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コーヒーが冷めないうちに

僕の名前は宮田雄介みやたゆうすけ!まだ小学生なんだ。

僕ね、そっくりな双子の弟が居るんだよ!宮田優斗みやたゆうとって言うんだけどさ?
僕と優斗はとっても仲良しでいつも一緒に遊んでたんだよね、公園とか一緒に行ってたし服もお揃いなんだ~
でね、何日か前の話なんだけど………

雄介「優斗~!公園行こうぜ!」(優斗の部屋にはいる)

しかしそこに優斗の姿は無かった…
ランドセルや勉強をしていた形跡はあった為恐らくそう遠くまでは行っていないと思われた。

雄介「あれ?お母さんに聞いてみよう。」

………

雄介「お母さーん!」

母「ん~?どうしたの。」

雄介「優斗知らない?一緒に公園行こうと思ったんだ。」

母「さぁ?知らないわ…?」

雄介「分かった!じゃあ先に宿題してようかな。」

それから雄介は宿題をして優斗の帰りを待っていた。
………しかし、優斗は宿題が終わっても・おやつの時間になっても・夜ご飯の時間になっても・父親が帰って来ても優斗は帰って来る事は無かった…

雄介「ねぇ、お母さん…優斗大丈夫かな…?」

母「うーん…」

父「どういう事だ…?」

雄介「やっぱり僕探してくるよ!」

雄介は家を飛び出して近くの公園や駄菓子屋、優斗が居そうな場所を片っ端から探した。
………結局今日、優斗は帰ってこなかった…

そして翌日、雄介は探し疲れて玄関で寝てしまった所を母親に発見されてベッドに連れていかれていた。

雄介「う…うーん…はっ!優斗は!?」(布団から飛び起きて優斗の部屋を見に行った)

しかし、その日は少し様子が違っていた。
優斗の部屋がある場所に扉が無かったのだ、後から消した…と言う訳でも無く本当に扉が無かった事になっていた。

雄介「あれ?優斗の部屋が…無い…?」

母「あら、今日は早起きなのね。」(朝食を作っていた)

雄介「お母さん、優斗の部屋どうしたの?」

母「それって誰の事かしら?」

雄介「え?優斗だよ!僕の弟でいつも一緒に居た…」

母「弟って…貴方一人っ子じゃないの。」

雄介「え…?」

母「確かに雄介は前から『弟が欲しい!』って言ってたものねぇ…きっと夢でも見てたのよ。」

雄介「違うよ!だって…ほら!」(ランドセルから写真を取り出した)

その写真は学校の運動会で家族と一緒に取った写真だ。
勿論優斗も写っていた筈だが………

母「ん?お母さんとお父さんと雄介の三人じゃない。」

雄介が改めて写真を見ると優斗が居た筈の所に何故か優斗が居なかった。
しかしそこには明らかに人一人分のスペースはあった。

雄介「でも…そんな訳無い…」

母「ほら、朝ごはん食べて身支度して学校行ってきなさい!今日はテストあるんでしょう?」

雄介は色々思う事はあったがとにかく今は学校に行く事にした。
雄介は学校に行く途中に同級生達に優斗の事を聞いたが皆口をそろえて「知らない」と言っていた。
結局、学校でも一切の手掛かりを得られないまま下校時刻になった。

雄介「優斗…どこ行っちゃったんだよぉ…」(半泣き)

雄介「………また…行ってみようかな…」

雄介は昔から嫌な事や辛い事があった時必ず行く場所があった。
それは家の近くの小さな山の頂上にあるとある神社だ。
子供が一人で行くには割と階段の段数も多く大変ではあるが神社からの景色が良い為知る人ぞ知る穴場スポットではあった。
ここへは最初両親と初詣に来たのが始まりだった、それから雄介は辛い事があるとこの神社に来て神様にお参りをするのだ。

雄介「はぁ…はぁ…疲れた…」(神社まで来た)

雄介「お賽銭…えいっ!」

神社の賽銭箱に5円玉を投げ入れた。

雄介「(二回手を叩く)優斗が見つかりますように…」

雄介がお参りをしていると後ろから声をかけられた。

???「おっ、また来たの?」

雄介「奈菜姉ぇななねぇ…あっ!そうだ奈菜姉ぇ!」

奈菜「ん?どうしたの?」

雄介が奈菜姉ぇと呼んでいるのは本名「南谷奈菜みなたになな」この神社の所有者の娘であり第十三代巫女である。
誰に対しても分け隔てなく接する優しさと無垢な笑顔が綺麗な彼女はこの近所の子供達から親しみを込めて「奈菜姉ぇ」と呼ばれている。

