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JOJOってGO!‐熊みたいな高校生に絡まれる日々‐


「悪いんだけどこれ空条さんの家に持って行ってくれないかな」



「はぁ…」

なんで私が…という言葉はさすがに言わない方がいいか

目の前のプリント数枚を見ながらどんよりした気分でため息混じりに言葉を出してしまう

「きみ空条さんと仲いいだろ
彼今日も無断で欠席したからさすがに何もお咎めなしってのもまずくてね」

「別にいい訳でもないです、あんまり仲よくもなりたくないです
あと本人の家に連絡すればいいのでは?」

実質あいつに付きまとわれたせいでここ2年酷い目に会いっぱなしだ
もうやだホントやだ
今回なんてただのパシリじゃねーかよ
ホント勘弁して

「まぁまぁ、そんなこと言わずに
家は学校からそこまで遠くないからさ」

「でもうちの家への帰り道逆…」

「君怪我しているし今日は早退していいから、ね、頼むよ」

困り顔の教師にさすがにため息が漏れてしまう
こういう事をされると後々女子の視線が辛いのだ
かわい子ちゃんから睨まれるのは本意ではない

…きっとみんな空条が怖いんだろう、まぁ分からんでもないけど…
これで行かなかったらそれはそれで文句言われそうだししゃーないか

「分かりましたー、帰り道逆ってとこしか知らないんで地図下さい」

「あぁ、頼むよ」

ほらな、やっぱりお前は疫病神だよ空条承太郎…








「ふんふん、ほんとだ結構近いな…
あとデカイな、ほんとに金持ちだったんかあいつ」

地図の通りにてくてく歩いていくとそこには日本屋敷
割と普通の家々が建ち並んでるせいか結構目立つこと目立つこと
おかげで若干方向音痴な自分でもたどり着けた
( …本当はあの長ランくんの血痕辿ったんですけどね
ほんとに大丈夫だったのかな)

アイツのお父さんジャズミュージシャンなんだっけ
うちの父さんがファンだったから何となく覚えてる
ズブの素人だから正直詳しいことはわからないけど


「んー、これ入っていいのかな」


門の扉を軽く押す
あ、閉まってるわけじゃないんだ
じゃあちょっと失礼
玄関先まで来て扉をノックしてみたけど返事が来る様子はない
やっぱり屋敷がでかいんだな
先に空条ん家に電話で連絡しておけばよかった

「すみませーん、誰かいますかー」

「はぁーい、どちら様ー?」

「あ、こんにちは
空条承太郎さんのお宅で間違いないですよね
お母さんですか?」

「えぇ、そういう貴女は?承太郎のお友達かしら?」

友達…という言葉に苦虫を噛み潰したような顔になるのを必死で我慢した
決して友達などではないと否定したい気持ちと、実際承太郎に引き摺られながら学校の授業をフケるのは
なんというかその、罪悪感もあれどちょっと楽しかったりするもんだから
事実友達みたいなもんなんだろうと認めざるおえない…
そんな事実を改めてつき付けられてしまった
実際1人で問答してるだけだが

「いえ、ただの同級生です
今日はちょっと授業中に怪我をしてしまって、先生からついでにと先に帰ってしまった空条さんの分の課題プリント持ってきたんですよ」

「あら!そうだったの
ごめんなさいね、ありがとう」

「い、いえ、同級生として当然のことをしたまでです」

いくらあの熊やろうの家とはいえ、このお母さんに罪はないのでニコニコと場に合うように笑顔を繕う
空条のお母さんのなんて明るく朗らかで美しいことだろう
心が浮かれてしまいそうだ

そんなふうに嬉しさ全開で話をしている私を一瞬で不機嫌にさせてくれやがる声が上から降ってくる

「嘘つけ絶対ごねたろお前」

「げっ、ばれてら」

「ちっ」

舌打ちすんな聞こえてんぞ
てめー様のためにわざわざ持ってきたんだぞ有難く思えやコノヤロー

「ふふ、どうせならゆっくりしていってもいいのよ?
お母さんとしては承太郎が学校の話してくれないからお話したいし
ゆっくりしていってもらいたいんだけれどね」

「おい、やめろアマ」

な!!空条!こんな美しい女性に向かってアマって!

