俺、知らなかったぜ。
翌朝、俺は俄然張り切っていた。
やる気っつーか、頑張らねえとって気持ちが、どんどん湧いてくる感じ。
「うおおお!」
そんで、グラウンドを猛ダッシュ。風の元素をまといつつ、ぎゅんぎゅん足を回転させる。
まさに風と一体って感じで、気分がいいよなー。「風」は一番最初に使えるようになったからか、一番たのしい。
「よ、吉村くん。調子いいね」
「うん、ありがとう!」
隣に並んだ森脇が褒めてくれて、俺はニマニマしてしまう。
「吉村、出力は気をつけろー!」
「……バテるぞ」
「うすっ!」
葛城先生の檄と、片倉先輩の忠告を背に、走りに走った。
ふと、グラウンドから見える、一番高い建物が目に留まる。――この前聞いたんだけど、あの最上階に生徒会室があるらしい。
イノリ、もう登校してるかな。してるよな?
『あそこから、トキちゃんが走ってるの見えるよ』
俺は思いついて、建物に向かってブンブン手を振ってみた。見えるかなあ?
「ど、どどうしたの!?」
俺の奇行に、ビビッた森脇が転びかけた。スマン。
――夕焼けの差し込む昇降口。
俺の下駄箱の前に、誰か立っていた。
いや、忘れ物をしてさ。一回帰ったけど、取りに戻ってきたんだよ。
あの人、何してんのかなって見ていたら。その人は、急に俺の下駄箱から上履きを抜き取った。
そのまま、走って行こうとする。
ポカンとして見守ってた俺は、そこで我に返る。
「ち、ちょっと待った!」
追っかけてって、その生徒の肩を掴む。――逆光の中で、真っ白い顔が振り返って……。
ヒュンッ、と風を切る音がした。
「吉村、寝るなー!」
「ぎゃっ」
ハッと顔を上げた瞬間、コーン! と額にチョークがさく裂した。
「うぉぉ」
額を押さえて悶えていると、葛城先生が教壇に仁王立ちして言う。
「追い込みの時期に転寝とは、良い度胸だな」
「す、すんません」
「話をするから、あとで僕の部屋に来い」
「はい、すんません!」
平謝りすると、葛城先生は息を吐いて授業を再開した。俺は、ジンジンする額を押さえてガクッと肩を落とした。
授業で寝るなんて、やらかした~……。
トホホ、と座り直して、ぎょっとする。
クラス中の目がこっちに向いていた。そのくせ、いつもの忍び笑いは無くって、じいっと睨んでくる。
「な、なんだ……?」
うろたえてると、一人、また一人と視線を外してく。鳶尾のお追従マンたちは、ぎっと一際強く睨んでから前を向いた。
俺は狼狽えつつ、ノートに問題の解説をかき込んでいった。
葛城先生の背中にくっついて部屋へお邪魔すると、ドアの前に先客がいた。
「先生、おはようございます」
「ああ、おはよう」
藤川先輩だ。
先輩は高い背を二つ折りにして、かっこよくお辞儀する。葛城先生は、鍵を開けながら尋ねた。
「どうした?」
「突然すみません。後輩のことで、折り入ってご相談が……」
言いかけて、先輩は俺に気づいた。「あっしまった」とハッキリ思ってるのがわかる顔で、口を噤む。
「すみません、出直します」
「あっ、いえいえ! 俺はいいんで、先輩がどうぞ!」
と、さくっと踵を返そうとする先輩を、俺は大声で引き留める。部活で培った上下の精神が、年功序列! と叫んでいるぜ。
先輩は、戸惑い気味に振り返る。
「いや、しかし……」
「いえいえ、俺は全然急ぎじゃないです」
「馬鹿者! 急ぎじゃない説教があるか!」
「あたっ」
ビシ、と脇腹に突っ込みが入る。目を白黒させてる間に、先生は先輩に出直してくれるよう、もちかけてしまった。
おろおろしていると、藤川先輩がちょっと目元を和らげた。
「気にしないでくれ、急に来たのは俺なんだ。それに、先生が時間を設けて下さったから」
「いや、その」
「すまないな、藤川。さて、行くぞ吉村」
「失礼します」
「あ、うす……」
藤川先輩に会釈して、先生の後について行きかけて――ハッとした。
「見学に行かせてもらう」こと、挨拶しとかなきゃ!
