お前なんか好きじゃない。

 『入学時、「赤」に選別されたものは、絶対に「紫」になることがない』
 
 この、「赤のジンクス」のことは、入学してすぐに知った。 
 当のおれが、入学時に「赤」だったからなんだけどね。
 どこにでも、お節介焼きはいるもので。おれが「赤」だと知ると、同情なのか激励なのか、みんな挙って教えてくれた。
 
「あのジンクスはな、創立の頃から破られてないんだぞ。だからお前なんか、紫になれない頭打ちの赤なんだ! いい気になるな!」
 
 というのは、当時のクラストップの発言。転入生にテストで負けたのが、よっぽど気に入らなかったらしい。
 当時のおれは、それで特に何か思ったわけじゃない。「ジンクス」とか言われても、ピンと来なかったし。ただ、「そんなこと、わざわざ言わなくていいのにな」って、いやな気分になっただけ。
 なのに、その「ジンクス」はおれの後ろをついて回った。
 
「西浦くん、すごいね。君なら、ジンクスを破れるんじゃない?」
「その先生の授業受かったの? やっぱ、紫ねらってるんだ?」
 
 いい結果が出せると、「ジンクスを破れるかも」と期待されて。
 
「西浦くん、この前駄目だったね。やっぱ、紫にはかなわないのかな……」
「西浦くんなら、ジンクスを破れるって思ってたけど。無理っぽいな」
 
 悪い結果のときは、勝手に失望された。
 やることなす事、赤のジンクスを破れるかどうかに結びつけられてしまう。
 おれは、「紫」を目指すつもりなんて、なかった。ただ、覚えたての魔法が楽しくて、一生懸命やっていただけだったのに。
 大人もだけど、子供だって十分勝手だよ。  
 そういう流れに、あらがおうとしたこともあったけどね。――色々あって、そういう気力も萎えてしまってる。
 中二の時に、一度負けたら負け癖がついてさ。……序列が「白」になったんだ。
 序列が下がってすぐは、「終わった」とも言われたし。田中以外の友達は、全員態度を変えたけど。
 でも、それでいい。 
 勝手に期待されることも、失望されることも疲れたから。
 
 
 
 
 
「こんにちはー、トキちゃんいますかぁ?」
 
 自室で課題をしていたら、桜沢くんが訪ねてきた。
 
「吉村くんなら、まだ帰ってないよ?」
「えっ、ほんとですかぁ? トキちゃん、先に帰ってるって言ってたのに」
 
 桜沢くんは不思議そうに、首を傾げている。
 外で待たせるのも変だし、中に入ってもらうことにした。
 
「ごめん。こんなものしかないや」
「わー、ありがとうございます」
 
 冷蔵庫にあったパックジュースを渡すと、桜沢くんは行儀よく頭を下げた。
 
「吉村くんと、待ち合わせしてたの?」
「はい。俺が、呼び出しされちゃってー。待たせるのも悪いなぁって」
「ああ、そうか。転入したばっかだもんね。手続きとか……」
「いや? なんか、喧嘩みたいな」

 パックを手の中で回しながら、桜沢くんが首を傾ける。
 言葉の意味を咀嚼して、おれは目を見開いた。
 
「それって、「決闘」のこと?」
 
 恐る恐る尋ねると、桜沢くんはこくりと頷いた。
 
「嘘……」
 
 信じられない。
 桜沢くんは「紫」とはいえ、転入して三日なのに。もう、決闘を申し込んだ奴がいるなんて。
 大方、まだ決闘慣れしてないうちに勝負をしかけて、「紫」を奪ってやろうって魂胆だろう。
 おれは、胸がむかつく思いがした。
 
「大変だったね」
「いえ、そんなに。全部断ったんで」
「そっか……慣れないうちは、そのほうがいいよ」
 
 ひとまず、ホッとした。
 それにしても――さもしいことを考える人っているものだよね。
 思わず、拳を握ったとき――ドアが音を立てて開いた。
 
「ただいまでーすっ」
  
 吉村くんの、元気な声が響く。

「トキちゃん、おかえ――」

 嬉しそうに立ち上がった桜沢くんが、不自然に言葉を切った。
 血相を変えて、吉村くんに駆け寄っていく。

「トキちゃん、どうしたの!?」
「いやー、なはは」

 おれも振り返って、目を見開く。
 吉村くんは、サイズがぶかぶかのジャージを羽織っていて。腕には、水の滴る学生鞄を抱えていた。

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