お前なんか好きじゃない。

「うわー、やばい!」
 
 おれたちは、廊下を疾走していた。
 三人がかりとは言え、あの量をすぐに洗い終わるわけでもなく。結局、遅刻する羽目になった。
 
「急げ急げ! 俺、宿題終わってねえんだよっ!」
 
 先頭を走る真北が、激しく手招きしながら振り返る。
 おれが真ん中を走り、そのかなり後ろを、田中が縺れそうな足取りでついてくる。
 
「待ってぇ、二人とも!」
「田中、頑張れ!」
「んもー! デブだからだよっ」
 
 ぎゃあぎゃあ言いながら(主に真北が)、教室にたどり着いたころには、すでに授業開始から十分経っていた。


 
「遅れてすみません! ――あれ」
 
 三人まとまって、教室にとびこんだおれたちは、目を丸くする。
 そこには、誰一人着席していなかった。机の上に、教科書やノートはでているけど――生徒だけ、急にどこかに誘拐されたみたいだ。
 きょろきょろと辺りを見渡すおれたちに、教壇に立っていた葛城先生が怒鳴った。
 
「田中、西浦、真北! 遅刻しているぞ」
 
 鋭い眼光に、ひとりでに背筋が伸びる。
 数学の葛城先生ほど、見た目と中身を裏切る人はないと思う。
 姿だけなら、うちの妹と同じくらいに見えるのに――何と言うか、気迫が凄い。昔、通っていた剣道教室のおじいちゃん先生に似てる。
 
「すみません、葛城先生。で、あのう、みんなはどこに?」
 
 真北が、えへへと首を竦めながら、先生にたずねる。葛城先生は「むん」と唸って、肩を怒らせた。
 
「決闘を見に行ったのさ」
「決闘!?」 
 
 おれたちは、揃って驚きの声を上げる。――猛ダッシュのダメージから立ち直っていない田中だけ、いくぶん小さな声で。
 
「なんでも、生徒会に挑んだ者が居たらしい。授業開始前とは、間の悪いことだと思うが――「このカードを見逃すわけにはいかない!」と皆が拝むのでな。見学の名目で、行かせることにした」
「そうだったんですか……」
 
 真北が、後ろ手にガッツポーズしてるのが見えた。宿題提出の期限が延びて、嬉しいのかもしれない。

 ちなみに――「決闘」というのは、学園公認で行われる、一対一の魔法バトルのこと。
 この学園では「魔法が強い者こそが偉い」みたいに考えられていて――まあ、序列の制度からして、そういう感じだよね。
 その「強さ」を示す、最もわかりやすい指標が「決闘」で勝つこと。
 うちの学園では、どのスポーツよりも生徒が熱狂しているものなんだ。
 
「せっかくだから、お前達も見てくると良い。良い闘いを、その目で見ることでしか学べんことがある」
 
 葛城先生が、先生の鑑のようなことを言う。
 
「えっ、いいんですか」
 
 田中が、嬉しそうに顔をほころばせた。真北も、まんざらでもなさそうに頷いている。
 二人も、この学園の生徒の類にもれず、決闘が好きだ。
 
「行こうぜ、西浦」
「ああ、うん……」
 
 つまり、乗り気じゃないのはおれだけで。
 嬉しそうな二人に肩を叩かれて、おれは曖昧に頷いた。
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