第二ボタンと新しい制服
家までの帰り道。今日、光子郎が家に泊まりに来ることをヒカリは知らない。急に決めたことだからヒカリにはちゃんと伝えなくてはいけない。
「あ、ヒカリ。今日うちに光子郎泊まりに来るから」
こんなことは割と日常茶飯事なのだけど。ヒカリから返ってきた言葉は思いがけないことだった。
「そうだ。お兄ちゃん、言い忘れていたんだけど、わたし京さんの家に泊まって一緒にテスト勉強するの!」
「え、そうなのか?」
「あと、お兄ちゃんは聞いてなかったかもしれないけれど。お父さんとお母さん、おばあちゃんの家に泊りがけで出かけるからいないわ」
つ、つまり。ヒカリの話が本当ならば、今日オレの家には誰もいない……ってことだ。そして、ヒカリから極め付けの一言が。
「光子郎さんとふたりで楽しんじゃえば?」
「おお、ヒカリ、様様!」
「やだお兄ちゃん、大げさよ」
全くの偶然だと思うけれど、空気の読める、できる妹を持つ兄は幸せもんだと勝手にヒカリに感謝した。
*
光子郎の家があるODAIBA MANSIONの付近に着いた頃、光子郎は一旦、着替えや参考書を取りに行くと言って帰って行った。オレはヒカリと一緒に家に帰る。鍵を開けて家に上がると、ヒカリの言った通り、父さんも母さんも出かけてしまっていた。ヒカリも今日は泊まりに行くし、今日は本当に光子郎とふたりきりだという事実に内心浮かれっぱなしだった。
ヒカリが出かけて間もなく、光子郎はやってきた。おばさんからの手作りお菓子のお土産を持って。冷蔵庫に入っていたジュースをコップに注いで飲みながら、お菓子を頬張る。 おばさんの作るお菓子は相変わらず美味い。母さんがたまに作ってくれるお菓子も美味いけど、光子郎が羨ましいな、と思う。
晩飯はオレが作って振る舞った。冷蔵庫にあるもので作った簡単な肉野菜炒めだったけれど、美味しそうに食べてくれて嬉しかった。
そして、食後に光子郎からこんなことを切り出された。
「今日はすみませんでした」
「へ? なにが」
「昼間のこと。みんなの前で恥ずかしいことを言ってしまって。あのような失態はもうしませんから……!」
「んー、オレとしては、もっとオープンにノロけてくれてもいいんだぜ?」
すると、光子郎から思いがけない言葉が返ってきた。
「僕のイメージが崩れるので却下で」
気にしなさそうなのにイメージなんて気にしていたんだと意外に思う。
「ええ~! 別にいいじゃねえか。オレ、昼間すっげえヤバかったんだぞ」
「え、なにかあったんですか?」
ここでオレは昼間の出来事の最中の「とある事態」を白状した。
「あのとき、光子郎から口説かれているみたいで興奮して正直、ちんこ勃ちそうだった。ここだけの話、あの場に誰もいなければ、おまえを店のトイレに連れ込んで襲ってた」
ありのままに話終えると。ぱしーんと引っ叩いてきた。
「ちょっ……たいちさん!!」
「いてっ! なにすんだよ」
「あなたってひとは! なんてこと考えているんです!!」
「いてて! ジョーダンだよう」
顔を真っ赤にしてポカポカ殴ってくる。この様子がものすごく可愛いのだがその拳は地味に痛い。可愛いとは言っても、光子郎は男だからなあ。そりゃあ、力はもちろんある。
「うう~~っ!」
「いててっ! わ、悪かったって。許してくれよ、……な?」
「……仕方ありませんね」
光子郎はため息をつきながら言った。
「こんなあなたに最初に惚れたのは僕のほうですから。先に惚れた僕の負けです」
「へへへ、悪りぃな」
思わず抱きしめると光子郎はオレのほうへすり寄ってきた。素直じゃないところが可愛いな、とオレは思う。
オレの部屋に場所を移し、オレたちは勉強道具を広げ始めた。
「なあ、勉強始める前にひとつ確認したいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「勉強終わってからでいいんだけど、昼間も言ったけどさ。今日は家に誰もいないし、久しぶりにヤりたいんだけど。腹の調子大丈夫か?」
光子郎はオレの発言に目を見開いた後、
「相変わらず直球ですね……」
苦笑い気味に答えた。
「どっちなんだ? イエスかノーか!」
「イエスかノーならイエスですけど」
