お前なんか好きじゃない。

 寮までの道のりを、おれ達はずっと無言で歩いた。
 途中、鞄も何も持っていないことに気づいて、教室に取りに戻る。そのときに腕が離れて、ちょっとホッとした。
 なんで、連れ立って帰ってるんだろうとか。さっきのこと、何か言ったほうが良いのかとか。
 色々考えてるうちに、自室に着いた。
 
「……上がらないの?」
 
 さっさと荷物を置いて着替え始めたおれと違い、佐賀は荷物も置かずにドアに凭れて立っている。不思議に思って尋ねると、佐賀はぶっきらぼうに言った。
 
「先輩に呼ばれてっから、顔出してくる」
「えっ?」
 
 着替えない所を見ると、学校に戻るらしい。
 とんだ二度手間を踏ませたことに気づき、おれはちょっと狼狽してしまう。
 
「用があるなら、そっち行ってくれてもよかったのに……」
 
 そう言うと、佐賀は悪鬼の様な顔でおれを振り返った。
 
「うるせえ、タコ」
「――は?!」

 いきなり悪態をつかれて、瞠目する。
 佐賀は、ガシガシと頭を掻いたかと思うと――ため息をついた。

「遅くなるから、飯食って寝てろ」
 
 そう言い残して、出ていく。ドアがバタンと音を立てて閉まるのを、おれはポカンとして見送った。

「何なんだ、一体……」





 
 翌朝――
 おれは、医務室へと向かっていた。
 静まりかえった廊下を、佐賀と二人で歩いている。
……なんとなく、昨日とのデジャブを感じてしまうよね。
 昨夜遅かったらしいのに、おれが起きる頃には起きててさ。
 いつもの調子で、「吉村の見舞いか?」って聞いてくるから、「そうだよ」って答えたんだ。
 そうしたら、佐賀もそのつもりだったらしく。またしても、連れ立って歩いているわけなんだけど。
 
「……」
「……」
 
……本当に、静かだ。
 今日は休みだから、廊下は人気がなくて冷え込んでいた。
 最初は、何か話すべきかと思ったけど。おしゃべりする気分でも、無かったし。
 黙って歩いてたら、ふと気づいた。
 無言も、気にしなければ、とくに気まずくもないんだなって。
 もくもくと歩いているうちに、医務室に着く。
 把手に手をかけた途端、ドアが勢いよく開く。中から、弾丸のように黒い影が飛び出してきた。
 
「うわっ!?」
「……ああっ!」
 
 咄嗟に身をかわす。
 ドン、という音とともに、何かが佐賀の胸にダイブする。

「田野先生!?」
「あた、た……!」

 あっけにとられていると、先生はぶつけたらしい鼻を押さえながら、両手を慌ただしく振り回した。
 
「先生、どうしたんですか?」
「あああ、西浦くん! すみませんね。葛城先生のところへ行かなくちゃいけなくて、ですね……! 起きたら連絡するようにって言われてますから」
「えっ……!」
 
 慌ただしく叫ぶと、田野先生は一目散に駆け出した。数歩もしないうちに転んだ先生を見かね、佐賀が後を追う。振り返りざま、

「西浦!」

 怒鳴り声に、ハッと我に返る。起きたって、まさか。
 考える前に、おれも中へ飛び込んでいた。次の瞬間、目に入ったのは――
 
「トキちゃん、トキちゃん……! 良かった……!」
「……いのり……?」
 
 ベッドの上で、目をぱちぱちさせている吉村くんと。
 彼に覆いかぶさるように抱き着いて、大粒の涙を流す桜沢くんだった。

「吉村くん……!」

 ベッドに駆け寄ると、吉村くんがおれを見た。不思議そうな顔で、首を傾げている。

「にしうら、せんぱい……?」
「吉村くん……大丈夫? どこか痛いところは?」
「うす……へいきっす」
 
 まだ意識がハッキリしないのか、ぼんやりした様子だった。
 でも、本当に良かった。
 おれは、目頭が熱くなるのを感じ――慌てて俯いた。

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