「お前それ母親にまで使ってんのかい
…絶対結婚してもすぐ別れるタイプだそうに違いない
きっと娘にまで愛想つかされる未来が想像できるぞ…!!」

「人の未来を勝手に想像すんじゃねぇ」

まぁきっと痛い目見る系親父になるだろうからそうなったら鼻で笑ってやーろうっ!

「それは置いといて、ゆっくりしていってもいいならお言葉に甘えさせていただきたいです」

「おい、置いとくな、話を」

「どっかの誰かさんが授業勝手にフケなきゃわざわざ自分家から5キロ先の家になんて来ないんだよ、意味わかるか?」

我が家は隣の市なので意外と距離がある
この家だって学校から近いって言ってもそれなりに距離があるし
できることなら休んでから帰りたい

「…勝手にしろ」

「ということなのでおじゃましまーす」

「今お茶出すわね」

「いいんですか!ありがとうございます」

わーいお茶だー!
なんて嬉しいものなんだろう!
休日はアフタヌーンティーは嗜むほうだけど基本紅茶かコーヒーなんだよね
友人って言ってもカフェでちょっと話したりとかだから家に上がってお茶なんて初めてだぁ
すごくワクワクする!

「てめぇ俺相手のときと違って随分嬉しそうじゃねぇか」

「そりゃこんなごつくてむさい顔だけ綺麗なヤツと比べたらねぇ…
ホリィさんだったよね、噂にたがわぬ美人だなぁ、ふふふ」

「面食いめ」

「うっせぇ」

可愛い子が好きで何が悪い
お前ら男だって可愛い女の子好きだろ?
私だってそうだ
てか女性は皆天使なんだよ
シニョリーナはみな天界からやってきた神様からの贈り物なんだ!

「てめぇ今寒気がするほど気持ち悪い事考えてただろ」

「気持ち悪いとはなんだ、女性は皆美しく気高いんだぞ」

「仲いいのね」

私と空条よりも先を歩くでホリィさんがクスリと微笑んだ

「えぇ、そんな事ないですこいつが勝手に突っかかってくるんですよー
この前だって校門前で取り巻きの女の子達に取り囲まれてるときーむぐっ!」

「……」

「むぐぅ…」

なんだよあの滑稽な出来事は一生ネタにできんぜ
ホリィさんにもっと笑って欲しいしそのための犠牲がお前なら別にいいだろ

「その先は言わせねぇぜ」

ダメだなこの顔は意地でも言わせねぇ気だ
全く母親の前でカッコつけたいんならもっとその札付きのワルみたいな行動抑えりゃいいのに

「…ちっ」

「俺の真似をするんじゃねぇ」

「舌打ちの仕方が似てるだけだろうがよ真似したつもりは毛頭ねぇわ」

「あーそーかよ」

「ところで」

「あ?」

「お前担いでった緑の長ラン君はどこだよ、お持ち帰りしてたろ」

ほらあの美味しそうな前髪の…と付け加えると空条は険しい顔をさらに険しくさせた

「その誤解をうむ発言はやめろ
花京院なら今向こうの部屋で眠ってる
あの後ちょいと色々あってな」

「花京院って言うのか…なんかすごくいい苗字だうんうん彼によく似合ってる気がする
そういえば、だいぶ怪我だらけだったけど大丈夫なの?病院連れていかなくて」

些細な怪我だってほっときゃ命に関わる
割と怪我をしやすい私からすれば唾つけときゃ治る理論の空条は正直理解できなかった

なんで喧嘩帰りでちょっとでも怪我してるとうっとおしそうにしていても保健室から救急セット借りてきて手当したりしていた
お互いしかめっ面で舌打ちしまくりながらで雰囲気としては非常に険悪だが

