Chapter.1
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ハウルが魔法高等学校を逃げ出すと言った時、おなまーえは必然的にそれについて行かなければならなかった。
勿論卒業後の一人暮らしにむけて、彼女はいろんな家を探していた。
地脈的にも立地的にも良さげな家を数件見つけて、見学まで済ませていたのだ。
ところがある日のこと。
『おなまーえ!とうとうできたぞ!』
わざわざ遠い男子寮からこの女子寮まで、彼はおなまーえに"ある報告"をするためだけにやってきた。
『できたって、何が?』
『城だよ!僕の考えてた動く城!』
『…は?』
確かに前々から動く城を作るだの何だのは言っていた。
顔合わせしたのが確か1ヶ月程前で、それからほぼ毎日のように動く城の計画を聞いていた。
ここ三日間ほどは見かけていなかったが、おそらくその城とやらを作成していたのだろう。
『ほら早く!』
『ちょ、ちょっと!』
彼はおなまーえの腕を掴み走り出した。
もう一度言うがここは女子寮だ。
男子のハウルがいるだけで目立つし、走るなんて管理人になんて言われるか。
『こら!廊下は走るもんじゃありません!って、あなた男の子でしょう!?ここは立ち入り禁止ですよ!?』
ほら言わんこっちゃないとハウルの顔を見れば、げんなりとしているおなまーえとは反対に、とても楽しそうな顔をしていた。
それが普段天才だの優等生だの言われているハウルの澄ました顔とは違って見えて、おなまーえは少しだけ胸がドキンと跳ねた。
彼に連れられ辿り着いたのは大きな丘のてっぺん。
木々が疎らに生えていて、その中にポツンとあるソレは異質だった。
『これだよ!これが僕の動く城!』
『えっと……どこが城?』
丸いドームのついた一軒家……よりさらに小さいくらいの機械兵のような外見。
よく見ると家の屋根や工場の配管などで作られており、おなまーえの想像していた城とは大きく異なっていた。
『ここが玄関だよ。ほら、入って。』
『わかったから、もう手放して。』
いつまでも握られているのは恥ずかしい。
おなまーえはぱっと振りほどくと彼が玄関と言った場所を押して中に入った。
城の中は意外にも整っていた。
小さいソファの前に暖炉。
奥には水回りの設備もある。
階段の上がおそらく寝室なのだろう。
小さいながらも住む場所としての機能はしっかりと果たしていた。
『綺麗…』
『でしょ!』
『…でも、城…じゃないね』
『えっ』
『城っていうのはさ、もっと大きいもんじゃない?』
『大きい…?』
ハウルは考え込んでしまった。
実際居心地としてはそんなに悪くはない。
暖炉も部屋の中央に配置するとはなかなかセンスを感じる。
おなまーえは横に置いてあった薪を一つくべて手をかざした。
『……なぁ、カルシファー。もっと大きくするためにはどうすればいいかな?』
『え?』
カルシファー…?いったい彼は誰に話しかけたというんだ。
不意におなまーえの体を温めている火が揺らめいた。
『……魔力しかねぇだろ。今の状態じゃこれがオイラの限界さ。』
『っ!?!?しゃべっ!?』
思わず後ずさりをした。
それもそのはず、炎が突然喋り出したからである。
後ずさったおなまーえはそのまま後ろにあった低いテーブルに足を引っ掛け後ろにひっくり返ってしまった。
『うわっ!!』
――ドテーン
『あー、痛そー…大丈夫?』
『っぅ〜…』
腰が痛いが、それどころではない。
無機物に命を吹き込むだなんて、そんなのサリマンでも到底できない。
一体どういうことなのか。
涙目でハウルを見上げる。
『なんなの、そいつ…』
『そいつ呼ばわりたぁ失礼だな!』
『人扱いされてるだけでもマシなんじゃない?この前なんて水かけられそうになっちゃったじゃん。』
『ま、確かにな』
ハウルはおなまーえに手を出した。
彼女は一瞬躊躇したのちその手を掴む。
小さく感謝の言葉を述べると、立ち上がって制服のスカートを払って身を整えた。
『オイラはカルシファー。火の悪魔さ!』
『あ、悪魔…?』
『そうさ!今この家を動かしているのだってオイラなんだぞ!』
『へ、へぇ………ん?ちょっと待って。』
悪魔については魔法生物の授業で少し習った。
星の子の成れの果て。
確か地上で存在し続けるためにはそれなりの対価が必要だったはず。
『……ねぇ。ハウルは何をこいつに渡したの…?』
『ん?』
ぱっと見五体満足の彼が何を差し出したのか、嫌な予感がした。
こちらを見る彼の笑顔が、どこか貼り付けられたもののように感じたのだ。
『おなまーえはやっぱり勘が鋭いね』
『……この城を動かせるだけの魔力量を与えられるのはもうあれしかないもん』
おなまーえはハウルに近づきその胸の部分にそっと手を当てた。
先程立ち上がらせてもらう時に握った手は暖かかったのに、胸の部分はひんやりとしていて鼓動の一つもしていなかった。
『……痛くない?』
『全然』
『そっか』
そう、この少年は悪魔に心臓を売り渡し、精神の成長を止めてしまったのである。
『やっぱり大きくしなくていいよ。立派なお城だもん、ここ。』
『そうかな?でも少し手狭には感じるよね』
『ハウルが一人で住む分には申し分ないんじゃない?』
『え、何言ってるの?』
『ん?』
二人して顔をキョトンとさせた。
『おなまーえもここに住むんだよ?』
『…は?』
それからは本当に大変だった。
目をつけていた家はハウルの手回しで他の人に取られるわ、物件を探しに行こうとすればことごとく邪魔されるわ、挙げ句の果てに女子寮の女の子達をたぶらかして外堀を固められるわで、何だかんだこの城に住むことになってしまったのだ。