コーヒーが冷めないうちに

俺は三浦刀利みうらとうり、某有名企業の営業担当だ。
家族構成は父と母に弟が一人居て今は結婚して子供も居る。仕事も順調で特に不満は抱いてないし悩みも無い…極々普通の一般人だな。
そんな俺が最近遅めの夏休みを貰って実家に帰省してた時の話だ。

俺の実家がある村は都市部からやや離れた所で田舎って程でもないが田んぼが多くて老人も多い、でも名産品の米が美味いって評判でかなり活気はあった。
そして俺の家だが割と昔から続く由緒ある名家程々にデカい屋敷に住んでるんだよ。
いつものように門の前のインターホンを押してしばらくしたら使用人が門を開けに来た。

刀利「よっ、久しぶりだなじっちゃん。」

使用人じっちゃん「お帰りなさいませ刀利坊ちゃま。」

刀利「うん、元気そうで何よりだな。父さん達居る?」

使用人「勿論です、坊ちゃまの帰りを楽しみにしておられましたよ。」

刀利「まぁ、最近は仕事が忙しくて中々帰れなかったからな…近況報告もしっかりしないとな。」

使用人「では爺はお茶の用意をしてきますのでお父様は書斎におられるかと思います。」

刀利「了解、また後で。」

俺はじっちゃんと分かれて書斎に向かった、ドアをノックすると中から父さんの声が聞こえた。

父「誰だ?」

刀利「刀利だよ、ただいま。」

ドアが開いた

父「久しぶりだなぁ刀利!いやいやまた背が伸びたんじゃないか?」(刀利を抱きしめる)

刀利「アハハ…ちょっと父さん苦しいって…」

父「おぉ、すまんすまん…いやぁ~それにしてもまた一段と良い男になったな。わしの若い頃にそっくりだ!ハッハッハ。」

刀利「久々に会ったしちょっと話でもしない?お互い結構色々あったと思うし。」

父「良いぞ、適当に座っててくれ。」(書類を片付け始めた)

それからしばらくは仕事の事・家族の事・他愛のない雑談それ以外にも沢山話した、親子水入らずの時間を過ごしてたんだ。
それでふと窓の外を見るとある物が目に入った…

刀利「ん?なぁ父さん、あの古い蔵どうするんだ?」

父「あの蔵か…あの蔵は『駄目』だ。」

刀利「駄目?何が駄目なの?」

父「だから『駄目』なんだ、『駄目』な物は『駄目』分かったらあの蔵についてはこれ以上聞くな。」

刀利「えぇ…でもあそこにあったら邪魔だし…」

父「お前の言い分も分かる、だとしても『駄目』だから『駄目』なんだ。」

刀利「うーん…分かった…」

父「それで良い、所で刀利?今日は泊って行くんだろう?場所を決めないとな。」

俺はひとまず蔵の事は忘れて父さんと部屋を見に行ったんだよ、相変らず大きな屋敷だから余ってる部屋が沢山あった。
そしていくつか見て俺はとある部屋に決めた、それはさっき窓から見えた蔵が近くて父さんや爺の部屋から最も遠い部屋だ。
………いや、今思えばアレは父さん達が遠かったと言うより『敢えて蔵から離れた位置に居た』ってのが正しいんだろうな…

そして俺はその日の午後に父さんと外食をして夜も更けた頃、親父と爺は寝てしまった。
俺も布団に入ってしばらく寝ようとしていたんだがどうしても書斎で聞いた蔵の事が気になって仕方ない。
何度も出て来た『駄目』と言う言葉、その上理由を聞いても『駄目だから駄目』『駄目な物は駄目』の一点張り…まるで何かを隠してる様な、むしろ逆に好奇心を煽る様な言い方にも取れた。
俺は音を立てない様にこっそり靴を取って来て部屋の窓から外に出て蔵に向かった。

蔵の前に行くと窓から見た時よりも大きく見えた、外壁は所々ひび割れていてかなりの年数が経過してるに違いない。
俺は恐る恐る蔵の扉を開けた…石が擦れる様な重々しい音と共に中から大量の埃の様な物が出て来て思わず咳き込んでしまった。

刀利「ゲホッ!ゲホッ!な、なんだこれ…全く掃除されてないのか…?」

蔵の中を覗くとあるのは古い木製の階段と多数の白い粉の山に潰された棚の残骸。
そして………人間の腕ぐらいなら拘束出来るであろうサイズの金属製の金具の様な物。

刀利「は…?な、なんだこれ…?」

その時刀利はある事に気付いた、先程からこの蔵の中にある埃のような物がよく見ると少し白っぽい様に見えた。
刀利は一つの可能性を考えた…それはこの粉が全て『人間の骨である可能性』だ、仮にそうだとしたらこの村の特産品である米にこの骨粉が使われてる可能性がある。
事実植物の肥料として畑に骨を使う事は稀にある、そしてその畑で米を育てて売っているとした場合定期的にここで人を殺していた事になる。

刀利「そんな…父さんがそんな事する筈…」

すると何やら外から声が聞こえた

使用人「坊ちゃまー!坊ちゃま何処におられるのですかー!」

どうやら刀利が部屋を抜け出した事に気付いたらしい、声は段々と蔵に近づいて来てる。

刀利「まずい!?どこかに隠れないと…」

刀利は辺りを見渡して蔵の中にある階段を駆け上がった。
その反動で階段はガラガラと音を立てて崩れてしまったが何とか二階に上がれた。

刀利「ヤバい…ヤバい…見つかったら俺…」

駄目になる

刀利「っ!?(声が聞こえた方を見る)なっ!?なんだこれ!?」
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駄目だと言われたのに何故来てしまったの?
駄目だと言ったのに何故聞いてくれないの?
駄目な理由…それは『駄目』だから駄目だったんだよ?
駄目って言ってるのに駄目な事をしちゃった貴方は…

駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる
駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる
駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる
駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる
駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる
駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる
駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる
駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる駄目になる



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刀利「なぁ、マスター…俺『駄目』なんだってさ…」

そう言うとさっきまで居たカウンター席から男は消えた、跡には空っぽになったコーヒーカップと『駄目な物は駄目』と書かれた白い粉の付着した本が落ちていた。

マスター「………ご来店、ありがとうございました。」

マスターはそう言って空のカップと本を回収して店仕舞いの用意をした。
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