お前なんか好きじゃない。

 決闘は、校庭にあるリングで行われるようだった。
 おれたちのクラス以外にも、見に行く生徒がいっぱいいてさ。人が騒いでる方に行けば、自然にわかってしまったというか。
 
「それにしても、すごい人だね」
「よっぽど注目株なんだろ。誰だろうな? 人気で言うと、会長の八千草とか、三年の藤川さんとか?」
 
 道中、自動販売機で買ったネクターを飲みながら、田中がのんびりと言う。
 
「さぁ? 誰でもいっけど、授業潰してほしーわ」
 
 真北は、投げやりに小石を蹴った。
 出しなに、葛城先生に「この間にチェックするから」と宿題の提出をさせられたのが、堪えているらしい。
 葛城先生は、すごく怖いからなあ。
 それでも宿題を忘れてくる真北は、たいした度胸だと思う。
 人波に乗って歩いて行くと、リングに着いた。すでに、かなりの人だかりが出来ていて、あちこちで賑やかな声がする。
 
「三ヶ月ぶりだよな。二年の木ノ下が、またアイツに挑むんだろ?」
「今日こそイケるかどうか、賭けねぇ?」
 
 近くの生徒のやりとりに、耳が反応する。もしかして、今日の対戦相手は――。
 
「すみません!」
 
 人垣を縫うようにして、前に出ていく。
 そして――リングの上に立っている生徒をみとめ、おれは息を飲んだ。
 
「蓮条……!」
 
 リングの中央に、明るい茶髪の生徒と向かい合う、ハンサムな生徒。
 鳶色の真っ直ぐな長い髪。彫りが深く品のある横顔に、すらりとした長身。
 校則通りの着こなしの制服の胸元には、紫色のネクタイがある。
 
「おっ、今日は蓮条だったのか。あいつが出てくるなんて、珍しい」
 
 追いついてきた真北が、あっからかんと声を上げる。おれは頷くことも忘れ、リングに立つ彼――蓮条幸也にくぎ付けになっていた。
 
 ――蓮条、相変わらずだ……。
 
 彼は、リングをぐるりと巡るギャラリーに、優雅に微笑んでさえいる。気負いも気取りもみられない、水に浮かぶ白鳥のような佇まいに、胸が苦しくなった。
 
「蓮条は、副会長なのに全然挑まれねえもんなあ。見れるなんて、ラッキーだよ」
「……たしかになあ。みんなが騒ぐはずだぜ」
 
 人ごみをかき分けてきた田中が、真北に頷く。その最中、ちらっと気づかわし気な目線を送って来た。
 田中は知っているから、心配しているのだと思う。
 そのことが、有難くもあり、辛くもあった。
 
「楽しみだね」
 
 だから、ことさら何でもないように笑って、頷いて見せる。
 ……と。
 突如、わあっと歓声が上がる。
 リングに上がってきた、二人の生徒に向けてのものだった。
 
「八千草ー!」
「黒河先輩!」
 
 二人とも際立って長身で、序列は揃って紫。
 一人は、厳格そうな顔立ちで、制服の上からでも筋肉が張り詰めているのが見えるようだった。あかがね色の腕章には、「風紀委員」と金糸での縫い取りがされている。――風紀副委員長の黒河先輩だ。
 もう一人は、黒髪のいっそ凄艶なまでに美しい男。声援に拳を上げて応えるサービス精神もまた、人気の理由かもしれない。――生徒会会長、八千草。
 
「ひょー。蓮条ともなると、ジャッジも豪華だな」
「マジで、来てよかったぜ」
 
 周囲の生徒が、うれしそうに騒めいている。
 リングに上がった八千草が、マイクを持って檄を飛ばす。
 
「お集りの野郎共! 今日はレアなカードだ。授業のことはいったん忘れて、存分に盛り上がろうぜ!」
 
 われんばかりの歓声が沸き起こった。
 
「――よし、本日の決闘のルールは従来通り。10カウント制を採用、ダウンの回数制限はなし。ただ、俺と黒河先輩――ジャッジ二人が無理と判断した場合、試合終了とする」
「蓮条、木ノ下。異論はないか」
 
 八千草の言葉を引き継いで、黒河先輩が尋ねる。と、蓮条は優雅に、木ノ下は気合十分に頷いた。
 
「二年風紀、木ノ下疾風! 蓮条幸也に決闘を申し込む! その勝利の報酬は――蓮条、お前に「疾風くん」って呼んでもらうことだっ!」
 
 人さし指で、鋭く蓮条の胸元を差し、木ノ下は言い切った。
 ギャラリーが、どっと盛り上がる。「頑張れー」とか「今度こそやったれ」など、温かい声援が上がる。
……風紀の木ノ下は、蓮条への恋心をオープンにしてるんだよね。決闘は、彼にとってはアプローチらしく、もう何度も挑んでる。
 ニヤニヤ笑いながら、八千草が蓮条に目をくれる。
 
「だってよ、幸也」
「全く、君は面白がって。――木ノ下君、お受けしましょう。条件も、構いません」
「本当か!?」
「ええ。君が、私に勝てたなら」
 
 勝気な蓮条の微笑みに、顔を赤らめていた木ノ下も表情を引き締める。
 そして――両者はリングの中央に睨み合う。
 ジャッジがリングを離れ、鋭い音を立てて結界装置が発動される。魔法の余波で、ギャラリーが傷つかないように。
 
「では――蓮条幸也と、木ノ下疾風の決闘を開始する!」
 
 黒河先輩が、厳かに宣言した。
 
 
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