お前なんか好きじゃない。

「お騒がせして、すんません。こいつが、さっき話してた一緒に来たダチの、イノリです」
「桜沢祈ですー。トキちゃんが、お世話になりますー」
 
 頭をかいている吉村くんの横で、桜沢くんが行儀よく頭を下げた。
 聞くところによると、二人は幼馴染で今までずっと同じ学校だったんだって。十年ぶりに会ったってわけじゃなかったんだね……。
 
「てか、どうしたよ。ロビーで待ち合わせしよって言ってたじゃん」
「そうだけどー。やっぱり、早く会いたくなっちゃって」
「彼女か! んで、片づけは終わったん?」
「んー? おいおい、なんとかなる予定ー」
「おいおいかぁ」
 
 二人はわちゃわちゃと小突き合っていて、本当に仲がよさそうだ。桜沢くんも、近寄りがたさが消えてるし。やっぱり、仲のいい友達といると、気分ってほぐれるものだよね。
 微笑ましく眺めていると、むっつりと頬杖をついていた佐賀が口を開く。
 
「桜沢。お前の部屋、最上階だろ?」
「……ん? そうっすけど」
「へえ、やっぱな」
「はあ」
 
 聞くだけ聞いて、納得したらしい佐賀と、特に追及するでもない桜沢くん。
 その間で、首を傾げている吉村くんのために、おれは説明することにした。
 
「最上階にはね、「紫」の生徒しか住めないんだよ。つまり、桜沢くんの序列は「紫」なんだね」
「そうなんすか?! イノリお前、すげーじゃん!」
「えー? そんなことないよー」
 
 うりうりと肘で突かれて、桜沢くんは苦笑いしている。
……「紫」と言えば、みんなの憧れの序列なんだけど。桜沢くんは、「それより、同じ部屋が良かった」って吉村くんの肩口に懐いている。
 本当に、大して嬉しくなさそうで、驚いてしまう。
 でも、最初から紫に選ばれる生徒だから。序列を気にしたりしないのかもね。
 
――私は、素晴らしいものに序列は関係ないと思いますよ。
 
「彼」もいつか、そんなことを言っていたのを思い出して。
 少し、胸の奥がチクッとした。
 
 


 
 
「へえ、そんで四人でメシに行ったわけ?」
「うん、そう」
 
 田中が、試験管に洗浄ブラシを突っ込みながら、言う。おれも、同じように手を動かしながら頷いた。
 
「西浦、災難だったなあ! 佐賀と、紫と、黒ってメンツで飯なんてさー。何食っても、味しなさそう!」

 ガチャガチャと試験管をしまっていた真北が、おどけて肩を震わせた。

「いや、まあ。新鮮ではあったけど……」

 おれは、曖昧に笑う。
 週明けの日。一限の後に、おれは二人に事情を話した。
 同室者が佐賀だったことを言うと、かなり驚いていた。おれたちの仲が悪いこと、二人も知っているからさ。

「佐賀と同室とか、嫌がらせじゃん。なあ、田中んとこ、泊まりにいっちゃえば?」
「や、それは流石に。それに、転入生は良い子だから、仲良くしたいんだ」

 吉村くんを、あの不機嫌男と二人きりにはさせられない。
 田中が、ポンとおれの肩を叩く。

「俺のことなら、気にすんなって。マジで無理なら、転入生ごと泊まりに来いよ!」
「田中……ありがとう」

 温かな心遣いが、しみた。ほんわかした空気が、その場に満ちる。

――その時。

 おれたちの使ってる流しに、実験道具が投げ込むように、置かれた。
 ガチャン、と危険な音がして、おれは驚いて振り返る。


「これも洗っといて」
「俺らのも、よろしく」

 と、感じの悪い笑みを浮かべたクラスメイトが、言い捨てていく。仲間と教室を出ていく胸元には、青のネクタイが揺れていた。
 彼らの笑い声が遠のいてから、真北が持っていた布巾を、床に投げつける。

「くそっ! あいつらぁ……ちょっと序列が高いからって、俺らを馬鹿にしやがって!」
「まあ、青はちょっとどころじゃ、ないけどな。でも、腹立つよなあ」

 田中がのんびりと言い、肩を竦めた。
 あの、青の生徒――斉藤のグループは、クラスで1番序列が高い。それで、序列の低いおれたちに、横柄に出てくることも、少なくなかった。
 いつものことだ。――怒っても、仕方ない。
 おれはため息をついて、再び洗浄ブラシを手に取った。

「俺たちが白だからって、やりたい放題しやがって。何様だよ――なあ西浦、あいつやっつけてくれよ!」
「……え」

 急に、真北の矛先がおれに向いた。目を丸くするおれに、真北はぐいと身を乗り出す。

「なあ、西浦~! あいつに目にもの見せてやろうぜ?」
「いやいや……無理だよ」
「西浦ならイケるって! 斉藤なんか目じゃねえよ。だってお前、元々は――」
「あーっと! もうチャイム鳴っちまうぞ!」

 田中が、突拍子もない声で叫んだ。
 我に返ったらしい真北が、「やべっ」と慌てて試験管を洗い出す。ここで、放っておこうって考えが無いあたり、真面目だ。

「西浦、急ごうぜ」
「……ああ」

 田中にウインクされて、おれはホッと息をつく。
 気づいて、助け舟を出してくれたらしい。
 無意識に、握りこんでいた拳を開くと、じんわりと汗をかいていた。

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