新たなハプニングだぜ!

 翌朝。
 もう一度教室を探してみたけれど、やっぱり見つからない。

「仕方ねえ。補習の後に、葛城先生に相談しよう……」

 がっくり肩を落として、運動場に向かう。
 早朝の澄み切った空気が、肌に冷たい。
 手をこすりこすりしながら歩くと、図書館に行きあたる。思いついて、玄関に回ってみると、もう開いている。
 まだ時間あるし、教科書あるか見てみようかな?
 扉を押し開けて、中に入った。

「教材のコーナーでしたら、二階になりますね」
「ありがとうございますっ」

 首から札を下げた司書さんに場所を聞いて、階段を駆け上がる。
 図書室って甘いような、湿っぽい匂いがするよなぁ。みっしり本の詰まった棚の間を歩いて、教科書のコーナーを探す。

「げっ!」

 俺は、目をぎょっと開いた。
 一年の教材コーナーが、ごっそり貸し出し中になっちまってる!

「な、なんで、全部ねえの? 俺みたいなやつが他にもいたのか?」

 完全に当てが外れて、おろおろしちまう。
 すると、後ろから「どうしたの?」と涼しい声が聞こえた。

「なにか困っているなら――あれ。君、吉村くん、だっけ?」

 振り向くと、鳶尾と一緒にコンビニにいた、ええと――姫岡先輩が立っていた。大振りな本を小脇に抱えている。

「……姫岡先輩?」
「覚えててくれたんだね。嬉しいよ」
「いえ、そんな……」

 姫岡先輩は明るい声で言うと、歩み寄ってくる。
 隣に並んだら、ふわっと花の匂いがした。

「何か、探してるの?」
「あっ、はい。教科書を探してたんす」
「教科書。……ああ」

 姫岡先輩は、棚を見て納得したように頷いた。

「残念だったね。今日、忘れ物しちゃったの?」
「あはは、まあ」

 無くなったんです、なんて正直に言うのもアレだから。笑って、ぽりぽり頬をかいた。姫岡先輩は怪訝そうにしていたけど、特に突っ込まれなくて、ホッとする。

「姫岡先輩は、それを借りるんですか?」
「うん、そのつもり」

 ニッコリ笑って見せてくれたのは、分厚い園芸の本だった。なんかハーブとかお花の育て方が載ってるみたい。「園芸されるんですか」って聞いたら、「ううん、手芸」って返された。どういうこと?
 姫岡先輩は、笑って本を抱えなおす。

「それはそうと、教科書ないなら風紀室に行ってごらん? 忘れ物にあれば、借りられるかもしれないよ」
「ほんとですか!」
「風紀に知り合いはいる? いたほうが借りやすいと思うけど……」
「はい。俺、行ってみます。ありがとうございましたっ」

 うまくすると、教科書が借りられるかもしれない。耳よりの情報に、心が浮き立った。
 俺は姫岡先輩にお礼を言って、図書館を出た。


 


 グラウンドに行くと、皆もう来てた。
 「おはようございます」って言うと、森脇はニコニコ、片倉先輩はぶっきらぼうにかえしてくれる。

「全員揃ってるな。では、始めるぞ!」
「はい!」

 すぐに葛城先生が来て、補習が始まった。
 ところで、今日の片倉先輩は何かが違う。
 なんとなく、体調が良さそうって言うか。先輩は、普段もっと気だるそうなんだけど、今日はのびのびして見える。
 走りのストライドも、心なしか大きい。

「ね、ねえ。片倉先輩、今日調子良さそうだね?」
「やっぱり! 森脇もそう思う?」

 並走してきた森脇に、こそっと囁かれる。やっぱり、気のせいじゃないみたい。
 葛城先生も、ホッとした雰囲気で、先輩の肩を叩いていた。
 よくわかんねえけど、先輩が気分良さそうで嬉しい。





 補習のあと、俺は片倉先輩に勉強会の件を切り出した。
 
「――ってことなんです。片倉先輩、いつがいいですか?」
「アホが。いつでも嫌だっつの」

 片倉先輩は、忌々しそうに舌打ちした。

「なんでっすか?」
「なんでもクソもあるか。「紫」と勉強会とか、冗談じゃねえっつーの。場違いにもほどがあるわ」
「そんなことないっす。部活の先生も「強い奴と練習したら上手くなる!」って言ってたし。きっと楽しいですよ」
「んだそりゃ。おめでたい奴だな……」

 拳を握って語ると、片倉先輩は呆れ顔になった。ジャケットを羽織ると、鞄を肩にかけて更衣室を出て行こうとする。

「とにかく俺はパス。お前らだけ行けよ」
「え~! 先輩も一緒がいいっすよう」
「ぼ、僕も一緒に来てほしいです!」
「うげっ、懐くなよ!」

 森脇と一緒に、ひしっと先輩の腕にすがると、嫌そうに腕をブンブン振られる。ひでえ。
 しょんぼり肩を落とすと、先輩は頭をわしわし掻きながら、ため息をついた。

「…………顔出すだけだぞ。絶対なんもしねえからな」
「!」

 俺と森脇は、ぱっと顔を見合わせた。
 先輩には舌打ちされたけど、嬉しくてにやける。

「じ、じゃあ、予定決めよう?」

 森脇が言うと、片倉先輩は死んだ目で頷く。
 全員の良い日取りを決めたので、このあと俺が葛城先生に伝えに行くことになった。

「楽しみだな、森脇!」
「う、うん!」
「片倉先輩、楽しみですね!」
「おう、全然」
「へへへ」
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