お前なんか好きじゃない。

 食堂につくと、吉村くんはすぐに見つかった(桜沢くんによって)。
 こっちに背中を向けている佐賀と、談笑している吉村くん。――その隣に予想外の人物を見つけ、おれは目を見開く。
 
「あっ、イノリ。西浦先輩、お疲れさまです!」
「トキちゃん、おまたせー」
「吉村くんも、お疲れ」
 
 近づいたおれ達に気づいて、吉村くんがペコリと頭を下げる。返事をしながら、おれは彼の隣から目を離せない。
 すると――当の本人が、おれに気づいて驚きの声を上げた。
 
「あれー、西浦? 珍しい。飯食いに来たの?」
「ああ、うん」
 
 整った顔立ちに、人懐っこい笑みを浮かべた同級生。彼――由良は空手部で、佐賀の友人だ。つまり、おれとは顔見知り程度で、あまりよく知らないやつってことなんだけど。
 向けられた笑みにおれが反射的に頷くと、由良は対面の佐賀に向き直った。
 
「なんなの? お前ら、同室効果でついに仲良くなったわけ?」
「関係ねえだろ」
「あ? んだよゴリラ。感じ悪いよな」
「あわわ」
 
 悪態をついた由良が、吉村くんの肩を組む。同意を求められた吉村くんは、おろおろと首を振り回している。
 すると、いつの間に側へ寄っていたのか。桜沢くんが、吉村くんを腕に引き寄せた。
 
「もー、トキちゃんを巻き込まないで下さい」
「悪い、悪い」
 
 口をとがらせる桜沢くんに、由良が両手を上げて笑っている。なんだか、知り合いみたいな気安さを感じて、おれは戸惑った。
 突っ立っているおれの後ろを、お盆を持った生徒達が邪魔そうに歩いて行く。慌てて椅子を引いて座る。
 ……桜沢くんが吉村くんの隣に座ったので、必然的に佐賀の隣になってしまった。
 
「先輩がた、なに食いますか? 俺とイノリで取ってきます」
「いやいや、いいよ。俺と西浦で取ってくるから」
 
 吉村くんを笑顔で制して、由良が言う。「え」と思っていると、促すように肩を叩かれた。別に、後輩に行かせるつもりはなかったけど、なんで由良と……?
 
 
 
「混んでるねー」
「そうだね……」
 
 昼時だけあって、長蛇の列ができていた。列の最後尾につくと、由良が面白そうな声で言う。
 
「なんでコイツいるんだろ? って思ってるっしょ」
「え、いや……」
 
 図星だった。
 とっさに冴えた相槌が打てなくて、口ごもっていると、由良は笑い声をあげる。
 
「西浦って、意外と顔に出るよね」
「それは……ごめん。でも、由良がいやとか、そんなんじゃないよ」
「そう? 良かったわ」
 
 由良は、片頬をにっと吊り上げた。薄い唇から、大きい犬歯がのぞく。
 人数分のお盆をとり、注文をしながら――おれたちはぽつぽつと世間話をした。
 
「ゼミ、どこにした?」
「おれは、高柳先生のところだよ。由良は?」
「俺は薬学。葛城先生のとこと迷ったけど、重講オッケーらしいから、メインは姫子先生」
「そうなんだ」
 
 バイタリティあるなあ。相槌を打っていると、由良が不意におれの目を覗き込んできた。
 
「でも俺、西浦は「形態学」の方かと思ってた。蓮条がいるから、行かなかったの?」
「――!」
 
 たれ気味の目が、探るように見つめてくる。
 おれは、内心の動揺を悟られまいと、ニコリと微笑んで見せた。
 
「一応、悩みはしたけど」
「へえ」
 
 由良は、納得したのかしないのか。よくわからない笑みを浮かべ、前を向いた。
 おれは、ふっと息を吐く。……こういう無遠慮な間合いのとられ方は、あまり好きじゃない。引き際があっさりしてるだけ、由良は「誰か」よりマシかもしれないけど。
 
「話変わるけどさあ。吉村って、いい子っぽいね」
「ああ。うん、良い子だよね」
 
 本当に話が飛んだな、と思いつつ穏やかに頷いた。
 由良が、空のコップを差し出してきたので、水差しを取って水を注ぐ。
 
「佐賀のやつが頼んできたときはさ、どうしようかと思ったけど。あいつ、「黒」だけどひねてないし、うじうじしてねーし。入って来ても嬉しいかなー」
「え……?」
 
「下手なりに、敬語も使えるし」と、由良が肩を竦めておどけた。
 佐賀が頼んだって、何。入るって、どこに。話の内容が全く読めなくて、おれは戸惑いながら尋ねた。
 
「ちょっと待って。なんの話?」
「へ? 吉村が空手部入るって話だけど」
 
 由良が、きょとんとして言う。おれは、あんぐりと口を開いた。
 なにそれ、聞いてない!
 
 
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