お前なんか好きじゃない。

 食堂は、夕飯どきだけあって賑わっていた。
 生徒数が多いだけあって、テーブルはかなりの数用意されてるんだけどね。
 見た感じ、ほとんどの椅子が埋まってるみたいだ。注文のカウンターの前も、凄い行列になってるし。
 
「先輩たち、何食われます? 俺とイノリで取ってきます!」
 
 吉村くんが、笑顔で拳を握った。
 
「えっ、でも悪いよ」
「いやいや、先輩たちは座っててくださいっ。な、イノリ」
「……! うん、トキちゃん」
 
 吉村くんに腕を掴まれて、桜沢くんはほんわりと顔をほころばせている。
 なんだか、こき使うみたいで申し訳ない気もするけど……。でも、たしかに全員で行くより、席を取る組・ご飯を取る組で別れた方が、効率がいいかもしれない。
 
「じゃあ、お願いしても良い?」
「うっす! じゃあ――」
「いや、待て」
 
 話がまとまりそうなタイミングで、佐賀が口を挟んだ。
 
「吉村とは俺が行く。桜沢と西浦、席とってこいや」
 
 おれは、ぎょっとして目を見開いた。桜沢くんも、「何言ってるの?」って顔が戸惑いをあらわにしている。
 
「ちょっと、何で勝手に」
「いいから、早く行け。おら、行くぞ吉村」
「えっ、あっ、うっす!」
 
 目を白黒させる吉村くんを引きずって、佐賀はさっさと列に並んでしまった。
 
「……」
 
 残されたおれと、桜沢くんは、微妙な空気のまま押し黙る。
 
「トキちゃん……」
 
 わびし気に呟いて、彼はしょんぼりと肩を落としている。
 あんまりにも、気まずい。
 この状況で、佐賀を恨まずに入れる奴がいたら、変わって欲しかった。
 
 






  
 突っ立っていても仕方ないので、おれと桜沢くんは空いてそうな席を探すことにした。
 
「なかなか空いてないね……」
「っすねー」
 
 たまに空いてても、明らかに「予約席」って感じだし。この時間帯、四人まとめて座れるところって、難しいんだな。いつも時間ずらすから、知らなかった。
 困ったなあ。
 通路をふらふら歩いていると、桜沢くんが「あの」と声を上げた。
 
「ん?」
「なんか、空くそうっす。席」
「えっ!」
 
 おれは振り返って、目を丸くする。
 桜沢くんが指をさしているのは、四人掛けの席だった。そこで食べていたと思しき生徒達が、大慌てで机の上を片付けている。
 そのうちの一人が、真っ赤な顔で桜沢くんに話しかけた。
 
「ご、ごめんねっ、待たせちゃって。すぐ済むから!」
「いえ。ありがとーございますー」
「う、ううん! ごゆっくり!」
 
 桜沢くんに会釈されて、その生徒はとろけそうな顔で頷いている。きゃあきゃあ言いながら、仲間で固まって駆け去って行った。
 
「……桜沢くん、あの子たちって?」
「んー? なんか、もう終わるからどうぞって」
「そうなんだ……」
 
 たぶん、嘘だ。
 ちらっと見えたけど、彼らのお盆の料理、ほとんど手つかずだったもの。おれが思うのに、桜沢くんに話しかけたかったんじゃないかな。
 改めて周囲の様子を見れば、桜沢くんはすごい注目を集めていた。
 ただでさえ目立つ容姿に加えて、やっぱり「紫」は特別だから……。
 当の本人は、カウンターの方をずっとチラチラ気にしてて。周囲の視線なんて、まるで気づいてなさそうだけど。
 
「あっ、トキちゃん発見ー」
 
 視線の先を追うと、吉村くんが笑顔で手を振っていた。桜沢くんも、にこにこと嬉しそうに手を振り返している。
 
「本当に、仲よしだね」
 
 ぽろっと、口から言葉が転がりだした。桜沢くんは、吉村くんから目を離さないまま、頷く。
 
「はい。俺、トキちゃん大好きなんでー」
「わあ、そうなんだ」
 
 反射的に相槌を打ちながら、内心びっくりしていた。
 この学園は、同性もオッケーな人が多いせいか……あんまり「好き」とか、友達に言わない感じだからさ。
 桜沢くんは来たばっかりだから、そんなつもりないってわかってるんだけど。
 
「とりあえず、座ろうか」
 
 いけない、いけない。
 友情を勝手に勘ぐったりしたら、失礼だよな。 
 気を取り直して、おれは椅子を引く。
 と、桜沢くんが「あっ」と声を上げた。
 
「どうかした?」
「西浦先輩。俺の横、来てもらっていいっすか?」
「いいけど。良いの?」
 
 先輩が横って、なんか嫌じゃない? 
 この前は、佐賀が早々に桜沢くんの横に座ったから、気を利かせろよと思ったんだけど……。
 不思議に思って尋ねると、桜沢くんはさらりと言った。
 
「俺ぇ、食べてるトキちゃん見てたいんでー」
「あ、そうなんだ……」
 
 桜沢くんって、やっぱり……いや、なんでもない。
 
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