Chapter.6
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
家の扉に入り、ハウルは羽を広げて階段をひとっ飛びした。
抱えられたおなまーえは着地と同時に少しふらつく。
それに続いて家に入って来たゴム人間は、ハウルが臨時で張った結界に押し出された。
「ハウルさん!おなまーえさん!」
「無事でよかった…」
荒地の魔女の周りで身を固めていたマルクルとソフィーが駆け寄って来た。
ハウルはおなまーえを離すと暖炉でぐったりしているカルシファーに手を掲げる。
「カルシファー、しっかりしろ!」
呪いか何かの類だったのだろう、彼の魔法で邪気を払われたカルシファーがむくむくと起き上がった。
彼の炎はいつものような橙色に戻った。
ハウルはそのまま荒地の魔女の前に立つ。
「マダム、それはサリマン先生のプレゼントですね?」
礼儀を尽くすハウルに彼女はふぅーっとタバコの煙を浴びせた。
おなまーえはムッとする。
「そのばあちゃんがおいらに、ゲフッ…変なものを食わせたんだ!」
こいつが原因か、とおなまーえは殺意が湧いた。
「おなまーえ」
殺気を放つ彼女を宥めるようにハウルは優しく話しかける。
「あら、ハウルじゃない。あなたとはゆっくり話をしたいわねえ。」
「私もです、マダム。でも今は時間がありません。」
「珍しいわねえ〜、あなたが逃げないなんて」
荒地の魔女はハウルの手にタバコをグリグリと押し当てて灰皿のように熱かった。
じゅうっという嫌な音がなる。
ハウルは表情一つ変えずにそれを受け入れ、小さく頭を下げた。
「ではまた」
踵を返し、彼はおなまーえの肩を掴んだ。
「おなまーえとソフィーはここにいろ。カルシファーが守ってくれる。外は僕が守る。」
「待って!このままだとあなた戻れなくなる!!」
ハウルの体がとっくに限界を迎えていることはわかった。
このまま戦い続ければ悪魔に成り果ててしまうことも。
「…次の空襲が来る。カルシファーも爆弾は防げない。」
玄関に降りた彼におなまーえはしがみついた。
今この手を放したら彼は行ってしまう。
「……逃げようよ。今なら誰も責めたりしないって。」
「僕はもう十分逃げた。おなまーえからもらった魔力はまだ残ってる。」
「私、そんなつもりで渡したわけじゃ…」
「わかってる」
彼は振り返り、おなまーえの額にキスを一つ落とした。
「でも、僕にもようやく守らなければならないものができたんだ。」
かちゃっとドアが開かれた。
彼の体がふわりと浮く。
「……君だ」
「っ、ハウル!」
ハウルが出て行った瞬間、バタンッとドアが閉められた。
その時ドアノブが桃色に変わったのだが、おなまーえは気付かずにすぐさま扉をあけて飛び出した。
レンガではない柔らかい土と草の感触。
入口の場所が変わっているとすぐに気づいて彼女は家の中に入り直そうとした。
「おなまーえ!!」
後ろからソフィーの叫び声が聞こえた瞬間、再度扉が閉められた。
「ソフィー!マルクル!」
外からガチャガチャとドアノブを回しても開かない。
向こうから開けてくれるかと期待もしたが、どうやらここにアクセスできないようだ。
おなまーえはひとりぼっちになった。
「……ここ、何……?」
見たことのない景色だ。
一面に敷き詰められた草原のカーペット、宝石を散りばめたような星空、夜の闇を静かに映す湖面。
扉が開けられない以上、何か手がかりを探すために歩き回るしかない。
おなまーえは小さく一歩を踏み出した。
サクサクと音を立てて歩く。
パキンっと何かが割れる音がした。
顔を上げると流れ星が次々と落ちて来ていた。
彼らは地上に降りた途端命を落とす儚い生き物だ。
「……綺麗」
だが不謹慎ながらも彼らの命の輝きは大変美しいものであった。
大きく深呼吸をして視線を下に移す。
「っ!あれは…!」
丘を下った先を歩いている少年。
黒髪で純朴な目をした彼のことをおなまーえはよく知っている。
少年は空から降って来た流れ星の一つを手で受け止めた。
「そう、そういうことね…」
これはハウルの少年時代の記憶だ。
おなまーえとツーマンセルを組まされた後の長期休暇。
カルシファーと契約する時の記憶。
何故過去の記憶におなまーえが干渉できているのかわからなかった。
少年のハウルは星の子と一言会話をすると、小さく頷いてそれを飲み込んだ。
「ハウル…!」
おなまーえは走り出した。
丘を転がるように下る。
地面から蔦が生えてきて、おなまーえを行かせまいと足を掴んできた。
彼に届かない。
その時、丁度彼女のいる場所に流れ星が一つ落ちてきた。
「っ!?」
パキンと音を立てたそれは白い光となって彼女に話しかけてきた。
「汝……時を超えし者……汝の心臓と引き換えに…願いを一つ叶えてやろう……我は…天使ナリ…」
必死にもがくおなまーえの足は膝まで地面に飲まれていた。
「天使でも悪魔でも、心臓くらいくれてやる!だから彼を、ハウルを助けられる力を!」
「…汝の願い、聞き届けた」
パァっと足元が光る。
地面に飲まれるスピードはさらに早くなった。
「こっのっ…!」
世界に飲み込まれる前に、伝えなければまだならないことがある。
「ハウル!!」
ハウルがこちらを見た気がした。
「あんたの帰りを待ってるから!マルクルも、ソフィーも、私も!!だから早く帰ってきて!!」
聞こえたかどうかはわからない。
もし聞こえたとしても夢が幻覚だと思われたかもしれない。
でも伝えることは伝え切った。
後はこの時代の自分がなんとかしてくれるだろう。
「ほんっと、小さい時から何にも変わってないんだから"ハウル君"は。」
プツンと意識が途切れた。