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コーヒーが冷めないうちに

美波「私の名前は斎藤美波さいとうみな、美波って呼んで頂戴。」

美波「それで私貴方とちょっとしたゲームがしたいのよ♪乗ってくれるかしら?」

マスター「えぇ、良いですよ。」

美波「じゃあ貴方のお名前を教えて?」

マスター「………さぁ…何だったか…」(名前は言わなかった)

美波「あらあら恥ずかしがり屋なのね、まぁ良いわ。」

美波「それでマスター、私がやりたいゲームは今私が一番欲しい物を当てるクイズよ。」

美波「もし当てる事が出来ればイ・イ・モ・ノ・あげちゃうわよ♡」

マスター「ルールはどうします?」(顔色一つ変えない)

美波「あぁんいけず、もうちょっと反応してくれても良いじゃないの~」

美波「ルールはある程度はいかいいえで答えられる質問をして私が欲しい物を当てるだけ、判断が難しい所はある程度解説するわ。」

マスター「質問の回数に制限などは無くただ純粋に当てに行けば良いのですね?」

美波「えぇ、その通りよ♪それじゃあスタート。」

マスター「その欲しい物は生きている物ですか?」

美波「はい。」

マスター「その欲しい物はお金で買えますか?」

美波「んん~まぁ、はいかな?」

マスター「部分的にはいと言った所ですか?」

美波「人によるって所ね、ちなみに私は買わない派。」

マスター「その欲しい物は動物ですか?」

美波「うーん…はい、と言うか生き物なんだからそれ要らないんじゃないの?」

マスター「植物の可能性もありますから、彼らにも命があります。」

美波「あら、中々深い事言うじゃないの♪気に入ったわ貴方♡」

マスター「その欲しい物は人間ですか?」

美波「正解…と言いたいけどもうちょっと絞って欲しいわね。」

美波「と言うか私が悩んだから人間選んだでしょう?」

マスター「実際人間も動物に入りますが自分が広義で犬猫と同じ括りと言うのを嫌がる人間は一定数居ますので。」

美波「私も人間は人間でジャンル分けするべきか悩んだのよね~でもその感じだと動物でいいみたいね、安心したわ。」

マスター「後はどの様な人間か…ですね?」

美波「はい。」

マスター「その欲しい物は彼氏ですか?」

美波「いいえ、残念だけど私今彼氏募集してないのよ。」

美波「でももし欲しくなったら…貴方みたいな人結構ありかも?ウフフ♪」

マスター「そう言うつもりでは無かったのですが…」

美波「まぁ、やっぱりこう言う奴なら王道だものね~」

マスター「その欲しい物は友人ですか?」

美波「これは難しい話ねぇ…でも、いいえかな。」

マスター「人によると言う事ですか。」

美波「そうね、私はこの人が友人じゃない方がいいかな?その方が色々楽だしね。」

マスター「その欲しい物は話し相手ですか?」

美波「せいか~い♪決定打となった質問はあるかしら?」

マスター「正直自分が他人と関りを持ちたくなる時と言えば身内や知り合いに話せない様な愚痴の時ぐらいですから。」

美波「あら貴方もそう言う経験あるのかしら?お姉さんが話し聞いてあげても良いわよ?」

マスター「私はあくまでカフェのマスター、お客様との過度な関わり合いはご法度ですので。」

マスター「話し相手程度なら問題はありませんのでまだ続けると言うなら私も聴きますよ?」

美波「そうね、じゃあ次のクイズは『私が話し相手と話したい話題』ね。」

マスター「その話したい話題は楽しい話題ですか?」

美波「いいえ。」

マスター「その話したい話題は悲しい話題ですか?」

美波「はい。」

マスター「その話したい話題は他の人に話す事で何か影響がありますか?」

美波「あら貴方結構辛辣な言い方するのね、はいだと思うわ。」

マスター「それは申し訳ない…」

美波「いぃえぇ大丈夫よ気にしてないから。」

マスター「その話したい話題は他の人に話す事で美波さんが…楽しくなる話題ですか?」

美波「いいえ、でも良い方向ね♪」

マスター「その話したい話題は他の人に話す事で美波さんの心が楽になる事ですか?」

美波「はい、もう分かって来たかしら?」

マスター「その話したい話題は失恋ですか?」

美波「いいえ、確かに彼氏募集してないけど失恋したからじゃないのよね~」

美波「やっぱりマスターって私の事狙ってるの?正直私みたいな女どう思うかしら?」

マスター「………ノーコメント、とさせていただきます。」

美波「嫌いじゃない?」

マスター「………はい。」

美波「ウフフ、十分♡」

マスター「その話したい話題は………」(言い澱んだ)