その答えに「やった!」と思ったのもつかの間、
「条件があります」と言われ、身構えた。
「なんだよ、条件って」
「残りの6教科、テスト範囲を復習できたら、してもいいですよ」
オレはその発言に固まった。
「……マジ?」
「はい、マジです」
にっこりとした笑顔でさらりと言う。
「光子郎、鬼だろ~!」
「そう簡単にはさせません。僕の身も持たないですし」
テストに関して余裕そうな光子郎にはオレの大変さは完全に他人事だ。
「頑張ってくださいね、太一さん」
「ちぇ~~」
残り6教科の復習を終わらすなんて出来っこないとオレがいじけていると。
「その代わり。全ての教科の復習を終えられたら、太一さんの言うことなんでも聞きますよ」
「マジで!?」
「はい、約束します」
オレはその言葉に浮き足立った。オレの言うことをなんでも聞いてくれるということは。光子郎の身体をオレの好きにしていいってことだ……。
「おっしゃ~頑張るぞ!!」
オレはその約束を信じて、猛然と課題に取り掛かった。
そして数時間が過ぎた頃。
「う~~ダレてきた……」
必死に進めど、やはり途中で行き詰まってくる。そんな最中に光子郎が、「太一さん、お風呂借りてもいいですか?」
と予想だにしないことを聞いてきた。
「え! いいけど……このタイミングで風呂入るのかよ!?」
「僕は自分のテスト範囲の復習終わってしまっていますし、太一さんまだまだ時間かかりそうですので。時間を持て余しても仕方がないですから、時間短縮のためにお風呂入りますね~」
そう言い残し、そそくさと風呂場へ行ってしまった。
「ち、ちょ! 待ってくれよ! おい!」
ひとり部屋に残されたオレ。言い残した物言いになんだかバカにされた気分になる。そして同時に見返したい気持ちがフツフツと湧いてきた。
「くそー! 見てろよ!!」
オレは光子郎から指摘された苦手なポイントをしらみつぶしに頭の中へ叩き込んでいった。
*
「お風呂お借りしました」
その声に顔を上げると、オレの部屋の入り口でさっぱりした顔をした光子郎が佇んでいた。
「どうです、進み具合は?」
その言葉に待っていましたと言わんばかりにオレはほくそ笑んだ。
「おう、終わらせたぞ」
「ほ、本当ですか?」
驚きながらも、テーブルの上にあったオレのノートを手に取り、確認していく。そして。
「すごい。やればできるじゃないですか」
「ま、まあな……」
オレはテーブルの上にぐでんと伏せる。
「お疲れ様でした。頑張りましたね」
光子郎は笑顔で優しく労ってくれた。オレは込み上がってきた欲望に勝てず光子郎のことを勢いで押し倒した。
「これで、オレの言うこと、なんでも聞いてくれるんだよな……?」
「は、はい。約束ですから。でも……太一さんは相変わらず気が早いですね。……先に準備しておいて良かった」
「え? 準備って?」
気になる言葉にオレが聞き返すと、しまったという顔をして、「い、まのは聞かなかったことに!」と突っぱねた。
「そう言われたら気になるだろ! 教えろって!」
強く言い返しながら熱く見つめると、顔を赤らめつつ顔や目線を逸らしながらも、しどろもどろに答えてくれた。
「太一さんは……課題を終わらせたら、すぐにしたがると思ったので。その、僕が先に、お風呂に入って……じゅ、準備、して……。それで、その、僕の準備、で、出来ていますから、い、いつでも……」
オレの性格をよく分かっている考えに舌を巻いたけれど、思わぬOKサインにオレはムラッときた。ホント、可愛いことしやがって。
「光子郎、誘うの上手くなったな。すげー興奮した」
「さ、誘ってなんかいませんよっ!」
「いいや、オレには誘っているようにしか聞こえなかった」
興奮した気持ちのまま、勢いで首元に唇を落とすと「んっ……!」という声とともに全身がビクンと跳ねるように反応する。そのまま胸元に顔を埋めると、身体から石鹸のいい匂いがした。
「あーもう我慢できねえ」
するつもりもないけどな。とは内心思いつつ、オレは光子郎の頬に手を当て顔を正面に向かせた。
「久しぶりだし。今夜は寝かせねえからな。覚悟しとけよ?」
「……はい」
オレたちはお互いの距離を更に近づけ、唇を深く、深く、重ね合った。
Fin.
