お前なんか好きじゃない。

 うちの学園は、変わってるって言ったよね。
 その最たるところが、「序列」っていう制度だと思う。
 入学時に実施される、魔力の測定。
 その結果で、魔法使いとしての序列がつけられるんだ。
「紫・青・赤・黄・白・黒」の六色からあって、最上位が紫、最下位が黒。
 生徒達は、それぞれの序列の色のネクタイを着ける規則になっているから――どの序列かは、一目でわかる。
 序列は、高いほど尊敬され、低いと馬鹿にされる。
 特に、最下位の「黒」の生徒への扱いは酷く――そこに格付けされて、卒業できるものはほとんどいない。
 吉村くんの、「黒」っていう序列は……そういうものだった。
 ……とはいえ。
 
「すごく、良いと思う」
「へへっ。あざっす!」
 
 動揺を押し隠し、無難な感想を言う。嬉しそうな吉村くんに笑み返して、おれは迷っていた。
 こんな事情を、どうやって伝えたらいいんだろう?
 転入してきたばかりで、ただでさえ不安な時期に。
「君の序列は、最下位で。みんながいやな態度をとると思うから、身辺に気をつけて」って言うの?
 そんなの、もっと不安を煽るだけじゃないか。
 悶々と悩んでいたら、佐賀が爆弾を放り込んだ。
 
「お前、黒かよ。これから気ィ付けた方がいいぜ」
「えっ、何がすか?」
  
 ――直球かよ!

 唖然としているうちに、やつはさっさと序列の説明をしてしまう。
 
「――で、てめえの黒は、一番ビリってこった。メチャメチャ見下されるだろうから、覚悟しとけ」
「そ、そうなんすか。世知辛いっす……!」
 
 佐賀の辛らつな物言いに、吉村くんの眉がハの字になる。
 
「おい、佐賀! そんな言い方ないだろ」
 
 流石に、黙っていられなくなって、おれは口を挟んだ。
 本当のことを、そのまま言えばいいってもんじゃない。佐賀には、デリカシーとか配慮ってものが欠けている。
 悪人面を強く睨みつけると、やつも胡乱な目で見返してきた。
 
「あ? 何がだよ」
「さっきから、不安ばかり煽って。吉村くんの身にもなれよ」
「は。お為ごかし言って何になるってんだ。ご都合野郎が」
「何だと……!」
 
 明らかな蔑みに、カッとなって立ち上がる。佐賀も、じろりと睨み上げてきた――そのとき。
 
 コンコン、コンコン。
 
 軽やかなノックの音が、緊張感を打ち崩す。 
 はっと我に返ったら、吉村くんがオロオロとおれたちの顔を見比べていて。
 頭に上っていた血が、さあっと下りていく。
 
「……ごめんね、吉村くん。驚かせちゃって」
「いやっ、そんな。むしろ俺のために、すんません」
「ううん、そんなことないよ。……そうだ、誰か来たみたいだね。出てくるよ」
「あ。俺、出ますよっ」
「大丈夫。座ってて」
 
 立ち上がろうとした吉村くんを手で制し、おれはドアに向かって歩き出す。
 佐賀とすれ違うとき、ことさら気を張った。あいつの苛立ちが肌から伝わってきて、唇をひき結ぶ。
 失敗した。
 おれまで乗せられて、怒ったって仕方がないのに。
 今後は、もっと冷静に話し合わなきゃな……
 
「はい、お待たせして……」
 
 悶々としたままドアを開けて――おれは息を飲んだ。
 
「……!」
 
 目の前に立っていたのは、はっとするほど綺麗な男だった。
 おれも、背がある方だけど、さらに目線が高い。
 すっきり通った鼻筋に、切れ長の大きな目。透き通るような頬に、亜麻色の髪が落ちかかっている。
 よそよそしいまでの美貌に、圧倒されてしまう。
  
「あのー。ここ、吉村時生くんのお部屋ですかぁ?」
「あっ、うん」
 
 涼やかな声にゆったりと尋ねられ、慌てて頷く。
 すると、後ろから明るい声がした。
 
「おっ、イノリー!」
  
 ストトト、と軽い足音を立てて、吉村くんが駆け寄ってくる。
 
「――トキちゃんっ」
 
 出し抜けに、目の前の男が笑み崩れた。
 白い頬に血が上り、目が潤んで――作り物めいた美貌に爆発的な生命力が漲った。
 おれは、その変わりっぷりにぎょっとする。

「トキちゃん……! 会いたかったぁ」
「ふぎゃあ!?」

 綺麗な男は、大きく両腕を開くと、近づいてきた吉村くんをぎゅうと抱え込む。
 まるで、十年ぶりに会った友達にするような、熱い抱擁だ。

「えぇ……?」

 じたばた暴れる吉村くんと、幸せそうになつく男。
 これは、その――どう反応したものか。
 いつの間に、歩いてきてたのか。
 佐賀が隣で、眉根を寄せて言った。

「なんだ、あいつら。恋人かよ」
「そういうこと、言うなよ」

……おれも思ったけど、口に出しちゃだめだろ!

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