俺、知らなかったぜ。
305教室に行くと、イノリはまだ来ていなかった。
なんか、ちょっとだけホッとする。いつもの席に鞄を置いて、窓を開けた。びゅう、と寒い風が吹き込んできて、カーテンがバタバタ揺れる。
熱った頬に、風がきもちいい。
短時間に色んなことがあって、気持ちの整理が出来てないんだぜ。
俺の夢のこと。布団のタワーが積み上がってたこと。
会長にやけにからかわれたり、イノリが布団を積み上げたんだって、聞いたり……。
――知っといてやれ。あいつはよっぽどあんたが好きなんだ。
会長の声が甦って、頬にカッと血が上る。
「あわわわ」
慌てて、ブンブンと頭を振った。
いや、べつに、何もおかしいことないけど。
たぶん、会長にからかわれて動揺してるだけなんだ、俺ぁ!
イノリが、俺のことを好きなんつったって。
そりゃ、俺たちは幼馴染みで親友なんだもん。好きだから、ずっと一緒にいるって、至極トーゼンのことじゃんか。
もちろん俺だって、イノリのことは好きだから……。
「はっ!」
また、舌がもつれる。
やっぱり、イノリのこと好きって、上手く言葉になんねえ。なんか、胸の奥をトテトテ蹴られてるみたいに、息苦しくなっちまって。
俺は、鞄の上に突っ伏した。
「ううう……! なんで……まさか、何かの呪いなのかっ?!」
「何が?」
やわらかい声が聞こえて、ハッと顔を上げる。
間近に、緑かかった薄茶の目があって、ぎょっとした。
「イイイノリ?!!」
「うん、俺だよ?」
がばぁ、とのけ反ると、イノリは不思議そうに首を傾けた。
「いつの間に?! どこから?!」
戸の開く音、しなかったぞ。すると、イノリは事も無げに言う。
「さっきの間ー。窓開いてたから、窓からー」
「……生徒会って、窓移動する掟なん?」
「そうでもないよー」
イノリは、ニコッとしてビニル袋を掲げた。なんか香ばしい、いい匂いがする。
「食堂でね、焼きそば焼きたてだったんだー。トキちゃん、一緒にたべよ?」
「マジ!? すげー!」
――焼きそば!
一瞬にして、心が焼きそばにとらわれる。
食堂の焼きそば、めっちゃ美味いんだ。昼メシ時には焼きたての焼きそば弁当があって、これがまた最高なんだけど、数量限定で滅多にお目にかかれねえの。
ありがとう、イノリ!
イノリが、大判のプラパックを開けると、焼きそばがほかほかと湯気を立てる。
「いただきまーす」
二人で手を合わせて、甘辛い麺をたぐる。
「うまっ!」
「おいしいねぇ」
信じられんくらい具だくさんだし、もちもちたまご麺にソースがたっぷり絡んでやみつきになるウマさ。
夢中で食べていると、イノリがニコニコして言う。
「トキちゃん、魔力測定どうだった?」
「ん? ああ、なんかさ――」
俺は、イノリに測定石が爆発したことを伝えた。
あれには、驚いた。
一晩で、測定室が元通りだったのにも、びっくりだけど。
イノリは、手をパチパチ叩く。
「やったね。俺、トキちゃんは爆発させる気がしてたー」
「えっマジで?」
「うん、マジ」
「へへへー。イノリは? 今日だろ」
「俺?」
イノリは、こてんと首を傾げた。
「俺はまだだよー」
「え、でも」
「桜沢」なら、早くにおわってるはずでは? イノリは苦笑する。
「爆発するから、あとまわしになんだってー」
「あ、なるほど」
「はい、トキちゃん。イカ―」
「あー」
口を開けると、イカとそばを押し込まれる。うまい。
もぐもぐ噛んでいると、イノリが目元をやわらかく和ませて、
「――あれ?」
ふと、不思議そうな声を上げる。
「どした?」
「うーん? へんだな……?」
イノリは、箸を長い指に挟んだまま、まっすぐに俺を見つめてくる。
なんとなく、探るような視線にうろたえる。バレたくないことまで、バレちゃいそうな気がして――。
胸に変な汗がしみた。
「な、なに? 別に、俺なにも――」
おろおろと俯くと、口にモシャッとしたもんが当たった。
ティッシュだ。
ぽんぽんと優しくはたくみたいに、口の周りを拭われてきょとんとする。
「ふふっ。トキちゃん、ソースのひげ生えてるし」
「んなっ」
頭が、がんっとなる。
「なんだよー! 美味かったんだよっ!」
「あはははっ。かわいいよー、カールおじさんみたいで」
「ほめてねぇ!」
わあわあ憤慨すると、イノリはますます笑ってくる。
もう、なんだよっ。こいつ、マジな顔するから何かと思うじゃん。
なんか、ちょっとだけホッとする。いつもの席に鞄を置いて、窓を開けた。びゅう、と寒い風が吹き込んできて、カーテンがバタバタ揺れる。
熱った頬に、風がきもちいい。
短時間に色んなことがあって、気持ちの整理が出来てないんだぜ。
俺の夢のこと。布団のタワーが積み上がってたこと。
会長にやけにからかわれたり、イノリが布団を積み上げたんだって、聞いたり……。
――知っといてやれ。あいつはよっぽどあんたが好きなんだ。
会長の声が甦って、頬にカッと血が上る。
「あわわわ」
慌てて、ブンブンと頭を振った。
いや、べつに、何もおかしいことないけど。
たぶん、会長にからかわれて動揺してるだけなんだ、俺ぁ!
