新たなハプニングだぜ!

 でっかい長方形の部屋の真ん中に、円柱の細い台座がたっている。
 先生が三人(葛城先生以外は見たことない人だ)と技師さんが、透明な板で仕切られた向こう側に座っていた。
 こっち側には俺しかいない。

「吉村時生です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

 仕切りの向こうに頭を下げると、技師さんが応じる。
 なんつーか、魔法使いのイメージぴったりって感じの人だ。黒い長い服を着てて、目深に被ったフードがミステリアスで。

「吉村さん、まずは台座の上にある箱を開けてください」

 技師さんに言われて台座に近づくと、ビロウド張りの箱が一つおかれてた。あの、葛城先生とわっせわっせ運んだやつ。
 ふたを開けると、中にはこぶし大の水晶――測定石がちゃんと納まっている。
 ここまで、転入試験のときと同じだ。二回目だから、落ち着いて出来るぞ。

「吉村さん、測定石は欠けていませんね?」
「はい、大丈夫です」
「では、お好きなタイミングで触れてください」

 静かに告げられて、俺は「よしっ」と気合を入れた。
 測定石は、天井の証明を映してキラキラ光ってる。この前は、触った途端に割れたけど、今回はどうだろう。

「すーはー、すーはー」

 深呼吸して、リラックス。
 落ち着け。……魔力だって起こしてもらって、魔法だって使えるようになってきたんだ。
 きっといい目が出るぜ!

「えい!」

 俺は、測定石にぺたりと触れた。










「ゲホッゲホッ」

 激しく咳き込みながら、顔を上げる。
 部屋には、もうもうと煙が立ちこめていた。視界がめっちゃ白い。
 腕をブンブン振るうと、ちょっとだけ煙が晴れる。
 と、目の前に、赤ジャージの小さな背中があった。

「吉村、無事か」
「うす……えっ!?」

 葛城先生が、振り返る。
 頷きかけて、ぎょっと目を見開いた。
 両腕をT字に広げた先生ごしに、部屋の惨状があきらかになる。
 部屋の中に、隕石でも降ってきたみてえだった。
 天井にも壁にも大穴が開いて、夕焼け空がキレイだ。
 床もタイルが剥がれてるし、台座は消えていた。

「そっち、消火してくださーい」
「けが人がいないか、確認して」

 先生たちが、ぱたぱたと走り回っている。
――えっ、何これ?
 俺は、ボー然として床にへたり込んでいた。葛城先生が身を屈めて、俺の顔をのぞき込む。

「立てるか?」
「は、はい……いや、これは一体?!」
「測定石が爆発したのさ」
「爆発!?」

 叫ぶと、葛城先生はこともなげに頷く。

「魔力の過剰吸収により、まれに起こる。気にするな」
「あ、あのう……もしかして、俺が触ったせいで?」
「そうだが」

 マジで?! 
 この前は、バキッて割れただけだったのに。そりゃ、魔力が起きたから、何か変わらないかと期待してたけど。
 まさか、爆発て!
 測定室の惨状に、俺はさあっと青ざめた。
 
「ブラボー!」

 突然、技師さんが大声で叫んだ。
 長い上着の裾をハタハタさせて、猛スピードで駆け寄ってくる。

「吉村さん! 素敵な爆発でしたよ。それに、あんな綺麗な虹色は久しぶりでした。ありがとう!」
「えっ、いや」

 技師さんは興奮気味に喋りながら、俺の両手を振り回す。まごついてると、他の先生達もニコニコしながら歩いてきた。

「本当に、ナイス爆発でしたね」
「全く、いいものですな」
「あっ、あの――すみません、俺。部屋をむちゃくちゃにしてしまって」
「いいんですよ! むしろその為の部屋ですから」
「全く、いいものですなぁ!」
「えええ~……」

 満足そうに頷き合う三人にオロオロしてると、ポンと肩を叩かれる。
 葛城先生だ。

「気にするな。先生方はな――心から、測定石が爆発するのを楽しみにしてるんだ。測定に爆発ネタはつきものだからな」
「どういうことっすか?」

 そんな、ハリウッド映画みたいな。
 俺の疑問に、技師さんが答える。

「測定石の爆発はですね。魔力の過剰供給により、起こるのです。つまり、爆発させられたら「魔力が強い!」ということだと、皆さん考えるんですね」
「生徒達が、一生懸命に爆発させようとしてるのを見ると、面白いですよね!」
「青春ですよ、まったく」

 三人は、きゃっきゃと盛り上がっている。
 俺は、イノリの言葉を思い出した。

――あんね、トキちゃん。それ、俺も壊したよ。会長たちも。なんかね、ステータスらしいよ、壊すのってさ。だから、気にしないでオッケー。

 ニコニコしながら、イノリは言ってた。よくわかんなかったけど、そういうことだったのか。


「それにしても――「紫」以外であんな良い爆発は、初めてみましたよ」

 技師さんは、興奮気味に話す。
 と、鎖のついた眼鏡をかけた先生が、意外そうに呟く。

「おや。フィンレー殿は、あの時はまだいらっしゃらなかったかな」
「あの時? もしや、以前にも?」
「そうですとも。それも、この子と同じ「黒」の生徒がね、こんな凄い爆発をやってのけましてね」
「なんと! それは、見てみたかった……」

 悔しそうな技師さん――フィンレーさん? の肩を恰幅のいい先生が叩いた。

「なに、また測定で見られますとも。なにせ、まだ在籍してますから。二年の――」
「村雨先生。守秘義務に反しますよ」

 葛城先生が、ストップをかけた。恰幅のいい、村雨先生は両手で口を覆った。

「これは失礼!」
「いえ。ところで、フィンレーさん、データはとれているんでしょう?」
「勿論です、葛城。私に抜かりはないですよ」
「では、そろそろ吉村を解放してやりませんか。試験期間ですから……」
「おお、これは確かに!」
「すまなかったね、吉村くん。つい面白くて」
「えっ、いやいや! ありがとうございました」

 口々に謝られて、慌てて頭を下げた。
 葛城先生は、「明日、授業に遅れるなよ」と念をおした。
 片付けとか気になったけど。
 ますます白熱する爆発談義に、ずらからせてもらうことにした。


「失礼しました」

 そう言って、測定室の扉を開けて――飛び上がりそうになる。
 廊下に、みっちみちに生徒が詰め寄せていた。

「さっきの爆発、こいつが?」
「嘘、黒じゃん!」
「なんかの間違いだろ」

 ざわざわ、口々に話してる。
 好奇心いっぱいの目が、全身に突き刺さって。俺は、もう一回中に戻りたくなった。

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