雄介「僕の弟の優斗の事知ってる!?昨日からずっと行方不明なんだよ!」

奈菜「えっ!?優斗君行方不明なの!?」

雄介「うん!しかも皆優斗の事忘れてるみたいで…(ランドセルから写真を取り出す)ほら!この写真にも優斗が写ってないの!」

奈菜「えっ…?ほ、本当に写ってない!?」

雄介「奈菜姉ぇ…僕どうしたらいいんだろう…」

奈菜「………私、心辺りあるかも…」

雄介「本当!?」

奈菜「実は昨日優斗君がここに来たんだよね。」

雄介「えっ!?優斗が来たの!?」

奈菜「うん、それでお参りをして行ったんだけど私この時間に来るなんて思って無かったからちょっと違和感を感じてさ…」

奈菜「そこの物陰から見てたんだよね、そしたら優斗君がこう言ってたの。」

………
……


昨日の優斗は神社に来てお賽銭を投げてから神社の方に向かってこう言っていた。

優斗「僕はもう十分幸せです…階段を下ります。」

………

奈菜「優斗君はそう言って帰って行ったの、で帰り道って言ったらあの階段じゃん?」

奈菜「もしかしてあの階段に何かあるのかも…一緒に見に行く?」

雄介「うん!行こう!」

二人は神社の階段を一段一段降りながら注意深く辺りを探した。
しかしどう見ても階段に異常な所は無く二人は一度神社に戻って来た。

奈菜「うーん…やっぱり違うかぁ…」

雄介「………ねぇ、奈菜姉ぇ?優斗が来たのって何時だったか分かる?」

奈菜「え?確か…22時以降だったとは思うけど詳しい時間までは…」

雄介「君のお父さんって今いる?もしかしたらこの神社と22時以降と階段に関する何かを知ってるかもしれない。」

奈菜「もしかして都市伝説的な事?聞いてみる価値あるかも!………なんかちょっとワクワクするね♪」

雄介「でももし本当だったら…うぅ…」

奈菜「おいで、お父さんなら今家でお昼寝してると思うから。」

………
……


奈菜「ここがお父さんの家、靴揃えてね。」

雄介「はーい。」

奈菜「お父さーん!ちょっと良いー?」

奈菜父「おうどうしたー?(リビングから出て来た)ん?この坊主どっかで見たような…」

雄介「家族で初詣に来たりたまにここからの景色見てたりしてます。」

奈菜父「あぁ~もしかして宮田君所の?こりゃまたどうしてここに来たんだい?」

奈菜「雄介君の弟の優斗君が行方不明なの、それでお父さん…この神社で22時ぐらいに階段降りると何かあったりする?」

奈菜父「ん?その条件………なぁ、雄介ぇ…ちょっと聞いても良いか?」

雄介「な、何?」

奈菜父「おじさんな、出来ればこの話はしたくないんだ…誰も幸せにならないからな。」

奈菜父「どうしても知りたいって言うならお前さんにその覚悟があるか問いたい。」

奈菜父「覚悟は…あるか?」

雄介「………あります…優斗の為なら!僕はどんな事だって乗り越えます!」

雄介「だってあいつは僕のたった一人の弟だから…兄である僕が守ってあげないといけないんです!」

奈菜父「………よう言った、それでこそ漢だ…全てを話そう。」

奈菜父「この神社にはとある神が祀られている、この神は太古の昔この地に根付いた信仰の対象であり縁結びの神とされた。」

奈菜父「しかし同時にこの神は良くない一面もあった…それはこの神の加護を受けた者は子供が出来ない、正しくは必ず流産すると言う物だ。」

奈菜父「そしていつしかこの神自身も一定の周期で生贄を欲する様になったと言われている、そしてその生贄と言うのがその年に流産してしまった子供だ。」

奈菜父「その生贄の儀は死した子供をこの神社の階段から22時から23時までの間に落とすと本来無い筈の階段の先に落ちていくという物だ。」

奈菜父「だがその儀式は神社の所有者一人で行わないといけない上このような時間である為基本は誰もその儀式を見た人はいない…」

奈菜父「一説によればそんな物は無いとさえ言われているが…先代、奈菜のおじいちゃんである南谷修二みなたにしゅうじは生贄の儀を執り行ったらしい。」

奈菜父「その時、死体は階段を転げ落ちるにつれバラバラになっていき徐々に肉質は柔らかく骨も砕けていった…そして最下段に付いた時地面の中に吸い込まれる様に消えてしまったという。」

