なないろ小学校

 良く晴れた、春の日の朝である。
 時刻は、朝の七時十分。とある一軒家では、小さな男の子が玄関のドアを押し開けた。
 
「わあ、いいお天気っ」
 
 黄色い通学帽のしたで、はしばみ色の瞳がかがやいた。
 ちなみに、昨日も晴れていた。日々のささいなことに感動するのが、この家の男の子のくせである。
 
「今日も、がっこう日和です」
 
 春日成己かすが・なるみ、なないろ小学校のぴかぴかの一年生だ。
 彼は門までの敷石を、はずむような足取りで歩く。そのたびに、大きな赤いランドセルにつられて、小さな体が左右に振れていた。
 
「ほら、成ちゃん! はよ車にのらな、お姉ちゃん遅刻してまうよー」
「はい、涼子先生!」
 
 エンジンをかけた車から、じれたように顔を出すのは同居の親戚のおねえさんだ。小学校教師なので、毎朝一緒に登校する。
 お姉さん愛車のステップワゴンに乗り込むと、少年・成己はシートベルトを装着した。
 
「今日も、よろしくお願いします」
「はいはいっ」
 
 ぺこりと行儀よろしく頭を下げた成己に、涼子は相好を崩す。同居の少年を、目に入れても痛くないほど可愛がっているのだった。
 
(成ちゃん、おっとりしてるし。ほんま、うちと同じ小学校でよかったわぁ……宏章くんも、今年で卒業やしなあ)
 
 涼子の過保護まるだしの思いをのせ、アクセルを踏む。
 ブオーン、と逞しい発射音を響かせ、ふたりは学校に出発した。
 
 ***
 
 
 ――時刻は、七時半。
 なないろ市いつでも町の、さびれた郵便局の前には、ペンキの剥がれたポストがある。
 そこはなないろ小学校の通学団・いつでも班の、集合場所だった。
 ポストの傍らに、大柄の少年が立っていた。リュックサックを右肩に掛け、分厚いハードカバーの本を持ち朝の読書を嗜んでいる。引率の先生のような貫禄ある立ち姿だが、歴とした子供である。
 彼は通学班のリーダー、六年生の野江宏章のえ・ひろあきだ。
 昨年までは、お兄さんが務めていた班長を、今年からは弟の彼が引き継いだ。乗り気では無かったが、何だかんだ一番早くに待っているので、適任ではあるようだ。
 宏章は、郵便局の時計をチラ見し、息を吐く。
 
(三十分……成は着いたころかな)
 
 今年から同じ学び舎に通う幼なじみを想っていると、かしましいお喋りが近づいてきた。
 
「でね、そのときAくんがBくんにさぁ……あっ、おはよう、野江くん」
「野江くん、きょうも早いね~」
「おはよう、今井さん、皆本さん」
 
 お喋りの主は、仲の良い女子二人。ともに六年生だが、宏章との接点は通学班くらいである。互いに、儀礼的に挨拶を済ますと、宏章は本に、二人はお喋りに興じる。
 しかし、今朝は今井さんが「あっ」と声を上げた。
 
「野江くん、あのさ。うちの弟と、晴海はるみくんなんだけど。遅れて来るから、先に出発しちゃっていいよ」
 
 今井さんの弟と、晴海くんと言うのは四年生の通学班のメンバーだった。
 
「そうなのか? ちょっとくらいなら、まだ早いし待ってられるよ」
 
 宏章が言うと、今井さんはひらひらと手を振った。
 
「ああ、良いって良いって。早起きしたからって、缶詰のパインどか食いしちゃってさ。んで腹壊してんの、自業自得だから」
「おお……」
「晴海くんが心配して、ついててくれてるみたいだし。私、あのアホのクラスに行って、遅刻しそうって言ってやんないとだからね」
 
 肩を竦めて、今井さんは仕方なさそうに言う。しかし、要は体調不良の弟のフォローをしたいらしい。皆本さんが「弟想いだねえ」と、今井さんの腕に抱きつく。
 宏章も大きな笑みを浮かべ、頷いた。
 
「じゃあ、出発しようか」
 
 
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