Chapter.6
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緩やかに眠りに誘われたおなまーえを見て、ハウルは愛おしい気持ちが募った。
彼にとってこの状態の彼女を眺める時間というものは至福のときであった。
(ずっと、憧れてたんだ。)
今まで胸に秘めた思いはおなまーえには打ち明けられなかった。
なぜなら彼女に拒絶され、今の関係が壊れるのが怖かったから。
(絶対に誰にも渡さない。)
ハウルは糸のような細い金色の髪を撫でると、前髪をかき分けて額にキスをした。
彼には何に変えても守らなければならないものができた。
2人をこの関係になるまで成長させてくれた彼女の想いには答えられないが、おなまーえと自身の人生を変えてくれた恩返しをしたい。
ハウルはベットの上のおなまーえをそのままに、一人部屋を出た。
****
目が覚めたとき、ハウルは既にいなかった。
「……あれ?」
違和感を感じたのはすぐだった。
「……なんか、部屋整ってる…?」
整っているなんてレベルじゃない。
部屋を丸ごと作り変えたような、知らない家に来たような、最早そんな景色だ。
恐る恐る足を下ろす。
「……ハウル…?」
呼びかけても反応はない。
不意に彼の言葉を思い出した。
『引っ越しする。おなまーえに危害は加えさせない。』
彼女はふふっと笑った。
おそらく今は引っ越し後なのだろう。
(あぁ、私大切にされているなぁ)
むず痒い気持ちだがこれも悪くない。
窓の外はもう暗い。
丸一日寝てしまっていたようだ。
お陰で魔力は少し回復した。
廊下にでても誰もいなかった。
部屋の配置を把握するため色々な部屋をこっそり覗いて閉める。
タンタンと階段を降りる。
リビングはとても広くなっていた。
カルシファーも気持ちよさそうに寝ている。
「あら、おなまーえじゃない」
鼻にかかったような、独特の声。
「……ごきげんよう、荒地の魔女」
階段を降りた先は荒地の魔女の寝室らしく、カーテンの隙間から彼女が何か含んだような表情でこちらを見ていた。
おなまーえは隙間を少し広げて彼女と対峙する。
「ハウルなら帰ってきてないわよ」
「そう……また女遊びでもしてるのかもね」
「そうじゃないのはあなたが一番よくわかっているでしょう?」
「………」
「彼はケジメをつけてきたようね。あなた達もちゃんと話し合った方がいいんじゃないかしら?」
「……それをあなたに言われるっていうのが気に触る」
「年の功を舐めるんじゃないわよ」
かつて心臓を狙ってきた恐ろしい魔女は、その面影を残しつつも立派な年長者として博雅に振舞っていた。
彼女に人としてだったり、心の持ちようだったりを諭されるのは心底腹立たしいが、彼女の言う通りソフィーと話し合わなければならないのも事実。
「ソフィーさんの部屋は?」
「すぐそこの部屋よ」
小さく感謝の言葉を述べ、カーテンを閉めた。
まもなく大きなイビキが聞こえてくる。
教えてもらったソフィーの部屋は端っこであった。
「……よし」
コンコンとドアをノックして扉を開けた。
「こんばんは、ソフィーさん」
「おなまーえ…」
彼女は椅子に座って衣服を縫っていた。
初めて見た光景なのに、この空間と彼女がしっくりと合うような気がした。
「体はもう大丈夫なの?」
「うん。少しだけお話し、いいかな」
「……えぇ」
おなまーえは部屋の中に入り、カウンターのようになっている机に腰を預けた。
椅子を勧められたが、長居するつもりはないので丁重にお断りした。
「おなまーえとハウルは、恋人同士なのね」
ソフィーはこちらを見ずに窓の外を眺めながら問いかけた。
「……うん、昨日から」
「そんな最近からだったんだ」
「うん」
彼女は目に影を落とした。
「おなまーえ相手にこんなこと言うのは間違っているとは思うんだけど」
「うん」
「あたし、ハウルのことが好きだったかもしれない」
「うん」
「でも早々に失恋してよかったと思ってる。これ以上ハウルを好きになる前でよかったって。」
「………」
ソフィーにかけられた老婆になる呪いはハウルが随分前に解いている。
にも関わらず姿が老女のままなのは、彼女が自己暗示で自分に魅力がないと思い込んでしまっているからだ。
だが時折、彼女は元の若い姿に戻る時がある。
それが勇気を持った行動をしたときや自分に自信を持っている時である。
「ソフィーさん…」
今彼女は若い姿であった。
ハウルをこれ以上好きにならなくてよかったと思う心は紛れもなく本心であり、既に彼女は前を向いていた。
「あたしはハウルの想い人になれなかったけれど、彼からもらったものはたくさんあるから、この家で恩返しをしたいって思ってる。」
「……ソフィーさんがいてくれると、ハウルもマルクルも喜ぶ」
「おなまーえは?」
「もちろん私も」
月明かりがソフィーの笑顔を照らした。
目尻に水滴が付いている気がしたが、おなまーえはそれを見て見ぬ振りをした。
体を向かい合わせ、彼女の背中にそっと手を回す。
「ソフィーさんのおかげで、私もハウルも変わることができた。心のなかった私たちに人を思いやる心を教えてくれたのはあなただ。」
「……謝罪ならしないでね。あたしは、あたしの意思でハウルのこと諦めるんだから。」
「うん」
ぎゅうっと腕に力を込めれば、優しく抱きしめ返された。
おなまーえの金色の髪に顔を埋め、ソフィーは静かに涙した。