お前なんか好きじゃない。
「吉村くんを空手部にいれるって、どういうこと?」
部屋に戻ると、おれはすぐに佐賀を問い詰めた。
吉村くんは桜沢くんと帰って来るらしく、おあつらえ向きに二人きりだ。
ネクタイを解いていた佐賀は、怪訝そうにおれを振り返る。
「はあ?」
「お昼に、由良から聞いた。お前が、吉村くんを部活に入れたがってるって。もう、先輩たちに話も通してるって……!」
「そのことかよ。昼聞いたなら、そんとき聞けよ」
――聞けるわけないだろ!
だって、由良の話じゃ、当の吉村くんは知らないって言うじゃないか。
空手部は、凄く厳しいから。本人の強い入部動機なしには、普通入れてもらえない。だけど、吉村くんは事情を鑑みて、体験入部を認めることになったって、由良が教えてくれた。
「先輩のお前が、話をどんどん進めてるって……吉村くんの前で言ったりしたら。あの子は気を使って、いやだなんて言えないじゃないか」
きっと睨みつけると、佐賀は肩を竦める。
「西浦クンは、お優しいこった。どうせ、俺から話すつもりだから、意味ねェけどな」
バカにしたように笑われて、カッとなる。
「なんで、そんな勝手なことするんだよ……!」
おれも、桜沢くんも――吉村くんに普通に過ごしてほしくて、彼に何も伝えないようにしてたのに。大体、その方針を話したとき、佐賀は何も言わなかったじゃないか。
「ちょっと落ち着けや。いちから話すからよ」
「……っ」
着替え終わった佐賀が、おれに向き直る。机に建てていたクリアファイルから、一枚の紙を取り出した。促されてさっと目を通すと、「入部届」らしい。
「俺はよ、吉村は強くなるべきだと思う。あいつを鍛えるために、空手部はうってつけの場所だぜ。部長の茶嶋さんは筋の通った人だ。部員も、序列で人を苛めるようなクズはいねェしよ」
佐賀は、ハッキリと自分の考えを口にする。自分の考えに疑いも迷いもないのが、声からもわかった。
おれは、冷静になるために息を吐くと、佐賀の言い分を咀嚼する。
たしかに――空手部は「強くなりたい」と願う生徒の、大きな受け口だと聞く。序列に関係なく、やる気のある生徒なら誰でも面倒を見るって。きっと、「黒」であっても。
でも、あそこは練習の厳しさが尋常じゃないらしいじゃないか。あんまりにも部員がいつかないから、最近は入部の時にかなり強めの意思確認をするようになったってほど……
そんなところに、勝手に入部を決められたら?
「お前の言い分はわかるけど。やっぱり勝手に決めるのはやり過ぎだと思う。吉村くんの意思を確認すべきだよ」
おれだったら、いやだ。背に腹は代えられないと言われても。
結局、学園生活が阻害されることに、変わりないじゃないか。
そう言うと、佐賀は片眉を上げた。
「んな悠長なこと言ってる場合かよ? 西浦てめえ、何年この学園にいる。序列が低いと、どんだけやってらんねェことがあるか、わかってるはずだろうが」
「それは……おれだって、わかってる。だけど、それならその分、おれ達がサポートしたらいいじゃないか」
言い募ると、佐賀は大きく息を吐く。
「限度があるだろ。あいつが卒業するまで、だいじだいじに守ってやんのか。そんなん、男相手にすることじゃねぇ」
「なっ……」
「西浦、「黒」なのは吉村だ。望もうが望むまいが、そのツケを払うのは吉村にしか出来ねェんだよ。あぶねェ目に遭っても、あいつ自身が対処できるようにならねぇと駄目だ」
「……」
佐賀の言う、理屈はわかる。でも、それはどこまでいっても「正論」じゃないか。
実際に、それで序列を上げられるかはわからない。辛い思いを、するだけかもしれないのに。
おれが答えられないでいると、佐賀は「チッ」と苛立たし気に舌打ちをした。
「気に入らねえ部活がなんだってんだ。吉村が強くならねエ限り、普通に過ごす事なんて無理だってのに」
「……そんな言い方ないだろ!?」
冷たい物言いに、おれはかっとなって怒鳴った。
「序列が低かったら、好きな部活も選べないのかよ。強くなることばっか考えて――毎日キリキリして、過ごさなきゃいけないのか? 序列、序列って――そういう考え方自体、間違ってるんじゃないか!」
すると、佐賀も怒鳴り返してきた。
「何寝ぼけたこと言ってんだ? それがこの学園だろ! ああ、そうか――負けるのが嫌で、尻尾巻いて逃げたてめえには、わからねえか?!」
「――!」
おれは、ひゅっと息を飲んだ。――怒りで目の前が真っ白になる。
――ガッ!
