Chapter.6
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翌朝、おなまーえはまた深い眠りについてしまった。
ソフィーの母が来たことも、その人が置いていったお土産のせいでカルシファーが不調になってしまったことも、おなまーえは知らなかった。
なのでその日の晩、開口一番に彼女が放ったのは「臭い」の一言だった。
タバコを吸う荒地の魔女の前に立つと、おなまーえは顔をしかめて手を出す。
「そこの元荒地の魔女。今すぐその口に咥えているものを寄越しなさい。迅速に処分するから。」
「これはね、煙がプカプカ出て楽しいのよ〜」
「都合良くボケた振りするな」
彼女はこんな調子で取り合ってくれない。
「で、これが原因でカルシファーが今寝込んでいると。」
「そうなの。薪を足しても空気を入れてもこれっぽっちも反応しないの。」
「んー…」
完全に吹っ切れたソフィー。
彼女の姿を見て安心したものの、この家の要とも言えるカルシファーがぐったりとしていた。
意識もないし、明らかに異常だ。
「……カルシファー、しっかりして」
「……」
返事はない。
鮮やかな橙色だったはずの炎は紫色に変色している。
「カルシファーがこんなだとハウルにも影響出ちゃうかもしれないのに…」
「なんで?」
ソフィーが純真な目で問いかけてくる。
「ハウルはカルシファーに心臓を捧げたからだ」と言おうとして口を噤んだ。
ここにはあの心臓マニアの荒地の魔女がいる。
下手な発言はできない。
「魔法の契約ってそういうことだから」
「ふーん…。お婆ちゃん、それやめて。」
「年寄りの楽しみを取るもんじゃないよ」
再度ソフィーが頼むが荒地の魔女はタバコを吹かすのをやめなかった。
ソフィーは一つ溜息をつく。
「マルクル、窓開けて」
「うん」
「窓は開けないほうがいいと思うよ。カルちゃんの力が弱くなってるからね。奴らが入ってくるよ。」
ふと嫌な予感がした。
「マルクル、ごめん、窓閉め」
――ドォーン
「っ!?」
大きな音が鳴った。
――ドォーン
――ドドーンッ
次の瞬間家の中が大きく揺れた。
電球もチカチカする。
「空襲ね…!私外の様子見てくるから、ソフィーさんはマルクルとお婆ちゃんをお願い!」
「おなまーえ!」
外はあちこちで建物が燃えていた。
必死に消化活動をする市民がいる中、ゆらゆらと不安定な足取りの兵隊が近づいてくる。
異形のそれは、紛れもなくサリマンの使い魔だ。
「下がりなさい。先のないあなたたちに用はありません。」
言い切ると同時におなまーえはドアを閉めた。
ここから先には行かせられない。
今の魔力でできるだけの強力な結界を張るが、この人数だと保って数分だろう。
おなまーえもカルシファーも弱っている今、双方が協力できる位置にいたほうがいいとおなまーえは店の扉から離れて家の中庭に走った。
「おなまーえ早く!」
家の扉からソフィーが顔を覗かせていた。
そこに飛び込もうとした時、視界の端に黒い影を見つけた。
「ハッ」
家の上を通り過ぎていく飛行機。
そこから落とされる黒い爆弾。
全てがスローモーションに見えた。
おなまーえはとっさの判断でソフィーを家に押し込め、外からドアを抑える。
自分に向かって落ちてくる無機質なそれから目を離さずに死を覚悟した。
同時に上空から不規則に飛んでくる影を見つけた。
鳥の姿のハウルだ。
「ハウル!!」
彼はこちらに向かってくる爆弾の起動部分を抑え、爆弾とともに落ちて来た。
――ズドーンッ
「イッ…!」
地鳴りと爆風でおなまーえは壁に打ち付けられる。
家のガラスも割れ、壁にも穴が空いた。
ゆっくり目を開けると、爆弾を抑えたままこちらを見るハウルの姿があった。
「っ、ハウル!」
おなまーえは駆け寄って彼の胸に抱きつく。
いつも柔らかい香りのする羽毛からは、消炎と埃の匂いがした。
彼がずっと闘ってくれていた証だ。
「すまない……今夜は相手が多すぎた。」
「あなたが無事ならそれでいいの」
おなまーえは彼の両頬に手を当て、口にキスをした。
今できるだけの魔力を彼に注ぎ込む。
店に繋がる通路には先程のサリマンの使いであるゴム人間のようなものが詰まっていた。彼らは互いに押し合いながら中庭へと入ってくる。
唇を離すとハウルはおなまーえの肩を抱いてゆっくりと歩き始めた。
黒い羽が彼女を覆い隠した。