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コーヒーが冷めないうちに

歩「僕不知火歩しらぬいあゆむって言うんですけどちょっと愚痴って良いですか~?」

マスター「良いですよ、聞きましょうか。」

歩「僕さぁ~自分で言うのもアレだけどこう見えて警視庁の結構エリートなんすよ、んで部下からも程々に慕って貰えてるんだけどさ?」

歩「最近な~んか上司が俺の事良く思ってないみたいで結構悪口言われるんすよ~」

歩「やれ仕事出来るからって調子乗るなだのやれその程度でエリートなんて馬鹿らしいだのなんなんすかねマジで。」

マスター「それは…嫌ですねぇ…」

歩「僕の方があんた等より何倍も仕事して事件解決の手伝いしますよ~ってね、んで僕考えたんすよ。」

歩「どうやったら上司を黙らせられるか?んでとりあえず僕も色々試したんすよ、そしたらいい方法が見つかってさ~」

マスター「何をしたんですか?」

歩「まずは上司に紅茶を渡す事にしたんすよ、やっぱりまずはプレゼントで好感度上げってね。」

歩「ちょっとアレンジに輪切りのレモンを入れてレモンティーにしてみたら上司も気に入ったみたいで珍しく褒められたね~」

歩「ま、『ようやく君も我々に対する礼儀が分かってきたようだな』みたいな上からだけどさ…」

マスター「マシにはなりましたが…」

歩「それから数日後上司が最近料理に凝ってるって噂を聞いて調味料の詰め合わせを送ったんすよ、喜んでもらえる様に少しおまけを入れて渡したんすよ。」

マスター「おまけとは?」

歩「まぁまぁ、それは後で説明しますから。」

歩「そんな感じで地道な好感度上げを何か月もしていたら上司から『君、料理とかするのかい?』って聞かれて『しますよ!』って答えたら今度上司の家で行われるパーティに誘われたんすよ。」

歩「その頃には大分打ち解けていて僕もめっちゃ準備していったんすよ~」

マスター「ほう、努力が実を結んできたんですね。」

歩「パーティ会場の上司の家に着いたらまず家で作って来たレモンティーといくつかの料理を渡したんすよ。」

歩「例えば『ルバーブの葉とルッコラ・サニーレタスを入れたサラダにピーナッツとアーモンドを使ったドレッシングをかけた物』『ジャガイモをまるごと使ったフライドポテトにチーズと蜂蜜で作ったディップソース』他にも色々作って持って行ったんすよ。」

歩「そして上司たちも喜んでその料理食べてくれて~その日以来やっと誰も僕に悪口言わなくなったんすよ~」

マスター「それは良かったですね。」

歩「はい!やっぱりしっかり調べて良かったっすね~食べちゃいけない物。」

マスター「………どういう事ですか?」

歩「実は、紅茶に含まれるカフェインとレモンの皮に付着している防カビ剤(OPP)が合わさると発がん性物質になるんすよね。」

歩「それから送った調味料には細かく磨り潰したサクランボ・リンゴ・ビワの種の粉末、これらは多少差はあれど大体大量に摂取すると毒素により死に至る可能性があるんすよ。」

歩「調味料のうちいくつかの中身をその粉と入れ替えたからなぁ~料理に使ったら結構危ないと思うすよ?」

歩「更にルバーブの葉も胃痛、下痢、吐き気、嘔吐及び腎臓損傷と言った中毒症状もあるし過去には死亡例もあるんすよ。」

歩「ピーナッツとアーモンド・チーズと蜂蜜もアレルギーがあって上司たちはそれぞれこのアレルギーがあったんすよ、しっかり調べてしっかり入れておきましたよ~」

歩「そしてジャガイモまるごと使うなら当然芽は取らない方が無駄が無いんすよね、だから当然そのまんま使いました。」

歩「そしたらどうなったと思います?み~んな死にましたよ!嬉しいなぁ~嬉しいなぁ~僕を悪く言う奴等に一泡吹かせてやりましたよ!も!じ!ど!お!り!」

マスター「なるほど…プレゼントと偽り少しずつ毒を盛っていった…と…」

歩「そう、でもねぇ…全部が全部が上手く行くわけじゃねぇんだわぁ…」

歩「この一件を知った警視庁が捜査に乗り出し、その結果僕はあっけなく捕まってしまった…そりゃあんだけ死んだ中僕だけ生き残ったら変すよねぇ…」

歩「だから僕は投獄されてその後死刑…あ~あ、エリートって何なんだろうね?世界の為皆の為全力を尽くしたのに我儘一つ通して貰えないって辛いすよねぇ…」

歩「でもねマスター?僕はこの選択をして悔いはないすよ。」

マスター「それは何故ですか?」

歩「これ以上僕の様に真のエリートがろくでもない腐り果てた金の亡者に虐げられるような世界であってならないっ!だから僕のこの行動は間違ってないっ!」

歩「僕がここで彼らを殺した事により彼らの代わりになった人がまともな人間であるかもしれない、そうなったらきっと次の人達が楽しく・正しく・平和に過ごせる様になるっ!僕はそう思ってるんすよ。」

歩「世の中の善と悪にはバランスが大事、だからこの犠牲は必要だった………僕は間違ってない、貴方なら分かって貰えますよね?マスター。」

そう言うとさっきまで居たカウンター席から男は消えた、跡には空っぽになったコーヒーカップと飲食店向け資料入りと書かれたトランクケースと『善悪のバランス』と書かれた本が落ちていた。

マスター「………ご来店、ありがとうございました。」

マスターはそう言って空のカップとトランクケース・本を回収して店仕舞いの用意をした。
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