気がついたら、おれは佐賀をぶん殴っていた。
拳が赤くなって、じんじんと熱を持つ。
佐賀は、避けなかった。ただ静かに、おれを睨みつけてきている。
それがますますむかついて、怒鳴った。
「お前には、わからないかもしれないけど……! 人にはどうにもならないことがあるんだ! お前の根性論を、人に押し付けるんじゃねえよ!」
佐賀は、黙っている。怒鳴りもせず、ひたすら静かに。
おれは悔しさに唇を噛んで――身を翻し、部屋を飛び出した。
部屋に戻ると、おれはすぐに佐賀を問い詰めた。
吉村くんは桜沢くんと帰って来るらしく、おあつらえ向きに二人きりだ。
ネクタイを解いていた佐賀は、怪訝そうにおれを振り返る。
「はあ?」
「お昼に、由良から聞いた。お前が、吉村くんを部活に入れたがってるって。もう、先輩たちに話も通してるって……!」
「そのことかよ。昼聞いたなら、そんとき聞けよ」
――聞けるわけないだろ!
だって、由良の話じゃ、当の吉村くんは知らないって言うじゃないか。
空手部は、凄く厳しいから。本人の強い入部動機なしには、普通入れてもらえない。だけど、吉村くんは事情を鑑みて、体験入部を認めることになったって、由良が教えてくれた。
「先輩のお前が、話をどんどん進めてるって……吉村くんの前で言ったりしたら。あの子は気を使って、いやだなんて言えないじゃないか」
きっと睨みつけると、佐賀は肩を竦める。
「西浦クンは、お優しいこった。どうせ、俺から話すつもりだから、意味ねェけどな」
バカにしたように笑われて、カッとなる。
「なんで、そんな勝手なことするんだよ……!」
おれも、桜沢くんも――吉村くんに普通に過ごしてほしくて、彼に何も伝えないようにしてたのに。大体、その方針を話したとき、佐賀は何も言わなかったじゃないか。
「ちょっと落ち着けや。いちから話すからよ」
「……っ」
着替え終わった佐賀が、おれに向き直る。机に建てていたクリアファイルから、一枚の紙を取り出した。促されてさっと目を通すと、「入部届」らしい。
「俺はよ、吉村は強くなるべきだと思う。あいつを鍛えるために、空手部はうってつけの場所だぜ。部長の茶嶋さんは筋の通った人だ。部員も、序列で人を苛めるようなクズはいねェしよ」
佐賀は、ハッキリと自分の考えを口にする。自分の考えに疑いも迷いもないのが、声からもわかった。
おれは、冷静になるために息を吐くと、佐賀の言い分を咀嚼する。
たしかに――空手部は「強くなりたい」と願う生徒の、大きな受け口だと聞く。序列に関係なく、やる気のある生徒なら誰でも面倒を見るって。きっと、「黒」であっても。
でも、あそこは練習の厳しさが尋常じゃないらしいじゃないか。あんまりにも部員がいつかないから、最近は入部の時にかなり強めの意思確認をするようになったってほど……
そんなところに、勝手に入部を決められたら?
「お前の言い分はわかるけど。やっぱり勝手に決めるのはやり過ぎだと思う。吉村くんの意思を確認すべきだよ」
おれだったら、いやだ。背に腹は代えられないと言われても。
結局、学園生活が阻害されることに、変わりないじゃないか。
そう言うと、佐賀は片眉を上げた。
「んな悠長なこと言ってる場合かよ? 西浦てめえ、何年この学園にいる。序列が低いと、どんだけやってらんねェことがあるか、わかってるはずだろうが」
「それは……おれだって、わかってる。だけど、それならその分、おれ達がサポートしたらいいじゃないか」
言い募ると、佐賀は大きく息を吐く。
「限度があるだろ。あいつが卒業するまで、だいじだいじに守ってやんのか。そんなん、男相手にすることじゃねぇ」
「なっ……」
「西浦、「黒」なのは吉村だ。望もうが望むまいが、そのツケを払うのは吉村にしか出来ねェんだよ。あぶねェ目に遭っても、あいつ自身が対処できるようにならねぇと駄目だ」
「……」
佐賀の言う、理屈はわかる。でも、それはどこまでいっても「正論」じゃないか。
実際に、それで序列を上げられるかはわからない。辛い思いを、するだけかもしれないのに。
おれが答えられないでいると、佐賀は「チッ」と苛立たし気に舌打ちをした。
「気に入らねえ部活がなんだってんだ。吉村が強くならねエ限り、普通に過ごす事なんて無理だってのに」
「……そんな言い方ないだろ!?」
冷たい物言いに、おれはかっとなって怒鳴った。
「序列が低かったら、好きな部活も選べないのかよ。強くなることばっか考えて――毎日キリキリして、過ごさなきゃいけないのか? 序列、序列って――そういう考え方自体、間違ってるんじゃないか!」
すると、佐賀も怒鳴り返してきた。
「何寝ぼけたこと言ってんだ? それがこの学園だろ! ああ、そうか――負けるのが嫌で、尻尾巻いて逃げたてめえには、わからねえか?!」
「――!」
おれは、ひゅっと息を飲んだ。――怒りで目の前が真っ白になる。
――ガッ!
気がついたら、おれは佐賀をぶん殴っていた。
拳が赤くなって、じんじんと熱を持つ。
佐賀は、避けなかった。ただ静かに、おれを睨みつけてきている。
それがますますむかついて、怒鳴った。
「お前には、わからないかもしれないけど……! 人にはどうにもならないことがあるんだ! お前の根性論を、人に押し付けるんじゃねえよ!」
佐賀は、黙っている。怒鳴りもせず、ひたすら静かに。
おれは悔しさに唇を噛んで――身を翻し、部屋を飛び出した。