「あ、ヒカリ。今日うちに光子郎泊まりに来るから」
こんなことは割と日常茶飯事なのだけど。ヒカリから返ってきた言葉は思いがけないことだった。
「そうだ。お兄ちゃん、言い忘れていたんだけど、わたし京さんの家に泊まって一緒にテスト勉強するの!」
「え、そうなのか?」
「あと、お兄ちゃんは聞いてなかったかもしれないけれど。お父さんとお母さん、おばあちゃんの家に泊りがけで出かけるからいないわ」
つ、つまり。ヒカリの話が本当ならば、今日オレの家には誰もいない……ってことだ。そして、ヒカリから極め付けの一言が。
「光子郎さんとふたりで楽しんじゃえば?」
「おお、ヒカリ、様様!」
「やだお兄ちゃん、大げさよ」
全くの偶然だと思うけれど、空気の読める、できる妹を持つ兄は幸せもんだと勝手にヒカリに感謝した。
*
光子郎の家があるODAIBA MANSIONの付近に着いた頃、光子郎は一旦、着替えや参考書を取りに行くと言って帰って行った。オレはヒカリと一緒に家に帰る。鍵を開けて家に上がると、ヒカリの言った通り、父さんも母さんも出かけてしまっていた。ヒカリも今日は泊まりに行くし、今日は本当に光子郎とふたりきりだという事実に内心浮かれっぱなしだった。
ヒカリが出かけて間もなく、光子郎はやってきた。おばさんからの手作りお菓子のお土産を持って。冷蔵庫に入っていたジュースをコップに注いで飲みながら、お菓子を頬張る。 おばさんの作るお菓子は相変わらず美味い。母さんがたまに作ってくれるお菓子も美味いけど、光子郎が羨ましいな、と思う。
晩飯はオレが作って振る舞った。冷蔵庫にあるもので作った簡単な肉野菜炒めだったけれど、美味しそうに食べてくれて嬉しかった。
そして、食後に光子郎からこんなことを切り出された。
「今日はすみませんでした」
「へ? なにが」
「昼間のこと。みんなの前で恥ずかしいことを言ってしまって。あのような失態はもうしませんから……!」
「んー、オレとしては、もっとオープンにノロけてくれてもいいんだぜ?」
すると、光子郎から思いがけない言葉が返ってきた。
「僕のイメージが崩れるので却下で」
気にしなさそうなのにイメージなんて気にしていたんだと意外に思う。
「ええ~! 別にいいじゃねえか。オレ、昼間すっげえヤバかったんだぞ」
「え、なにかあったんですか?」
ここでオレは昼間の出来事の最中の「とある事態」を白状した。
「あのとき、光子郎から口説かれているみたいで興奮して正直、ちんこ勃ちそうだった。ここだけの話、あの場に誰もいなければ、おまえを店のトイレに連れ込んで襲ってた」
ありのままに話終えると。ぱしーんと引っ叩いてきた。
「ちょっ……たいちさん!!」
「いてっ! なにすんだよ」
「あなたってひとは! なんてこと考えているんです!!」
「いてて! ジョーダンだよう」
顔を真っ赤にしてポカポカ殴ってくる。この様子がものすごく可愛いのだがその拳は地味に痛い。可愛いとは言っても、光子郎は男だからなあ。そりゃあ、力はもちろんある。
「うう~~っ!」
「いててっ! わ、悪かったって。許してくれよ、……な?」
「……仕方ありませんね」
光子郎はため息をつきながら言った。
「こんなあなたに最初に惚れたのは僕のほうですから。先に惚れた僕の負けです」
「へへへ、悪りぃな」
思わず抱きしめると光子郎はオレのほうへすり寄ってきた。素直じゃないところが可愛いな、とオレは思う。
オレの部屋に場所を移し、オレたちは勉強道具を広げ始めた。
「なあ、勉強始める前にひとつ確認したいことがあるんだけど」
「なんですか?」
「勉強終わってからでいいんだけど、昼間も言ったけどさ。今日は家に誰もいないし、久しぶりにヤりたいんだけど。腹の調子大丈夫か?」
光子郎はオレの発言に目を見開いた後、
「相変わらず直球ですね……」
苦笑い気味に答えた。
「どっちなんだ? イエスかノーか!」
「イエスかノーならイエスですけど」
その答えに「やった!」と思ったのもつかの間、
「条件があります」と言われ、身構えた。
「なんだよ、条件って」
「残りの6教科、テスト範囲を復習できたら、してもいいですよ」