「…?」

「空条もだけどさ、怪我の治り早いからって手当は怠るなよ
どんな形で腕や足を落とすかわからないんだから」

「…お、おう」

「なんだよ不思議そうな顔して」

「いや、なんかてめぇらしくねぇなと思ってだな」

「なんだよそれ腹立つ」

むかっ腹がたったので横っ腹をグリグリと拳でちょっかいをかける
仕返しに1発デコピンを食らった
なかなか痛てぇじゃねぇか

「花京院の方に話を戻すが
さっきまで目を覚ましていたが急に気を失っちまってな
まだ目は覚めそうにねぇとじじいは言ってたな」

「ん?なに、お前んとこじいちゃんいんの?
やっぱ邪魔だった?」

そういやなんか慌ただしい感じは…するな

「いや、そういうわけじゃねぇ…ん、そういうわけじゃねぇって訳でもねぇのか」

「どっちなんだよ…あんまり長居しない方がいいなら花京院くんの顔みてお茶飲んだら帰るけど、あ、忘れるとこだったちょっとまってて」

「ん」

学生鞄の蓋を開けてパラパラと何枚かプリントをめくり、渡されるようにと伝えられていたものを取り出す

「ほら、課題プリント
授業フケたからおまえだけだと」

「どういうことだそりゃ」

「これはお前が悪いから私は何も言わん」

「ちぃ…しかたねぇか」

「そういうとこは何かと真面目だよなー 尊敬するわ」

「尊敬されても困るだけだ」

「言うと思ったよ
もうちょい喜べお前は」

「…多分だがお前に言われてるからだろうな」

「くっそタッパが同じくらいだったら絶対シバいてた」

なんで170しかないんだ、私
いやほかの女子に比べりゃそりゃ身長は高いし肩幅も広い方だから割としっかりした体つきなのは自覚してるけども
くそう、私も男だったら…
余計にタッパの差で滅多打ちにされそうだぜ…
主に心が

「やれるもんならやって見やがれ」

はーらーたーつーー!その!してやったみたいな自慢げな顔ーー!!
その鼻へし折るぞ!くっそぅ!!

「承太郎、誰と話しているんじゃ?客人か、だとしたら立て込んどるから」

「クラスメイトだ、フケた罰で課題持ってこさせられたんだとよ」

「因みに言っとくが私はちゃんと許可とって帰ってきてるからな、お前と一緒にするなよ万年不良ボーイ」

「不良じゃねぇ」

「屋上でモクやってんのどこのどいつだよ…」

「教師にチクってねぇお前も同罪だろうが」

「私はお前なぞ見ていないしお前なんぞ知らないで通すからいいんだよ
どのみち先生もお前のこわがって注意も出来ねぇし
反抗期は程々にしとけよ後で取り返しつかない黒歴史にならないうちな
あ、もう既に黒歴史か」

「なんでそんな達観してんだてめぇ…」

「さあの」

「……」

「お茶いれたわよー」

空条のじいちゃん(たぶん)を結果的にスルーしてしまうハメになったがホリィさんの一言で空条への突っかかりなど泡のようになかったことになる

「ありがとうございます!
自分が運びましょうか?」

「あらあらありがとう
でも大丈夫よ」

「そうですか?あ、空条お前飲む?」

ぎゅん!と効果音がつきそうな勢いで振り向いた私に空条は若干引き気味である
なんだよ美人な人にお茶入れてもらって浮かれねーやつなんか居ないだろうが

「…あ、あぁ
貰うぜ」

「ホリィさん承太郎くんのも用意してあげてください…ってなんつー顔してんだよ…」

「わざとだろ」

「え?何が?」

「なんでもねぇ」

何を言いたいのかよくわからん
あれか、私が空条のことを承太郎くんなんて呼んだからか
それにしたってなんだあのこの世のものじゃない何かを見るような目は
私は幽霊かなんかと勘違いされてるのか?え?

