Chapter.1
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そろそろお昼ご飯の支度をしなければならない頃、やっとおなまーえは塩も買って帰宅することができた。
「ただいまー…」
「あ、おなまーえさん!お帰りなさい!」
「マルクルー、これ運んでー」
「どれですかー!……いてっ」
コケながらもマルクルがこちらに来てくれた。
この家の玄関はリビングから階段を降りた先にある。
食料品ならともかく、薪を持って上がるのは女性のおなまーえには厳しい仕事だ。
「あー…薪ですか。ハウルさん買い忘れてたんですかね。」
「さぁねー」
ごそっとテーブルの上のゴミの山を端に寄せ、空いたスペースに今買って来たものを紙袋ごと乗せる。
玄関ではマルクルが力みながら一段一段階段を上っていた。
「カルシファー、高炉止めて」
「あいよ」
工房に入ると高炉のせいで部屋全体が熱くなっていた。
窓を開けて換気をする。
「さてと、何個残ってるかな」
ミトンを装備し、高炉を開けた。
5個用意していたうちの2つは割れてしまっていたが、残り3つは原型を保っていた。
その3つを慎重に手に取り、冷却水にそっと落とす。
ジュワッという音とともに小さく煙が上がった。
冷ましている間に高炉や机の上を軽く片し、チョークで魔法陣を書いていく。
冷却水の中で銀色に鈍く光るそれは指輪である。
そのうちの一つを慎重に取り出して刻印に傷がないか確認すると、書いたばかりの魔法陣の中心に置いた。
「……応えよ…我の魔力に応えよ…」
フォンと魔法陣が光る。
指輪の飾り台の部分におなまーえの魔力が集まり――そして割れた。
「……今回もダメかなー」
指輪作りを始めて数年。
これはこの家の主人、ハウルの依頼で作り始めたものだ。
望んだものの在処を指し示すと言われている、古来からある魔法具だが、回数限定な上非常に作りにくい。
始めの頃なんて指輪を焼く時点で失敗していた。
刻印も微細な魔力を通して掘らなければそこらの指輪と変わらないものになってしまうし、逆に魔力を通しすぎると加熱した瞬間に割れてしまう。
非常に高度で繊細な技術がいるのだ。
二つ目を取り出し、同様に呪文を唱えるがこれもまた割れてしまった。
「あーあ。やっぱり命を吹き込む系統の魔法も勉強したほうがいいかな、これ。」
強力な魔法具はもはや生きているのだと偉い人が言っていた。
私たち魔具師は命を作り出しているのだと。
まぁそこまで大げさな言い方はしないが、魔法具が生きているという意見には賛成である。
三つ目の指輪も取り出し、呪文を唱えようとしたとき、不意にリビングにいるマルクルから声がかけられた。
「おなまーえさーん!ちょっと手伝ってー!」
そういえば薪を運ぶように指示したままだった。
「ごめん、今行くー!……あ、帽子被りっぱなしだった。」
おなまーえは帽子を外し適当に机の上に置いた。
それは魔法陣の上にちょうど重なったが彼女は気にせずに工房を出た。
誰もいなくなった工房の、机の上に置かれた麦わら帽子。
その帽子の内側から淡い光が溢れ出したことをおなまーえは知らない。
****
「ごめんごめん、流石に重かったか」
ゼェゼェと荒い息をしているマルクルは、なんと一人で二箱上げてくれた。
次は薪を暖炉の上の棚に置くのだが、マルクルの背では届かない。
おなまーえもギリギリなので椅子を持ってきてその上に彼女は立った。
マルクルがダンボールから薪を取り出しおなまーえに渡す。
受け取ったおなまーえはそれを上の棚に乗せるという流れ作業だ。
黙々と薪を積み上げていって、あと数本で終わるというとき。
――グラッ
つま先立ちになって上の方に手を伸ばしていたせいでバランスを崩してしまった。
体がふわっと浮いて後方に倒れる。
マルクルとカルシファーの慌てた顔がやけにはっきりと見えた。
「っ!」
衝撃に備えて目をぎゅっと閉じた。
「……あれ?」
しかしいつまで経っても衝撃は来ない。
目を開けて今の自分の状況を確認すると、なんと体が浮いていた。
文字通り、浮いていた。
こんな芸当ができるのは一人しかいない。
「きゃっ」
浮遊感が消えヒュッと体が落ちる。
今度こそ衝撃に備えたが、彼女は温かいぬくもりに包まれた。
「薪、買ってきてくれたんだね。ごめんね、気づかなくて。」
金の髪に藍色の瞳。
彼の細い身体におなまーえは抱きとめられていた。
「……ありがと、ハウル」
感謝の言葉を述べると彼はそっとおなまーえを降ろしてくれた。
彼が魔法を使ってくれなければ、そして抱きとめてくれなければ、おなまーえは怪我をしていたに違いない。
「仕事?」
「うん。行ってくる。」
「体調は?」
「おなまーえのおかげで万全だよ。」
「そ。気をつけてね。」
コツコツと高価な靴を鳴らして、彼は階段を降りて行った。
ドアノブが黒色に変わる。
この黒の扉の向こう側はおなまーえもそうそう行かない戦場。
おなまーえが行ったところで足手まといにしかならないのは明白なので連れて行けと強請ることはまずないが、やはりこうして見送ることしかできない歯痒さはいつになっても慣れないものだ。
バタンッと勢いよく扉が閉まる。
残されたおなまーえとマルクルは顔を見合わせた。
「……お昼ご飯つくろっか」
「そうだね。僕、オムライス食べたい!」
「はいはい」
残った薪はカルシファーに与え、2人はお昼ご飯の支度に取り掛かった。
工房の帽子の中で指輪が完成していることに彼女が気づくのはもう少し後のことである。
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のっけからオールオリジナルですみません。
魔力供給の方法、ピンときた方もいるのではないでしょうか。
えぇ、私の愛してやまない、Fateのstay nightの設定です。
2018/08/07 少女S