お前なんか好きじゃない。

 おれの質問に、吉村くんはパッと顔を輝かせた。
 
「めっちゃ楽しかったっす!」
「良かった。クラスの子は……どんな感じ?」
 
 言葉を選びながら、気になっていたことを尋ねてみる。
 吉村くんは「えーと」って、首を傾げて言う。
 
「どうっすかねえ? みんな、割とシャイかもっす。なんか、すげぇパンチ強い奴もいたっすけどね!」
「そっか……」
「あと、先生が陸上部みてえに見えるけど、実はジャニーズ系の格闘家って感じの人で」
「そ、そう……?」
 
 後半よくわからなかったけど、元気の良い返事にひとまずホッとする。
 序列が低いだけで、あからさまに態度変える奴多いから。ショックを受けてないか、心配だったんだ。
 
「てめえのクラスって、葛城先生だろ?」
 
 黙っていた佐賀が、割り込んできた。話に入ってくると思ってなくて、おれは悪人面を凝視してしまう。
 吉村くんも、目を丸くして頷いた。
 
「あ、そうっす。ご存じですか」
「二年にも教えてっからな。西浦、お前のとこも葛城先生だろ」
「あ、うん。数学だけ……」
「へえ。俺のとこは、格闘もやってる。吉村、葛城先生はアタリだぜ」
「わあ、マジっすか!」
 
 なに、こいつ。
 なんか、普通に話してるし。おれにまで、普通に話してくるし……。
 そりゃ、不機嫌をまき散らされるよりは良いけどさ。さっきまでの雰囲気を引きずっているおれとしては、佐賀の態度に戸惑いを隠せない。
 
「帰りに、イノリと一緒に学校探検してきたんすよー。魔法の授業、はじまるの楽しみで」
「えらいね。また、わかんないことあったら、教えるよ」
「ありがとうございますっ」
 
 一方、吉村くんは、佐賀が怒ってないとわかって、ホッとしたみたい。ニコニコと、今日の顛末をいろいろ教えてくれる。
 おれだけギクシャクしたら、また気を遣わせそうだ。
 ここは一つ、大人になろう。
 そう心に決めて、笑顔を作ったとき。
 
 ――コンコン、コンコン。
 
 ノックの音が、響く。
 デジャブを感じてドアを振り向くと、吉村くんがぱっと立ち上がる。
 
「俺、出ますっ!」
 
 ぴゅっとドアに向かって駆け去って。――まもなく、明るい話声が聞こえてきた。相手の声の感じから言って、来たのはたぶん桜沢くんだろう。
 おれは、よいしょと腰を上げてドアに向かう。
 そこに居たのは、予想通りの桜沢くんで。吉村くんを抱き寄せてニコニコしてた彼は、おれに気づくと涼しい顔になった。「ちっす」と会釈したっきり、不思議そうに首を傾げている。
 
 ――なんで、この人いるんだろうって顔だなぁ。
 
 何と言うか、この前も思ったけど……わかりやすい子だ。おれは苦笑して、吉村くんに言う。
 
「吉村くん、なかに入ってもらっていいよ。立ち話だと、疲れるでしょ」
「ありがとうございます! でも、大丈夫っす。今から、メシ行こうって話してたんで」
「あ、そうなんだ」
 
 頷いてから、はたと気づく。
 と言うことは――また、佐賀と二人になってしまうんじゃないか。
 それは不味い。
 
「いいね。おれも、ごはん行こうかな」
 
 二人きりになりたくない一心で、そんな言葉が漏れた。すると、吉村くんがニコニコと拳を突き上げる。
 
「おっ、いいっすね! ぜひ行きましょうよ!」
「えっ?」
 
 桜沢くんと、おれの声がユニゾンする。
 彼の、「来るの?」って戸惑いの視線が胸に痛い。
 ちょっと待って、おれもそんなつもりではなかったんだ。
 さっきのは、普通に一人で行くつもりで。なにも、後輩のご飯に割り込むとか、そんな寂しがりみたいな真似はしないから。
 
「そうと決まれば、財布持ってきますね!」
「よ、吉村くん。ちょっと待って」
 
 笑顔で部屋に戻っていく吉村くんに、冷や汗をかきながら、声を上げたとき。
 
「あっ、佐賀先輩! 先輩もメシ行きませんか?」
 
 吉村くんが、さらに爆弾を落とす。
 絶句して、佐賀を振り返ると――ちょうどこっちを見ていたらしいあいつと、目が合った。
 
「行く」
 
 行くのかよ。
 って、内心で突っ込んだら、隣で桜沢くんも「行くんだ……」ってしょんぼりした声で呟いて。
 おれは、ほんとうに申し訳なかった。
 
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