「ふーん?別にいいけどほらお前の」

「おう、悪いな」

「いいってことよ…うま」

ずずっと程よい熱さのお茶を口に入れると柔らかい苦味が舌を転がって思わず顔がにやける
えぐみも少なくスッキリした味わいで、香りもいい
かなり高価なものだとすぐ理解した
和菓子があれば最高だなと思いつつもう一口
あぁ、うまい

「お前緑茶好きだな」

「日本人だからな」

「関係あんのかそれ」

「ない!」

というかうちの家族基本緑茶飲まないからこうやって入れたて飲めるの最高なんです

というのが顔に出てたのかもしれない
呆れたような可哀想な奴を見るようなそんな顔をされた
げせぬ

「…」

「とりあえずこれ飲んだら花京院くんの顔見て帰るわ
明日は学校フケんなよ
お前そろそろ気をつけないと留年するからな」

「てめぇもな」

「諸々お前に連れ出されてることを差し引きてもらってるからご安心を
まぁ、死ぬほど補講されられてるけど」

「ちっ、贔屓しやがって」

「贔屓じゃねぇよ完全にお前の被害者だわ
こっちはお前と違って真面目な学生なんだから」

「どこがだ、俺が不真面目だって言いてぇのか」

「どっからどう見ても不真面目だろうが
金だって無限にあるわけじゃねぇんだぞまったく」

「お前はうちのお袋か」

「お前のお母さんじゃなくてもくどくなるわ…まったく…あぁお茶が美味い」

「話の切り方下手くそすぎだろ」

「こんなに長く喋ったことないからわかんねーんだよ」

普段は絶えず振りかかる奇異や嫉妬の視線にいたたまれなくてろくに友達が作れない
そしてそして、自分の困ったところは女性に対して優しくしようと頑張りすぎてどう見てもナンパにしか見えないのだ
おかげで引かれる、レズビアン疑惑まであがってしまった
全くそんなつもり無かったが

本気で女性に優しくしないとって思ってるのでしょうがない、これはもうそういう宿命なのだ、うんうん
もうちょっとこいつ相手みたいに砕けた方がいいんだろうけど
そうやって傷つけてしまったことが多い分、人との関わりが怖いのかもしれないと自己分析している

「…そうなのか」

「おいなんだその悲しいものを見る目は!
別に人と話しがするのが面倒なだけで話しかけられないとかそんなんじゃないから…特にお前とは一緒にいることは多くても大して話なんてしなかったし
今回の保健室事件が初めてだと思うぞ
受け答え以外で話したの」

こいつ案外決めたら意地でも譲らないとこあるから仕方なしについてくしかなかったし
こいつの腕力に勝てるならレスリングとかできる気がする
というわけでいつもなし崩し的に連れ出される羽目になっているのだが

「思いっきり喧嘩腰だったけどな」

「仕方ないだろ殺されるかもしれない緊張状態で冷静でいられるお前がおかしいんだよ」

「百歩譲って隅で怯えてんのはわかる」

「うん?」

「けどな、パイプ椅子を頭に叩きつけようとするのはやめとけ
アイツじゃなきゃ死んでたぞ、最悪」

「ぶっ!げほ!」

おいおいなんでその黒歴史掘り返すんだよ!
今日の話だけど!

「だいじょうぶか?」

空条の言葉にむせ込んでいると近くから褐色の手が差し出される
手にはテッシュが握られており口を抑えてその腕の持ち主を見るといかにもアラブ系の顔立ちをした青年?が微笑んでいた
優しそうな人だなとか、この人絶対老け顔って言われてるだろうなとか真剣にどうでもいいことが頭をよぎる

「すみません、えっと…」

「あぁ、わたしはアヴドゥル
モハメド・アヴドゥル」

少しカタコトにちかいがそれでもスラスラと日本語を喋る彼に思わず拍手したくなる
日本語ってなかなか難しいんだよ

「アブドゥルさんありがとうございます」

申し訳なさ半分にテッシュをもらって諸々を拭くついでに鼻もかむ
吹き出さないように口をしっかり閉じてたから鼻に入って少々痛んだ

「それにしても勇気がある子だ、スタンド使い相手にパイプ椅子で応戦するなんて」

その声に呆れが入っていたのは間違いないと思う
ほんっと何やってんだって感じですよねって自分の頭を殴りたい

「ただの命知らずだろ」

「自然と体が動いたんだよ
こいつは殺さないとって
多分相手はまだ人殺したことないから隙をつけばいけると思ったんだと思う
ごめんあとなんか話進んでて悪いんだけどスタンドってなんすか?」