雄介「でも…優斗は生きてた筈じゃ…」

奈菜父「………雄介、おじさんもあまり言いたくはないがこの一件の顛末はこう言う事だと思う。」

………
……


あの日、雄介は家に帰ってから優斗が居ない事に気付いた
………いや、正しくは最初から優斗は居なかった…それもその筈、優斗は『既に死んだ子供の霊』であったからだ。
何処へ行くのも常に一緒と言うのは仲の良い兄弟にはありがちで服装が似ているのも兄弟にはよくある事だ、しかし優斗の事で一つ不自然な事がある。
それは雄介がどれだけ優斗の事を話題に出しても皆優斗の名前を口にしていないのだ。
つまりこれは最初から雄介以外には優斗の存在が見えて居なかった可能性がある、そしてこの生贄の儀では生まれる事すら叶わなかった子供が無惨にも身体を打ち砕かれて消えていった…当然未練のある霊の一つや二ついてもおかしくはない。

そしてある時雄介はこの神社に登った、賽銭を投げて神様に祈った。
「弟が欲しい」その時、この地に居た未練のある霊が雄介の存在しない弟として現れた…
雄介はその霊を優斗と呼び姿・形・服装等は自分を投影していた、だから雄介には双子の弟が出来た様に見えたのだろう。

雄介はそれから優斗といつも一緒に居たが傍から見れば存在しない物に話しかけてる様にも見えた、だから次第に皆雄介を避ける様になり気が付けば彼ら二人の邪魔をする様な同級生は居なくなり余計に雄介が優斗が何者か気づくのが遅れてしまった。

しかし奈菜だけは違った、彼女は巫女である為他の人より霊感が強い。
だから居ない筈の優斗の事を見ており当然普通の人間だと思っていた。
運動会の写真を見せて貰った時優斗が居た筈の場所に何も映っていない事に気付き彼女は「優斗が幽霊だった」と真っ先に気づいた、しかしそれを伝えるのはあまりにも酷だった。
今までの会話から雄介にとって優斗は本来存在しない筈の弟でありながらかけがいの無いたった一人の弟であったからだ。
雄介が成長するにつれて徐々に純粋さを失っていき次第に見えていた筈の優斗が見えなくなる事は予想が付いたがその事をここまで悲しんでいる雄介に現実を突き付けるのは彼女の優しさでは無理だった…
そして彼女は悩んだ末一つの嘘を付いた…それがこの神社にあるとある噂にかけて優斗が生贄として消えてしまった事にしよう、そう思った。
………だが一つ重要な事を奈菜は知らなかった、それは生贄の対象が死んだ子供であった事だ。
奈菜自身この生贄の儀は知っていたが詳しい事は覚えておらず生贄の対象を「子供」だと思っていた、だから優斗がそれに選ばれたのだという話にしたかった。
そして奈菜の父はその条件を聞き「生贄の儀ではあるが…生贄には死んだ子供でなければいけない筈」と思いその時全てを理解した上で雄介の為にも真実を伝える事にした。

………
……


奈菜父「奈菜、お前さん…本当は見てないんだろう?」

奈菜「………ごめんねぇ…雄介…」

雄介「えっ…って事は優斗は…居ないの…?」

奈菜父「あぁ、優斗なんて最初から居なかったんだ…」

雄介「でも…僕……あぁ………うあああああ!!!」



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優斗「………マスターさん、僕雄介に悪い事しちゃった…」

優斗「でも…あんなに僕の事大切に思っていてくれたなんて…僕、幸せ者だなぁ…」

そう言うとさっきまで居たカウンター席から子供は消えた、跡には空っぽになったコーヒーカップと数滴の零れた牛乳と『いつか消える僕へ』と書かれた本が落ちていた。

マスター「………ご来店、ありがとうございました。」

マスターはそう言って空のカップと本を回収して店仕舞いの用意をした。
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チップ