新たなハプニングだぜ!

「片倉先輩、いねえなあ」

 二年C組の戸口から中を窺って、俺は首を傾げた。
 ホームルームが終わって、ダッシュでやって来たのに。もう帰っちまったのかな。
 教室には何人か生徒が残ってて、ちょっとガヤガヤしてる。

「あの、すいません。片倉先輩って、帰っちゃいましたか」

 黒板のとこで喋ってる二人組に、聞いてみる。

「片倉?」

 その人たちは顔を見合わせた。

「知らねえよなあ」
「あいつ、すぐ帰ってくからな。なんか用?」
「そのー。葛城先生から連絡がありまして」
「じゃ、残念。入れ違いだわ」

 やっぱり、そうかあ。
 こうなったら、お部屋に訪ねてみるかな、って考えてたら。さっきの二人がじっと見てきてるのに気づく。
 いけね、お礼。

「すんません、ありがとうございました」
「あーちょっと待って」

 ペコっと頭下げて帰ろうとして、引き留められる。

「何すか?」
「お前さあ、俺らの序列なにかわかる?」
「えっ。青です」
「わかってんの。すげー」

 けらけら笑われて、ポカンとする。なに笑ってんの? すると、二人のうちピアスを超付けてるほうが、ニヤッと笑う。

「いやあ。黒に話しかけられたの、久々だわ」
「なあ、お前、最近黒になったの?」
「ええと。この秋、転入してきたところで」
「転入生ー! どうりで新鮮な反応するわけだ」

 縁の太い眼鏡かけてるほうが、超ピアスの肩を叩いている。えらいご機嫌そうなんだけど、全くテンションについて行かれねえ。
 と、急に腕を引かれる。

「うわっ!」

 気がついたら、教卓に押し付けられていた。両側からのぞき込むように抑え込まれて、ぎょっとする。

「ちょっと、何すんすか!」
「いいねえ。この何もわかってねえ感じ」
「わかるわかる。こういうので遊ぶのが面白れーんだよ」

 うんうん頷き合ってる二人に、俺は目を白黒させる。
 何言ってんのか、全然わかんねえぜ。
 ボコられるって感じじゃなさそうだけど、なんかやな感じがするっつーか。
 てか、他の人たちは全然スルーなんだけど、こういうノリって普通なん?
 と、超ピアスにネクタイをぎゅっと締められて、ぐえっとなる。

「お前さあ、決闘大会だれに頼むの」
「……えっ?」
「どうせ真面に闘わねえんだろ? なら――」
「ちょっと、待て」

 良く通る声が、太縁眼鏡の言葉を遮った。
 この声は――白井さんだ! つかつか歩み寄ってきて、二人の肩をひっつかんで引き剥がした。

「上位の人間が、下位の人間に決闘を申し込むのは、品のいい振る舞いじゃないぞ」
「何だよ、白井。俺たちは別に」

 言い募ろうとした超ピアスを、白井さんが強い目で睨む。太縁眼鏡が、「おい」って相方を宥めた。こそこそ囁き合ってたかと思うと、肩をすくめて去って行った。

「吉村くん、大丈夫か?」
「あ! はい、平気っす」

 ボー然としてると、心配そうに顔をのぞき込まれる。慌てて床に立って、ファイティングポーズをとる。白井さんは、ちょっと苦笑した。



「すまない。あいつらは、クラスメイトなんだが……。かなり変わった奴らだから、あまり近寄らないほうが良い」

 並んで、廊下を歩く。
 白井さんが心配して、俺の組まで送るって言ってくれたんだ。

「あのう。俺やっぱ、絡まれてたんすか?」
「気づいてなかったのか?!」
「いや、そうなんかな? って思ったんすけど。他の人があんまり普通だから……」

 そう言うと、白井さんは苦虫を噛んだみたいな顔をした。 

「あいつらは序列が高いから、みんな見て見ぬふりするんだよ。自分たちに火の粉がかからないようにね。せめて、風紀に知らせが来るだけマシなぐらいで」
「そうなんすか……」
「と言っても無理強いしたって証拠もないから、処罰と言うわけにも行かなくてね。頭が痛いよ。ともかく、あいつらには用心してくれ」
「はい。本当に、ありがとうございました!」
 
 真剣に諭されて、俺はじーんとした。
 俺の教室の前で、白井さんとは別れた。
 これからまた会議らしく、颯爽と歩き去って行く。忙しいのに送ってもらって、申し訳ない。
 背中に向かって、もう一回頭を下げた。





 教室には、もう誰もいなかった。
 俺も帰って、勉強だ。あと、魔力コントロールの練習もしなくちゃ。
 いそいそと帰り支度をしようと、鞄を取る。

「あれ?」

 なんか、軽くね?
 ジッパーを開けて、俺はぎょっとする。

「ええっ?!」

 な、無いっ! 
 俺の参考書! ――ああっ、自主勉ノートも! 
 慌てて机の中を見る。もっと悲惨なことに、空っぽになっていた。
 今日の教科書も、ノートも、筆箱まで、全部なくなってる!

「う、嘘だろ~……?!」

 おろおろと机の中を、ロッカーを何度も見たけれど、やっぱり無い。
 なんで? 誰か、間違って持って帰っちまったのか?
 教室中、どこを探しても見当たらなくて、俺は途方に暮れてしまった。
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