サラリと自分の口から出た言葉にヒヤリとする
自分はこんな危険な思考を持ってただろうか…
あの一件でタガが外れた…なんてことないことを祈りたい

「おっかねぇ思考回路だな」

「うん、冷静になってみるとかなりやばい考えだったと思ってる
でもあの時はこうしなきゃって思ってたわけだから後悔とかはしてない
それとさ、スタンドってなに?」

「何故花京院が人を殺したことがないとわかったんじゃ」

「だってあいつまともに急所狙ってないし
そもそも殺しに縁があったらじわじわと首を絞めたりしない
保健医さんだって傷付けるだけじゃ済まないはず
なのに手加減していた
パイプ椅子へし曲げてたんだから私の首くらい折れるんじゃないかと思ったんだ
実際そうする気だったんだろうし
でもアイツためらったんだよ
それでさスタンドってな(ry」

「たからそのスキをついて手持ちのナイフであいつの触手を刺したのか」

「本人には1ミリもダメージ通ってなかったの悲しいけどな」

「ん?刺した?どう言うことだそれは」

「じつは…」

もういいや話してくれないみたいだし
空条もアブさんとなんか別の話し始めてしまった…
スタンドってのは超能力みたいなもんなんだろうね
そう思うことにしよう、うん

「…勇気のある子じゃ、怖かったろうに」

空条のおじいさんの言葉でじんと来るものがある
そういえばあの一件の後周りからは勇気があるとは言われたし尊敬やら恐怖やらいろんな視線を貰ったものだけど
こうやって怖かっただろうになんて…言ってくれなかったな
少し照れるというか、小っ恥ずかしいなァ

「そんな事ないですなんかもう緊張が一周して変な感じだったので
あれです、最高にハイッてやつでした」

「……たしかにあれは普通とは言えなかったな
そういや花京院を見に行かないのか」

いつも一言多んだよなぁこの孫野郎は

「おう、飲み終わったし見に行くよ」

「こっちだ」

「うす」

何故か制服の後ろ襟を引っ掴まれて無理やり立たされた上に引っ張られてるんだが
おいこら私は猫じゃない
痛いぞ空条離しやがれ

パタンと襖が閉まりアブドゥルとジョセフのいる部屋にはしん…とした静けさが残る
遠のいていく足音をBGMにおもむろにジョセフが口を開く

「…変わった子じゃのぉ」

「なんというか
不思議な子ですね女性と言うより男性のような雰囲気というか、失礼かもしれませんが」

「それもあるが、承太郎がここまで懐くのもなかなか珍しいもんじゃ」

「…あれで懐いてたんですか?」

「相手に迷惑かかるのを知っててそのわがままを突き通しているんじゃからな」

「なるほど、あれが彼なりの懐き方なんですね」

「まぁこーんな小ちゃい頃は素直に甘えてきてくれてたんじゃがのぉ」

そんな孫自慢もさすがに聞こえていない空条承太郎はひとつの部屋の襖に手をかける

開いた途端にうっすらと臭う慣れない香りに優李は顔を顰めた

「血の匂いだ」

「まだ傷がふさがってるわけじゃねぇからな」

「なんで頭にも包帯してんの?
頭怪我してなかったよね」

「それは別のケガだぜ」

「大変だのーこいつも」

他人事みたいに思ってしまったが私もそれに巻き込まれた方だった

「そういやこいつ、どうやら洗脳されてたみてェだぜ」

「洗脳ーー?ファンタジーじゃあるまいし…」

うーんでも割とどこにでもいそうなちょいワル学生って感じだったしもしかしたらそうなのかね

冗談半分の言葉に空条は真剣な目をこちらに向けた

「でも実際そうだった」

「そ」

こいつのこの目は信用出来る
ただ洗脳されてた経緯については聞かせて貰えそうにない
いいネタになるのにな
…まぁそれだけ危険な事案に首突っ込んでるのだろうこのバカは

「…う」

不意に足元の花京院くんが呻き出したので半歩下がって様子を見る

「目が覚めたか」

「ここは…?」

ぱちぱちと目を瞬かせ赤茶色のふわりとした前髪を揺らしてこちらを見る花京院くん
日本人って聞いたけど絶対外国の血入ってるんじゃないかってくらい綺麗な色の目をしている
アメジストみたいだな緑がアクセントになってとても綺麗な色している
うん、ラフ画でいいから描かせてほしい