美波「その反応、もしかして分かっちゃったかしら?良いわよ言ってごらんなさい。」

マスター「その話したい話題は美波さんの死について…ですか?」

美波「………正解…そう、私もう死んじゃってるのよ。」

美波「だからごめんなさいね、彼氏はもう一生作れないわ。」

マスター「その話はもう良いですから…」

美波「ウフフ、だって貴方からかい甲斐があるんだもの♪」

マスター「そしたら恐らく…次が最後のクイズですね?」

美波「えぇ、最後のクイズは…『私が死んだ理由』ね。」

美波「私、とある理由があって自ら自殺したのよね…その理由を貴方に答えて欲しいの。」

美波「そしてそれを正解出来たら…約束通りイ・イ・モ・ノ・あげるわ♡」

マスター「その死んだ理由は原因が自分にありますか?」

美波「いいえ。」

マスター「その死んだ理由は原因が相手にありますか?」

美波「………いいえ。」(少し悩む素振りが見えた)

マスター「その死んだ理由は人間関係のトラブルですか?」

美波「はい。」

マスター「その死んだ理由は失恋ですか?」

美波「貴方私をそんなに男運が無い女と思ってるのかしら?」

マスター「この類の奴では定番ですから…」

美波「冗談よ冗談、別に怒っては居ないわ。」

美波「でもそうね…いいえかしら。」

マスター「その死んだ理由は喧嘩ですか?」

美波「いいえ、ヒントを上げるとすれば友人関係は良好だったわ。」

マスター「その死んだ理由は…現代だからこその理由ですか?」

美波「あら~貴方結構面白い事言うのね♪その通り、はい。」

マスター「その死んだ理由は生き続けていれば何とか出来た可能性もありますか?」

美波「はい、貴方もしかして段々分かって来たんじゃない?」

マスター「おおよそこれだと言う目星はつきました。」

美波「じゃあ…答えちゃう?」

マスター「………いいえ、もう少しお話してもよろしいですか?」

美波「ウフフ、じゃあこうしましょう。」

美波「次からは質問に対して私ははいかいいえじゃなくてしっかりと文章で答える事にしましょう、そしたらきっともっと話がしやすいと思うのよ♪」

マスター「では、貴方が自分がそうであると気づいたのは何時からですか?」

美波「中学生ぐらいだったかしら?でもそのぐらいの頃から違和感を感じたのよね。」

美波「違和感の正体にハッキリと気づいたのは夏頃だったわ。」

マスター「貴方はそれのせいで周りからどの様な扱いを受けましたか?」

美波「そうね…やっぱりまずは『嫌悪・拒絶』が殆どね…」

美波「たまに興味本位で私に色々聞く人も居たけどやっぱり皆離れて行ったわ。」

美波「だからこそ最近ではそう言う事を全部隠して来たから人間関係はそれなりに良好、特に私の恋愛アドバイスよく当たるって評判だったのよ?」

マスター「貴方は自分がそれである事をどう思っていますか?」

美波「私としてはこれが普通だったから『なんでここまで酷い扱いを受けないといけないんだろう?』って感じね。」

美波「正直これはこれで一つの人としての生き方なんだから尊重してあげても良いと思うのよ、海外とかでは割と受け入れられている文化ではあるしね。」

マスター「………ではそろそろ答えさせて頂きます…」

美波「えぇ、楽しい時間をありがとう♪」

マスター「その死んだ理由は自分が同性愛者である事…ですね?」

美波「正解♪でも一つ付け足すとしたら…私、両性愛者なのよだから双方共に嫌われて誰からも愛して貰えなかったのよ。」

美波「私が生き続けていればきっと世界も変わって私の様な人が肩身の狭い生活を送る必要は無くなる…でもそれまで耐えられる気がしなかったのよね。」

美波「話し相手が他人であって欲しいって言うのもそう言う事を話しても知り合いに引かれる事が無いからってのが理由ね。」

マスター「恋愛系の話題に対して他より強く反応していたのも愛に飢えていた事が理由ですか?」

美波「そうねぇ…思い返せば他よりはちょっと掛かり気味だったかも?」

美波「………さ・て・と、そろそろ私も帰らないと。」(席から立ち上がる)

美波「今日は話し相手になってくれてありがとう、それじゃあマスター………またね♡」

女はカウンターから身を乗り出してマスターにキスをした…
そしてマスターが突然の事に驚いた時既に女は消えていて跡には空になったコーヒーカップと多数のガムシロップのスティックシュガーのゴミ、そして『ねぇ、貴方は私の欲しい物をくれる?』と書かれた本が落ちていた。

マスター「………ご来店、ありがとうございました。」

マスターはそう言って空のカップとゴミ、本を回収して店仕舞いの用意をした。
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チップ