お前なんか好きじゃない。

 ――悔しい!
 
 おれは、抱え込んだ膝を強く握った。
 押しかけた田中の部屋で、おれはひとり、苛立ちを持てあましていた。おれの剣幕に驚きつつ、迎えてくれた部屋の主は、「コンビニ行くわ」と留守にしている。
 十中八九、気を利かせてくれたんだと思う。おれが、一人で心の整理が出来るようにって。田中は、そういう奴なんだ。
 だからこそ、はやく冷静になんなきゃって思うのに――うまくいかない。
 
「くそっ」
 
 ……佐賀に乗せられて、醜態をさらしてしまった。どんなに腹が立っても、手を出したら負けだって、わかってたのに。
 けど――思い出しても、あの言い分は腹が立つ。
 そりゃ、感情的になったのはおれが先かもしれないさ。
 だからって、あんなの人格攻撃だ。どうして佐賀は、ああも的確に人の嫌がることを言えるんだろう。
 そう、中二のあの時だって、そうだった――。
 
 

 
 中二の頃、おれは酷いスランプに陥っていた。
 決闘で、ちっとも勝てなくなってさ。
 あるきっかけで、今まで得意だったことが、全然出来なくなったんだ。そのせいで、全部の勘が狂った。
 最初の内は、そんな自分が信じられなくて。なんとか騙し騙しやっていたけれど――
 少しでも戦況が不利になると、「勝てない」「失敗する」って気持ちが、腹の底から湧きあがってきたんだ。
 魔法は、精神力が要。心が弱いと、魔法だって弱くなるのは当然だ。
 次第に、思う様に動けなくて、消極的な戦い方をして、ずるずる負ける。そんなことを繰り返すようになった。
 序列も落ちて、周りにも色々言われて、悔しい思いもした。
 
「でも……もう二度と、勝てないのかもしれない」
 
 自分でも、勝つビジョンが見えなくなっていた――ある日。
 
「何だよ、さっきの試合は!」
 
 おれは、佐賀に胸倉を掴まれて、怒鳴られた。
 虚ろな気分で見上げた佐賀の目は、怒りに燃えていた。
 
「とことん腑抜けやがって……! てめえ、手を抜きやがっただろ?」
「……」
 
 んなわけあるか。
 と思ったけど、おれは何も言えなかった。
 その日の、決闘相手は佐賀だった。戦ったのは、初めてじゃない。あいつは、ことあるごとにおれに挑んできていたから。
 負けたのは、その日が初めてだった。もう、悔しいという気もおきないくらい、ダメな試合だった。
 
「何なんだよ、お前! 一回負けたくらいで、こんなんなりやがって! しっかりしろよ!」
「……」
「魔法が好きだって、一番じゃなくても――極めたいって言ってただろうが!」
 
 だから、おれなりに、打ちのめされていたんだよね。やいやい言ってくる佐賀を、ただボーっと眺めてた。
 そうしたら、あいつは――
 
「……言い返しもしねえのかよ。――だせえ奴。見損なった」
 

 
 
 ぎり、と握りしめた膝が軋む。
「だせえ奴」? 人に勝っておいて、なんだそれ。
 負けて落ち込んでいる人間を怒鳴りつけて、傷口に塩を塗り込んで。
 それが、人間のすることなのか?
 本当に、あいつには、デリカシーってものが欠けていると思う。

「……」

 転入してきた当初、佐賀とは同じクラスだったんだ。
 共通の友人に、田中がいたのもあって、接する機会は少なくなかった。おれと佐賀は、それなりにお互いを知っていたと思う。
 あくまで、知人レベルではあったけどね。
 佐賀とは合わなくて、よくぶつかったせいかもしれない。
 まあ、あいつは転入後すぐに空手部に入って、学園に早く馴染んだから。おれみたいな奴はぬるく見えて、イライラするんだろうって、納得はしてた。
 だから、あいつと友達だったことはない。
 それでも――人にあんな仕打ちをする奴だなんて、思ってなかった。
 
「……だから、関わりたくなかったのに」
 
 そうすれば、万事は無事だったはずだ。なんで、同室になんかなってしまったんだろう。
 おれは、自分の運の無さを嘆かずにはいられなかった。
 
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