そう思っていると花京院くんと目が合った
“ここはどこなのか”という問に対して何も答えてないことに気づいてあーそうかこいつ知らないもんね、と
気だるい気持ちを隠さずに口を開いた

「空条ん家」

ぽかんとしていた花京院くんはそうか、と一言
その後体を起こして私の顔を見た

「君は……うっ!」

「どうした!」

珍しく空条が慌てている
あぁ、彼も“その手の人”かと少しだけ溜息をつきたくなった

ほんとに稀だけどいるのだ
私の顔を…正確には内から出るその
強烈な悪意って奴?を感じ取れる人が
私自身はそういう悪意とかは持ち合わせてないんだけども
こればっかりは仕方ないと母の知り合いのシャーマンから言われた
母の知り合いにシャーマンがいたのも意外だけど母が占い好きなのでそのつながりなんだと思っている

「空条なんか袋用意、長ランくん吐きそうにしてる」

「あ、ああ」

「ぼさっとしてないではよはよ!」

「分かってる!」

それからしばらくして落ち着いた花京院は酷く表情を曇らせて私に謝ってきた
…そういう顔するんじゃない、私が申し訳なくなるだろうが

「す、すまない…」

「空条の腹パンは効くからな
軽くやられただけでも2、3日吐き気が止まらんし」

「え?」

とりあえずそれっぽい言い訳でお茶を濁す
花京院が私の顔見て吐いたなんて知ったらどういう目を向けられるか…主に私が

「…根に持ってるのか」

「たりめーだ馬鹿野郎、めちゃくちゃ痛かったからな加減しろよほんと」

思い出す度に腹がズキっと痛くなるような気がして腹をさする
内臓痛めなくてよかった
売り言葉に買い言葉だったあの喧嘩を止めてくれたのは間違いなく空条だし(無言の腹パンかまされたけど)

「か、加減はした」

「うっそだろアレでか!」

「な、何の話だ?」

「昔こいつに腹パンされたことあるんだよ」

「じょ、女性をか!?」

「あれは色々と事情があった
お前だって納得してただろうが」

「そりゃな、あの時は男だと勘違いされてたわけだし…それはそれで置いとこうか」

「ほんとに話の切り方ド下手くそだな」

ほんっとこいつ一言余計だ腹立つ

「うるせー、あ、保険医のせんせー全治1ヶ月でほか2人のうち1人片目失明だってさ
お前ら喧嘩するのはいいけどあんま周りに迷惑かけんなよ
なんかお前ら以外見えてないみたいじゃん
私も見えてなかったわけだし」

「っ…すまない、本当になんて謝罪すればいいのか」

青い顔をした花京院くんが土下座の姿勢を取り始めている
今度から気を使って欲しいけど別にそこまでして欲しいわけじゃないので軽く笑って止めさせた

「帰り道服めくったら腹が青アザだらけで引いたぜ
ついでに言うと保健室使えなくなったせいで止血しかしてないから絆創膏とかくれると嬉しいんだけどな」

ちょいちょいとナイフで切ってしまった部分を見せるとぎょっとした顔で空条が怒鳴る

「それは早く言え!」

「怒るなよ!ホリィさんと話してたら忘れちまったんだから!」

あんな綺麗な人を見かけたら怪我のことなんてすっ飛んでしまうだろうが!

プスプスと怒りながら言葉を続けると聞き手に回っていた花京院くんがやや引き気味に笑った
あー、また…引かれた
まぁいいここはもう吹っ切れようそうしよう

「はは…あなたは随分と…豪快というか」

「ん?荒っぽくてすまんね
でもこうしてる方が好きなんだ
君も無理に女性扱いとかしなくていいから」

「え…しかし」

「そうだぜ、こいつを女だと思うな」

「保健室でのこと根に持ってる??持ってるよね?もーってーるーよーねー??」

「あぁ」

くそ、即答かよ
まぁ多少はやりすぎたし反省はしている
後悔は既に海に捨てた

「あー、なんか言いたいことあったみたいだしな…すまんすまん、悪かったよ
あと絆創膏ありがとう」

「貼ってやるから首見せな」

「ん」

見せやすいように首を傾けるとピリッと痛みが走って顔を顰める
そこまで深くはないが斜めに切ってしまったのでおそらく傷口自体は広いだろうと思っていたがどうやら空条の顔を見る限り予想は当たっていたらしい