イノリが、俺のことを好きなんつったって。
そりゃ、俺たちは幼馴染みで親友なんだもん。好きだから、ずっと一緒にいるって、至極トーゼンのことじゃんか。
もちろん俺だって、イノリのことは好きだから……。
「はっ!」
また、舌がもつれる。
やっぱり、イノリのこと好きって、上手く言葉になんねえ。なんか、胸の奥をトテトテ蹴られてるみたいに、息苦しくなっちまって。
俺は、鞄の上に突っ伏した。
「ううう……! なんで……まさか、何かの呪いなのかっ?!」
「何が?」
やわらかい声が聞こえて、ハッと顔を上げる。
間近に、緑かかった薄茶の目があって、ぎょっとした。
「イイイノリ?!!」
「うん、俺だよ?」
がばぁ、とのけ反ると、イノリは不思議そうに首を傾けた。
「いつの間に?! どこから?!」
戸の開く音、しなかったぞ。すると、イノリは事も無げに言う。
「さっきの間ー。窓開いてたから、窓からー」
「……生徒会って、窓移動する掟なん?」
「そうでもないよー」
イノリは、ニコッとしてビニル袋を掲げた。なんか香ばしい、いい匂いがする。
「食堂でね、焼きそば焼きたてだったんだー。トキちゃん、一緒にたべよ?」
「マジ!? すげー!」
――焼きそば!
一瞬にして、心が焼きそばにとらわれる。
食堂の焼きそば、めっちゃ美味いんだ。昼メシ時には焼きたての焼きそば弁当があって、これがまた最高なんだけど、数量限定で滅多にお目にかかれねえの。
ありがとう、イノリ!
イノリが、大判のプラパックを開けると、焼きそばがほかほかと湯気を立てる。
「いただきまーす」
二人で手を合わせて、甘辛い麺をたぐる。
「うまっ!」
「おいしいねぇ」
信じられんくらい具だくさんだし、もちもちたまご麺にソースがたっぷり絡んでやみつきになるウマさ。
夢中で食べていると、イノリがニコニコして言う。
「トキちゃん、魔力測定どうだった?」
「ん? ああ、なんかさ――」
俺は、イノリに測定石が爆発したことを伝えた。
あれには、驚いた。
一晩で、測定室が元通りだったのにも、びっくりだけど。
イノリは、手をパチパチ叩く。
「やったね。俺、トキちゃんは爆発させる気がしてたー」
「えっマジで?」
「うん、マジ」
「へへへー。イノリは? 今日だろ」
「俺?」
イノリは、こてんと首を傾げた。
「俺はまだだよー」
「え、でも」
「桜沢」なら、早くにおわってるはずでは? イノリは苦笑する。
「爆発するから、あとまわしになんだってー」
「あ、なるほど」
「はい、トキちゃん。イカ―」
「あー」
口を開けると、イカとそばを押し込まれる。うまい。
もぐもぐ噛んでいると、イノリが目元をやわらかく和ませて、
「――あれ?」
ふと、不思議そうな声を上げる。
「どした?」
「うーん? へんだな……?」
イノリは、箸を長い指に挟んだまま、まっすぐに俺を見つめてくる。
なんとなく、探るような視線にうろたえる。バレたくないことまで、バレちゃいそうな気がして――。
胸に変な汗がしみた。
「な、なに? 別に、俺なにも――」
おろおろと俯くと、口にモシャッとしたもんが当たった。
ティッシュだ。
ぽんぽんと優しくはたくみたいに、口の周りを拭われてきょとんとする。
「ふふっ。トキちゃん、ソースのひげ生えてるし」
「んなっ」
頭が、がんっとなる。
「なんだよー! 美味かったんだよっ!」
「あはははっ。かわいいよー、カールおじさんみたいで」
「ほめてねぇ!」
わあわあ憤慨すると、イノリはますます笑ってくる。
もう、なんだよっ。こいつ、マジな顔するから何かと思うじゃん。