なないろ小学校
――キーンコーンカーンコーン。
授業終了のチャイムが鳴った。
教科書や筆記用具をリュックにしまい、宏章は深くため息を吐いた。
(結局、いっかいも会えなかったんだが!?)
同じ学校に居るのに、すれ違う事さえないなんて。
確かに、新入生の成己は給食を食べ、掃除をしたら下校してしまうのでチャンスは少ない。
それでも、一度は惜しい瞬間があったので、ますます悔しい。
宏章は、昼休みは図書委員会があって、図書室にいる。そのとき、成己が訪ねて来てくれたのだが、間の悪いことに用事で席を外していたのだった。
「野江さんによろしくだってよ。ひゅう、この幸せ者が!」
と同じ当番の八千草 にはやし立てられ、膝から崩れ落ちてしまった。
「帰って、ラインするか……」
帰り支度を済ませ、呟く。しかし、せっかく同じ学校なのに切ないではないか。
――『ひろにいちゃん、学校でもよろしくね』
宏章は、姉のおさがりのランドセルを大事そうに抱え、笑った幼なじみを想う。
……同じ学校に居れば、会う時間は増えると思っていた。
靴を履きかえて、とぼとぼと校門をくぐる。帰り道は通学班はないので、ひとりっきりで気楽なものだった。
桜の花びらがつもり、歩道がクッションのようになっている。やんちゃな子供たちに踏み荒らされ、灰色に汚れた花びらを悲しく見つめた。
「はあ……」
夕焼けのせいか、恋煩いのせいか。センチメンタル一直線の宏章くんの背後で、ちりんちりんと音がした。
「よう、宏章。なにしてんの?」
「おお……って、お前が何してんだ!」
やってきたのは、柳二であった。
校則違反の自転車に、さらに二人乗りまでして現れた友人に、宏章のセンチメンタルは吹っ飛んだ。
「捕まっても知らんぞ、お前……」
「まだガキやもん。許される」
「おいおい」
宏章に並走しながら、柳二は歯を見せて笑う。悪ガキそのものの笑顔に、宏章はため息を吐いた。
すると、ママチャリの荷台に乗っていた男の子が、おずおずと声を上げる。
「あのっ……ごめんなさい、委員長。柳二くん、俺のためなんです」
「倉橋くん」
彼は図書委員会の後輩で、四年生の倉橋茅太 くんだ。名前でお察しだろうが、歩の弟である。気の強い兄と違い気弱な性格で、金色の前髪の下では眉がハの字に下がっていた。
彼の様子をまじまじと見て、宏章は「ああ」と納得した。茅太くんの左足首は、包帯でぐるぐる巻きになっていたのだった。
「昨夜、足をくじいちゃって。朝になっても、どうしても歩けなくて……それで柳二くん、自転車で迎えに来てくれたんです」
「そうだったのか……」
倉橋家は教育熱心だった。優等生の兄を常に寵愛し、茅太くんには清々しいほど関心がない。通学一つとっても、歩は「勉強に集中できるように」と車通学だが、茅太くんは徒歩である。
幼なじみの柳二は、その状況を良く知っていたようだ。足を怪我しても、常のごとく放っておかれた茅太くんを心配し、迎えに行ったものらしい。
「柳二、いいとこあるじゃないか」
宏章が感心すれば、柳二は「ちっ」と舌打ちする。思春期の男子によくあることだが、彼は褒められて恥ずかしいタイプなのだ。
「こら。余計なこと言うなっちゅうの」
柳二が、茅太くんを後ろ手に小突く。すると、茅太くんは感極まったように、ひしと抱きついた。
「!」
自転車が舵取りをミスしたように、くらんと傾き、持ち直す。
「余計じゃないよ! 俺、嬉しかったんだもん」
「……さよか」
「大好き、柳二くん」
幸いにも、背中にひっついている茅太くんには、見えないようだった。柳二が真っ赤になり、だらしなくにやけている様は、ふだんのカッコつけからは程遠いものだったのだが。
全容を眺めていた宏章は、爆笑を堪えていた。
「ふっ。安全運転で帰れよ~」
宏章は馬に蹴られる趣味はないので、そっと道を変えた。
(……仕方ないな。俺も協力してやるか)
茅太くんの怪我が治るまで、柳二は送迎するつもりだろう。
引き受けられる班員は引き受けて……須々木にも、協力をお願いしてみよう。人情に篤い須々木は、わけを知れば快く頷いてくれるはずだ。
「まったく。不器用な友人を持つと苦労するな」
授業終了のチャイムが鳴った。
教科書や筆記用具をリュックにしまい、宏章は深くため息を吐いた。
(結局、いっかいも会えなかったんだが!?)