「…傷の幅が広いな…ガーゼの方がいいかもしれねぇ」

「いいよ、もう血は止まってるから
傷開かないように抑えとくだけだし」

ヘラヘラと笑うと睨まれた
なんでじゃ

「…お前さっき自分で言ってたこと覚えてるか?」

「それはそれ、これはこれ」

別にチクリと痛むだけで無理に動かさなきゃすぐ治るし
し、消毒液が痛いから嫌とかそんなんじゃないぞ!
断じて!全く!消毒液なんか怖くない!


嘘ですごめんなさい消毒液めちゃくちゃ痛いんだよ勘弁して


「…消毒液持ってきてやるから待ってな」

「いいってそんなん」

「そうもいかねぇだろ」

うっすら笑みまでこぼしている空条に、ひきつる口を隠せず後ずさる
しかしこの場合空条の言ってることは最も正しいことのため
逃げ場がない

「…お言葉に甘えさせていただきます…」

「仲いいんだね」

ため息をついて項垂れる私に花京院くんは朗らかに笑いかけてくれた
あ、こいつめっちゃ良い奴だでもあえて言わせてもらう

「どこが!?アイツ私が消毒液痛くて嫌いなのわかっててわざと取りに行ったんだよ!」

「えっ?そうなのか…
なんというか、彼、随分と楽しそうだったから」

「そりゃそうだろ意趣返ししてんだから」

もう泣いていいかな

「持ってきてやったぜ
さぁ、首を見せな」

「ほら見ろ花京院くん!なんてあくどい笑みなんだ!!
そんなに私をコケにしたいか空条承太郎!」

「そんなつもりは毛頭ねぇ…くっ」

「顔が笑ってんだよ!!すぐ分かるわ!!」

「いいからさっさと首見せな」

「痛い痛い痛い!!」

グイグイ首を押さえつけられて流石傷口開くんじゃないかとヒヤヒヤする

「少しは我慢しろ」

「無理無理消毒液はホントやだ
痛い痛いちくしょう後で覚えてろ空条承太郎ぅぅぅ…」

そんな荒っぽく消毒液塗るんじゃない痛いだろうが

「文句は後で聞いてやる…ほら、終わったぞ」

とんとんと軽く肩を叩かれ半泣きで首をさする
あ、ガーゼちゃんと貼ってくれてる

「ぅー、ちくしょうありがとう空条…」

(お礼はちゃんと言うんだな…)

「まぁ後でホリィさんに癒してもらうからいいもんねー」

「てめぇ」

「へっ」

「???」

花京院くんは理解できない会話の内容に首を傾げるしかなかったようだ

申し訳ないあんまり主語なくても会話成り立つもんで…







「ねぇユーリちゃん、どうせなら今日泊まっていかない?
夕食も用意するわ!」

そろそろ帰らなければいけないのでガサゴソと学生鞄を漁っているとホリィさんが非常に嬉しそうな顔で自分に話しかけてきた
それ自体はとても嬉しいけども

「え?なんで私の名前…」

「俺が教えた」

「知ってたのかよ」

「さすがにクラスメイトの名前は全員覚えてるぜ」

「まじかよ」

「まじだぜ」

空条のドヤ顔が腹立つが、こちらも色々とあった身、しかもこういう滅多にない他人の家に上がり込むというシチュエーション
そして唐突のお泊まりしない?宣言
これはネタ取得のためにもなるしもう少し花京院くんと話したかった私としてはとても嬉しい申し出だった