オレはその発言に固まった。
「……マジ?」
「はい、マジです」
にっこりとした笑顔でさらりと言う。
「光子郎、鬼だろ~!」
「そう簡単にはさせません。僕の身も持たないですし」
テストに関して余裕そうな光子郎にはオレの大変さは完全に他人事だ。
「頑張ってくださいね、太一さん」
「ちぇ~~」
残り6教科の復習を終わらすなんて出来っこないとオレがいじけていると。
「その代わり。全ての教科の復習を終えられたら、太一さんの言うことなんでも聞きますよ」
「マジで!?」
「はい、約束します」
オレはその言葉に浮き足立った。オレの言うことをなんでも聞いてくれるということは。光子郎の身体をオレの好きにしていいってことだ……。
「おっしゃ~頑張るぞ!!」
オレはその約束を信じて、猛然と課題に取り掛かった。
そして数時間が過ぎた頃。
「う~~ダレてきた……」
必死に進めど、やはり途中で行き詰まってくる。そんな最中に光子郎が、「太一さん、お風呂借りてもいいですか?」
と予想だにしないことを聞いてきた。
「え! いいけど……このタイミングで風呂入るのかよ!?」
「僕は自分のテスト範囲の復習終わってしまっていますし、太一さんまだまだ時間かかりそうですので。時間を持て余しても仕方がないですから、時間短縮のためにお風呂入りますね~」
そう言い残し、そそくさと風呂場へ行ってしまった。
「ち、ちょ! 待ってくれよ! おい!」
ひとり部屋に残されたオレ。言い残した物言いになんだかバカにされた気分になる。そして同時に見返したい気持ちがフツフツと湧いてきた。
「くそー! 見てろよ!!」
オレは光子郎から指摘された苦手なポイントをしらみつぶしに頭の中へ叩き込んでいった。
*
「お風呂お借りしました」
その声に顔を上げると、オレの部屋の入り口でさっぱりした顔をした光子郎が佇んでいた。
「どうです、進み具合は?」
その言葉に待っていましたと言わんばかりにオレはほくそ笑んだ。
「おう、終わらせたぞ」
「ほ、本当ですか?」
驚きながらも、テーブルの上にあったオレのノートを手に取り、確認していく。そして。
「すごい。やればできるじゃないですか」
「ま、まあな……」
オレはテーブルの上にぐでんと伏せる。
「お疲れ様でした。頑張りましたね」
光子郎は笑顔で優しく労ってくれた。オレは込み上がってきた欲望に勝てず光子郎のことを勢いで押し倒した。
「これで、オレの言うこと、なんでも聞いてくれるんだよな……?」
「は、はい。約束ですから。でも……太一さんは相変わらず気が早いですね。……先に準備しておいて良かった」
「え? 準備って?」
気になる言葉にオレが聞き返すと、しまったという顔をして、「い、まのは聞かなかったことに!」と突っぱねた。
「そう言われたら気になるだろ! 教えろって!」
強く言い返しながら熱く見つめると、顔を赤らめつつ顔や目線を逸らしながらも、しどろもどろに答えてくれた。
「太一さんは……課題を終わらせたら、すぐにしたがると思ったので。その、僕が先に、お風呂に入って……じゅ、準備、して……。それで、その、僕の準備、で、出来ていますから、い、いつでも……」
オレの性格をよく分かっている考えに舌を巻いたけれど、思わぬOKサインにオレはムラッときた。ホント、可愛いことしやがって。
「光子郎、誘うの上手くなったな。すげー興奮した」
「さ、誘ってなんかいませんよっ!」
「いいや、オレには誘っているようにしか聞こえなかった」
興奮した気持ちのまま、勢いで首元に唇を落とすと「んっ……!」という声とともに全身がビクンと跳ねるように反応する。そのまま胸元に顔を埋めると、身体から石鹸のいい匂いがした。
「あーもう我慢できねえ」
するつもりもないけどな。とは内心思いつつ、オレは光子郎の頬に手を当て顔を正面に向かせた。
「久しぶりだし。今夜は寝かせねえからな。覚悟しとけよ?」
「……はい」
オレたちはお互いの距離を更に近づけ、唇を深く、深く、重ね合った。
Fin.
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