お前なんか好きじゃない。

「おまたせしましたーっ!」
「トキちゃん、ありがとー」
「ありがとう、二人とも」
 
 しばらくして、吉村くんと佐賀が戻ってきた。
 ずっとそわそわしていた桜沢くんは、そそくさとお盆を受け取りに席を立っている。すかさず、自分の正面に吉村くんのお盆を据えてるのが、流石だ。
 
「おらよ」
「あ、ありがとう」
「おう」
 
 おれの前にも、どんとお盆が置かれた。椅子をがたがた言わせながら、佐賀が正面に座る。
 手を合わせて、「いただきます」をして、夕食がはじまった。 
 
「トキちゃん、ごはんカツカレーにしたのー?」
「おう」
「えー、昨日も食べてなかったっけ?」
「だって、美味かったんだもん」
「トキちゃんてば。栄養かたよっちゃうぞー」
「あ、明日は違うの食うし!」
「ふふ、ホントかなー?」
 
 お礼を言ったら会話が消えたこっちと違い、隣は楽しそうだ。なんとなく、会話がカップルめいてるのは、気にしたら駄目だろうけど。
 と、吉村くんがひょこっとこっちを見る。
 
「西浦先輩、お酢足りてます? 「好きに足してね」ってお兄さんが言ってたっすよ」
「あ、うん。美味しいよ」
「よかったっす!」
「てめえが作ったんじゃねーだろ」
「なはは」
 
 佐賀に小突かれて、吉村くんはニコニコしている。
 それにしても、そうか。なんで酢がお盆に乗ってるんだろうって、思ってたんだよね。
 ちなみに、おれが頼んだのは日替わり定食のアジの南蛮漬けなんだけど。十分酸っぱいのに、酢を足して食べる人っているのかな。
 
「……あっ」
「あんだよ?」
「いや、なんでも」
 
 正面の佐賀が、思い切り酢を足していて、思わず声が出た。半眼で睨まれて、慌てて目を逸らす。
 と、ちょうど、せっせとアジの小骨を取っていた桜沢くんが、吉村くんに一口差し出すところだった。
 
「トキちゃん、あーんして?」
「あー」
「おいしー?」
「うん!」
 
 美味しそうな吉村くんを、桜沢くんはとろけそうな目で見つめている。吉村くんが、お返しに一口カレーをあげようとするのを見届け――おれはそっと視線を外す。
 
「……」
 
 食事に集中しよう。
 しばらく、吉村くんとほつほつと世間話をしながら、箸を動かし続ける。
――すると。
 
「おい、西浦。てめえ、なんだその食い方」
「え? ……なんか変?」
 
 急に、佐賀が話しかけて来て。その上、明らかに「咎め」のトーンで、おれは面食らう。
 佐賀は、不機嫌そうにおれの皿の一角を指さした。
 
「玉ねぎ。あからさまに避けてんだろーが」
 
 げっ、と思った。
 昔から、おれは偏食の性質で。野菜も肉も、あまり好きじゃないっていうか。
 行儀も悪いし、健康にも良くないから、無理にでも食べることにはしてるんだけどさ。今日の南蛮漬けは、思いのほか野菜が盛りだくさんで、苦労していたところだった。
 それにしても、こいつ人の皿をじろじろ見てたのかよ……。
 おれもばつが悪いけど、佐賀は趣味が悪いと思う。
 
「……残さないし、あとで食べるよ」
「嫌いなら、混ぜて食った方が良くねえ」
「おれは、あとでまとめて食べたいんだ」
「は。ガキみてえな食い方しやがって」
「はあ?」
 
 カチンとする。
 ちゃんと食べるって言ってるのに、何なんだよ。こいつがめちゃめちゃ酢を足してるの、おれは何も言ってないのに。
 
「何それ。お前、お母さんかよ」
「あ?」
 
 思わず言い返してから、ハッとする。
 しまった、ついカッとなって……子供みたいなことを口走った。
 案の定、佐賀は呆気にとられた顔をした。箸を止めて、おれをまじまじと見ている。
 
「お母さんか」
「……いや、その」
 
 もごもご口ごもるおれに――佐賀は、くっくっと肩を揺らし始めた。
 
「かわいいな、西浦クン」
「……っ」
 
 かあっと、羞恥に耳が熱くなる。
 こいつ、ほんとムカつく……!
 
 
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