Chapter.1
夢小説設定
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根気負けと言われれば否定はしないが、実際魔力供給という点に関しては一つ屋根の下にいた方がなにかと便利である。
おなまーえは毎日ハウルのベットで寝ているが、実際に魔力供給するのは週2.3回程度。
というのも彼はどうやら貞操観念が低いらしく色々な所に遊びに行っているためである。
もちろん本当に仕事のことも稀にあるだろうが、彼の女癖の悪さは学生時代から聞いていたので特に驚くことなく受け入れている。
(こんなんじゃ私、お嫁には行けないよなぁ)
ザバァと湯船から立ち上がり、金色の髪をギュウっと絞った。
おなまーえの金髪は生まれつきのものだ。
北欧かなにかの血が混じっているようで色素がすごく薄い。
そのため外に出るときは帽子を被らないと肌がチリチリと赤くなってしまうのだ。
タオルで全身の水気を拭き取り、それを胸の少し上のところから巻きつける。
化粧水をパチャパチャとつけ、その格好のまま工房の第1高炉を覗き込んだ。
中の温度は150℃に達していた。
昨夜仕込んで並べておいた魔法具を鉄板ごと持ち上げ、勢いよく放り込む。
ジリジリと炎が魔法具の表面を焼きあげていった。
1分ほど観察して問題がなければあとは放置だ。
今のうちに朝市に行って買い物を済ませなくては。
タオルを外し、その辺に落ちていたラベンダー色のワンピースをつまみ上げ着ていく。
港町だと少し派手だが、まぁ問題ないだろう。
メイクは薄めに、シンプルな帽子をかぶって工房を出た。
「カルシファー、1時間したら第1高炉70℃まで下げてね」
「わかってるよ」
「なんか買ってほしいものある?」
「うーん……そろそろ薪少なくなってなかったか?」
「あ、なに、ハウル買ってくれてないの?」
「みたいだなぁ」
「じゃあとりあえず1日分くらいは買ってくるよ」
薪は非常に重い。
いつもはハウルがまとめて10日分ほど買ってきてくれるのだが、どうやら忘れているようだ。
「薪なら荒地の下町の方が安いよね…。カルシファー、城を町の方まで近づけて。」
「おう」
薪を買うならカートを持っていかなければ。
1日分とはいえその量はダンボール2つ分に相当する。
雑多なリビングを見渡し、食器棚の間にそれ見つけた。
取り出すと案の定蜘蛛の巣が張り巡らされている。
「うわぁ…」
顔をしかめて指を一振りすると、カートは一気にピカピカに磨かれた。
「着いたぞ」
「ありがと、じゃ行ってくる」
「気をつけて行ってこいよ」
「珍し、カルシファーが私の心配なんて」
「別に、なんとなく言ってみただけだい!」
「ふふ、ありがと。行ってきます。」
おなまーえは緑色が示された扉を開けて朝もやの中に吸い込まれて行った。
****
「卵も買ったし、ベーコンも買ったし……ああ、そういえばお塩もなかったっけ」
朝市は非常に混んでいた。
8時半に市場に着いたというのに、今はもう9時半近くである。
「んー、買いに戻るかぁ」
随分と自宅の方まで帰ってきてしまったが戻れない距離ではない。
仕方ないと市場に戻ろうと方向転換したその時。
――ザァッ
「ぁっ」
石畳の橋を渡っている最中、一陣の風が吹いた。
風はおなまーえの帽子を捲り上げ、川の中へと落ちて行ってしまった。
「あっちゃー」
両手がカートのせいで塞がれていたため、帽子を抑えることができなかったのだ。
すでにほぼ頂点に差し掛かった太陽がおなまーえの肌をジリジリと焼く。
彼女は肌が弱い。
このままではまずいとそそくさと町に降り、普段はあまり行かないファッション街にはいった。
お店の開店時間である10時が近いということもあって、どの店も開店準備に追われていた。
日陰を選んで歩きながら中の品揃えを見ていく。
(……ん?この店……)
その中で一際小さなお店があった。
店は小さいながらも商品はどれも丁寧に作り込まれていて微細ながら魔力すらも感じる。
「……これ…」
そのうちの一つに何か惹かれるものがあり、おなまーえはその店のガラス戸を開けた。
「あらやだ、もう開店の時間?」
今風のメイクをした可愛らしい店員がこちらをみてパタパタと慌てだした。
開店してすぐにくる客などそうそういなかったためにのんびりとしていたのだろう。
「すみません、帽子を川に落としてしまって、代わりのものをと」
「どうぞどうぞ!ゆっくりご覧になってくださーい」
「あ、いや、もう品は決まってるので」
そう言っておなまーえは外から眺めていた時に惹かれた帽子を手に取った。
紫色の生地に白いリボンが巻かれ、ラベンダーのドライフラワーが差し込まれている。
「あら、そんな地味なのでいいんですか?今流行りのバードアレンジもありますけど。」
巷では鳥の羽を帽子に乗せ、ラメだのビーズだので派手にアレンジする帽子が流行っているのだが、いかんせん首が凝りそうでおなまーえは好かない。
散歩用ですからとやんわりと断りを入れ、お勘定をお願いした。
「……この帽子って貴女が作られたんですか?」
「まさか!私の娘が作ったんですよ。本人はあまり店先に出たがらないのよねぇ。」
「そうなんですか……きっとこの方はとても真面目で実直な方ですね」
「あら、なんでわかるの。すごわー!」
「私もちょっとものづくりをしているので…」
帽子は驚くほど安かった。
「また来てくださいねー」と店員の彼女が店の奥から手を振って見送ってくれた。