ…」
「なんだかんだ、こうして心配して話を聞いてくれるじゃないか。やはりお前は良い奴だ」
「………出ないぞ」
懐かれること自体は嫌いではない。だがどうも関わりを持つと、己の領分の外を求められてしまい、つい拒否してしまう。
応じた回数など優に超えるほど断ってきたはずなのだが、不思議と折れない家康と忠勝に時にはイラつき、時には安堵を覚えたり…。
「じゃあ本番見に来てくれ!土壇場で舞台に上げたりはしないから、頼む!」
「……それなら、」
かなり譲歩させたにも関わらず、承諾を得られた途端に パァ!と晴れやかな笑顔を見せた家康に忠朝は言葉に詰まる。
多めに刺しておきたかった釘を放棄させてしまう程の屈託のない笑顔に、毎度押し切られてしまう原因に思い至った。
『あにうえと一緒がいいの!待って待って、あにうえ〜!』
(………似ているからか。感情に素直で、他者に真っ直ぐ向かってくるところ、)
道理で初めて会った時から覚えのある感覚がしたのか、と忠朝は納得したように瞳を伏した。
少しだけ下がった頭は、すかさず忠勝に撫でられた。