俺は、先輩の背中に叫ぶ。
「あの、藤川先輩っ。俺、こんど勉強会に見学に行かして貰う、吉村時生です。他のメンバーに、森脇と片倉先輩もいます。当日は、よろしくお願いします!」
ピョコ、とバネ仕掛けみたいにお辞儀する。
振り返った藤川先輩は、片手を上げて「こちらこそよろしく」と言ってくれた。かっけえ。
ぼえっと見送っていると、先生が「早く来い」と呆れ声で言った。
やる気っつーか、頑張らねえとって気持ちが、どんどん湧いてくる感じ。
「うおおお!」
そんで、グラウンドを猛ダッシュ。風の元素をまといつつ、ぎゅんぎゅん足を回転させる。
まさに風と一体って感じで、気分がいいよなー。「風」は一番最初に使えるようになったからか、一番たのしい。
「よ、吉村くん。調子いいね」
「うん、ありがとう!」
隣に並んだ森脇が褒めてくれて、俺はニマニマしてしまう。
「吉村、出力は気をつけろー!」
「……バテるぞ」
「うすっ!」
葛城先生の檄と、片倉先輩の忠告を背に、走りに走った。
ふと、グラウンドから見える、一番高い建物が目に留まる。――この前聞いたんだけど、あの最上階に生徒会室があるらしい。
イノリ、もう登校してるかな。してるよな?
『あそこから、トキちゃんが走ってるの見えるよ』
俺は思いついて、建物に向かってブンブン手を振ってみた。見えるかなあ?
「ど、どどうしたの!?」
俺の奇行に、ビビッた森脇が転びかけた。スマン。
――夕焼けの差し込む昇降口。
俺の下駄箱の前に、誰か立っていた。
いや、忘れ物をしてさ。一回帰ったけど、取りに戻ってきたんだよ。
あの人、何してんのかなって見ていたら。その人は、急に俺の下駄箱から上履きを抜き取った。
そのまま、走って行こうとする。
ポカンとして見守ってた俺は、そこで我に返る。
「ち、ちょっと待った!」
追っかけてって、その生徒の肩を掴む。――逆光の中で、真っ白い顔が振り返って……。
ヒュンッ、と風を切る音がした。
「吉村、寝るなー!」
「ぎゃっ」
ハッと顔を上げた瞬間、コーン! と額にチョークがさく裂した。
「うぉぉ」
額を押さえて悶えていると、葛城先生が教壇に仁王立ちして言う。
「追い込みの時期に転寝とは、良い度胸だな」
「す、すんません」
「話をするから、あとで僕の部屋に来い」
「はい、すんません!」
平謝りすると、葛城先生は息を吐いて授業を再開した。俺は、ジンジンする額を押さえてガクッと肩を落とした。
授業で寝るなんて、やらかした~……。
トホホ、と座り直して、ぎょっとする。
クラス中の目がこっちに向いていた。そのくせ、いつもの忍び笑いは無くって、じいっと睨んでくる。
「な、なんだ……?」
うろたえてると、一人、また一人と視線を外してく。鳶尾のお追従マンたちは、ぎっと一際強く睨んでから前を向いた。
俺は狼狽えつつ、ノートに問題の解説をかき込んでいった。
葛城先生の背中にくっついて部屋へお邪魔すると、ドアの前に先客がいた。
「先生、おはようございます」
「ああ、おはよう」
藤川先輩だ。
先輩は高い背を二つ折りにして、かっこよくお辞儀する。葛城先生は、鍵を開けながら尋ねた。
「どうした?」
「突然すみません。後輩のことで、折り入ってご相談が……」
言いかけて、先輩は俺に気づいた。「あっしまった」とハッキリ思ってるのがわかる顔で、口を噤む。
「すみません、出直します」
「あっ、いえいえ! 俺はいいんで、先輩がどうぞ!」
と、さくっと踵を返そうとする先輩を、俺は大声で引き留める。部活で培った上下の精神が、年功序列! と叫んでいるぜ。
先輩は、戸惑い気味に振り返る。
「いや、しかし……」
「いえいえ、俺は全然急ぎじゃないです」
「馬鹿者! 急ぎじゃない説教があるか!」
「あたっ」
ビシ、と脇腹に突っ込みが入る。目を白黒させてる間に、先生は先輩に出直してくれるよう、もちかけてしまった。
おろおろしていると、藤川先輩がちょっと目元を和らげた。
「気にしないでくれ、急に来たのは俺なんだ。それに、先生が時間を設けて下さったから」
「いや、その」
「すまないな、藤川。さて、行くぞ吉村」
「失礼します」
「あ、うす……」
藤川先輩に会釈して、先生の後について行きかけて――ハッとした。
「見学に行かせてもらう」こと、挨拶しとかなきゃ!
俺は、先輩の背中に叫ぶ。
「あの、藤川先輩っ。俺、こんど勉強会に見学に行かして貰う、吉村時生です。他のメンバーに、森脇と片倉先輩もいます。当日は、よろしくお願いします!」
ピョコ、とバネ仕掛けみたいにお辞儀する。
振り返った藤川先輩は、片手を上げて「こちらこそよろしく」と言ってくれた。かっけえ。
ぼえっと見送っていると、先生が「早く来い」と呆れ声で言った。
5/5ページ