同じ学校に居るのに、すれ違う事さえないなんて。
確かに、新入生の成己は給食を食べ、掃除をしたら下校してしまうのでチャンスは少ない。
それでも、一度は惜しい瞬間があったので、ますます悔しい。
宏章は、昼休みは図書委員会があって、図書室にいる。そのとき、成己が訪ねて来てくれたのだが、間の悪いことに用事で席を外していたのだった。
「野江さんによろしくだってよ。ひゅう、この幸せ者が!」
と同じ当番の
「帰って、ラインするか……」
帰り支度を済ませ、呟く。しかし、せっかく同じ学校なのに切ないではないか。
――『ひろにいちゃん、学校でもよろしくね』
宏章は、姉のおさがりのランドセルを大事そうに抱え、笑った幼なじみを想う。
……同じ学校に居れば、会う時間は増えると思っていた。
靴を履きかえて、とぼとぼと校門をくぐる。帰り道は通学班はないので、ひとりっきりで気楽なものだった。
桜の花びらがつもり、歩道がクッションのようになっている。やんちゃな子供たちに踏み荒らされ、灰色に汚れた花びらを悲しく見つめた。
「はあ……」
夕焼けのせいか、恋煩いのせいか。センチメンタル一直線の宏章くんの背後で、ちりんちりんと音がした。
「よう、宏章。なにしてんの?」
「おお……って、お前が何してんだ!」
やってきたのは、柳二であった。
校則違反の自転車に、さらに二人乗りまでして現れた友人に、宏章のセンチメンタルは吹っ飛んだ。
「捕まっても知らんぞ、お前……」
「まだガキやもん。許される」
「おいおい」
宏章に並走しながら、柳二は歯を見せて笑う。悪ガキそのものの笑顔に、宏章はため息を吐いた。
すると、ママチャリの荷台に乗っていた男の子が、おずおずと声を上げる。
「あのっ……ごめんなさい、委員長。柳二くん、俺のためなんです」
「倉橋くん」
彼は図書委員会の後輩で、四年生の
彼の様子をまじまじと見て、宏章は「ああ」と納得した。茅太くんの左足首は、包帯でぐるぐる巻きになっていたのだった。
「昨夜、足をくじいちゃって。朝になっても、どうしても歩けなくて……それで柳二くん、自転車で迎えに来てくれたんです」
「そうだったのか……」
倉橋家は教育熱心だった。優等生の兄を常に寵愛し、茅太くんには清々しいほど関心がない。通学一つとっても、歩は「勉強に集中できるように」と車通学だが、茅太くんは徒歩である。
幼なじみの柳二は、その状況を良く知っていたようだ。足を怪我しても、常のごとく放っておかれた茅太くんを心配し、迎えに行ったものらしい。
「柳二、いいとこあるじゃないか」
宏章が感心すれば、柳二は「ちっ」と舌打ちする。思春期の男子によくあることだが、彼は褒められて恥ずかしいタイプなのだ。
「こら。余計なこと言うなっちゅうの」
柳二が、茅太くんを後ろ手に小突く。すると、茅太くんは感極まったように、ひしと抱きついた。
「!」
自転車が舵取りをミスしたように、くらんと傾き、持ち直す。
「余計じゃないよ! 俺、嬉しかったんだもん」
「……さよか」
「大好き、柳二くん」
幸いにも、背中にひっついている茅太くんには、見えないようだった。柳二が真っ赤になり、だらしなくにやけている様は、ふだんのカッコつけからは程遠いものだったのだが。
全容を眺めていた宏章は、爆笑を堪えていた。
「ふっ。安全運転で帰れよ~」
宏章は馬に蹴られる趣味はないので、そっと道を変えた。
(……仕方ないな。俺も協力してやるか)
茅太くんの怪我が治るまで、柳二は送迎するつもりだろう。
引き受けられる班員は引き受けて……須々木にも、協力をお願いしてみよう。人情に篤い須々木は、わけを知れば快く頷いてくれるはずだ。
「まったく。不器用な友人を持つと苦労するな」