「うーん、ホリィさんのご好意に甘えさせてもらいます!
空条、あとで電話借りていいかい?」

「いいぜ」

近くで話を聞いていたのか花京院くんが少し身を乗り出すようにこちらに向かってきた
どうやら先程の話が聞こえていたらしい

「あ、自己紹介が遅れてしまったけど私は花京院典明、君にはかなり迷惑をかけてしまったみたいだ、本当に申し訳ない」

「いいって、君のハイエロファントグリーン…だったっけ
彼(?)も君も事情があったわけだし
その事情は全く教えてくれないわけだけど」

そこだけは正直どうしようもなくモヤモヤするが何とか飲み下しているような状態だ
ひと騒ぎ終わったら根掘り葉掘り聞いてやるから覚悟しとけ主に空条承太郎

「…ほんとうに申し訳ない」

「そだ、私の名前言ってなかったね
私は明神、明神優李
趣味は読書と小説を描いたり絵を描いたりすること、
よろしく花京院典明くん」

「絵を?」

「うん、油絵とかじゃなくて漫画に近いかな」

「そうなのか、私は基本油絵だけど君の絵もとても気になるな」

似たような趣味を持っている花京院くんが顔を嬉しそうにほころばせる
とはいえそれは多分他の人から見たらちょっとの変化だったかもしれない
まぁ、空条との関わりのせいでだいたい顔の表情読み取れるようになってんだからとんでもない話しだ

「落書き程度なら専用ノートに描いてあるけど、あんまり上手くはない…」

「いやいや、絵というのはその人の感性を」

「話は長くなりそうか」

「あーうん、多分長くなる」

「そうか」

少し呆れた声に聞こえる
お前だって相撲のことになるとひとり気ままに話し始めるだろう
しかもめちゃめちゃ楽しそうに
あれと同じだぞ

「空条も見る?」

「俺はあの本の翻訳具合が知りてぇな」

「あ!そうだ!今日1行も翻訳できてない!!あと10行で完成するのに!」

その言葉に完全にすっぽ抜けていた毎日の日課を思い出して慌てふためいてしまう
思わずカバンに駆け寄ってノートと英国英語の辞書と少し古いが見慣れた背表紙を引っ掴んだ

「だろうと思ったぜ、どうせ最後だ
手伝うから本だしな」

「本?」

間違いなく理解が追いついてない花京院くんの頭の上には疑問符が浮かんでいることだろう
というわけで簡単に説明しようと本をかざした

「へへ、4年くらい前にフリマで偶然手に入れた古書なんだけどさ
スピードワゴンっていう財閥?の創始者が書いた本なんだ
手に入れた時からちょっとずつ翻訳しててもうそろそろ完成しそうなんだよ」

「へぇ!凄いじゃないか
ところでどんなないようなんだ?」

「えーっと、スピードワゴンって人がイギリスの貧民街みたいなところでジョナサン・ジョースターっていう人に出会うところから始まってる
それからジョナサンさんの義兄弟の悪事を暴くためにスピードワゴンさんも協力して何やかんやってかんじ
最終的には義兄弟は吸血鬼になったけどジョナサンさんに倒されてしまった
ってとこまで翻訳できてる
あとは後日談かな

凄いかっこいいんだよ!特にツェペリ男爵とジョナサンの師弟としての熱い絆!
そして何よりジョナサンの紳士っぷりはほんとに尊敬出来る!
分厚いからだいぶ読むの大変だけどさ
読んでみる価値はあるよ!」

「へぇ…ん…?ジョースター?」

花京院くんがおもむろに空条を見て首をかしげた
空条はそんな花京院くんの様子になにか思うとこがあったのかふと考え込む様子を見せる

正直私は何を考えてるのかわからないので花京院くんにつられて首をかしげた

「…おいジジイ、まさかと思うんだがこの本…」

だいぶん驚いた顔のジョセフさんに理解が追いつかなかったが
空条の言葉に答えるように呟いたジョセフさんの言葉に本日最大の衝撃

「…oh!ジョナサンジョースターはわしの祖父じゃ!」

「……なんてこったい」

「あらあら」

「偶然ってのは怖ぇもんだな」

「全くだ…空条お前なんで気づかなかったんだよ」

偶然明かされる衝撃の事実!!!
空条承太郎は私の憧れの人の子孫だった!!!

いやほんと驚いたわ…今日は泊まりだしどうせだから聞けるだけジョセフさんに聞いてやるぞぅ


……To be continued
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