Chapter.7
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Chapter.7
目が覚めたとき、おなまーえは自分の魔力が昂ぶっているのを感じた。
体を起こして辺りを見渡す。
「……ここは…中庭ね」
彼女はゴム人間に囲まれていた。
彼らも突如現れた彼女に動揺しているようだ。家の中はもぬけの殻になっていた。
ソフィーとカルシファーがなんとかしてくれたのだろう。
「じゃあ私は、彼を迎えに行かなくちゃ」
今までにないほど体が軽い。
悪魔との契約がここまで体に反映されるとは思わなかった。
バサァッと翼を広げた。
白い羽、白い鉤爪。
彼女の金色の髪がよりその神秘性を感じさせていた。
(なるほど、これは自称天使も頷けるわね)
少しかがんで地面を強く蹴った。
彼女の身体はロケットのごとく上空に飛び上がっていた。
風圧に吹き飛ばされたゴム人間が下で転がっているのが見える。
「これはいいものね。さて、ハウルは…」
辺りを見渡すと、飛行機やら使い魔やらが集中している場所を見つけた。
目を凝らすと巨大な怪物が大きい航空母艦にしがみついている。
紛れもなく、その怪物がハウルであった。
おなまーえは慣れない羽を懸命に羽ばたかせ、彼の元まで高速で向かった。
進路の邪魔をしてきたものは容赦なく体当たりして打ち落としていった。
「ハウル!」
「あああぁああぁあ゛あ゛…!!」
「ハウル!!」
おなまーえの声は彼に届かない。
ハウルに集るサリマンの使い魔を必死で引き剥がした。
しかし1匹剥がしても3匹、4匹、5匹と、次から次へと飛んで来るためキリがない。
加えて、おなまーえの存在に気づいた使い魔が彼女の行動を邪魔して来る。
やっとの思いでおなまーえは彼の片翼を掴んだ。
「ハウル!私あなたを迎えにきたの!みんな待ってるから!」
「ゔあ゛…」
「帰ってきてって言った!帰って来るって約束した!!だから手を伸ばして…!」
「ゔあぁああぁぁぁああ!!」
「っ、ハウル…!」
敵と味方の区別もできていないようで、彼はおなまーえの手も振り払った。
「いたっ…」
彼の鉤爪で腕から血が流れた。
そちらに気を取られている隙に、おなまーえはハウルから大きく引き剥がされた。
そして次の瞬間彼に向かって大きな雷が落ちる。
自然現象を扱う魔法は非常に高度なものだ。
誰がこの雷を落としたかなんて、考えなくともすぐにわかった。
こんなことできるのはサリマンしかいない。
「ハウル!!」
力なく落ちていく彼をおなまーえは全速力で追いかけた。
彼は気を失っているようで羽ばたきひとつしない。
(間に合え…!)
彼に追いつくために、雨よりも早く追いつくために、彼女は身を縮めてスピードを上げた。
「はぁーー!!」
ガシッとなんとか彼を掴むことができたが、思いの外重量があり、おなまーえはふらついた。
サリマンの使い魔に攻撃されないように結界を張り、よろよろしながら飛行を続ける。
「ハウル、お願い目を覚まして。帰ろ?カルシファーとソフィーが待ってる。ほら…」
返事はない。
鳥の姿になったからと言って筋力が飛躍的にアップするわけでもない。
ハウルを持つ手が震え、高度が少しずつ下がっていく。
空に再度暗雲が立ち込めた。
サリマンの第二撃が来る。
おなまーえ程度の張る結界では彼女の魔法は防げない。
「っ!」
空が光った次の瞬間、白い落雷が二人に落ちてきた。
おなまーえはハウルを庇い背中で雷を受け止める。
雨が火傷を刺すように彼女の背を打ち付けた。
「あぁっ!!」
痛みに顔を歪めながらも、ハウルのことだけはしっかりと掴んで離さなかった。
(ここで私が諦めたらダメだ…)
帰りを待つ人がいる。
カルシファーも、ソフィーも、マルクルも、荒地の魔女も、ハウルが帰って来るのを待っている。
壊れた結界を見て使い魔たちが集ってきた。
羽根がもがれ、全身のあちこちに引っかき傷ができる。
3度目の暗雲が立ち込めた。
使い魔たちは構わずおなまーえに攻撃し続ける。
次に雷が落ちたら、今度こそおなまーえは墜落してしまうだろう。
(もうダメだ…)
せめてハウルだけは落雷から逃れてほしいと思い、おなまーえは腕を大きく振ろうと肩に力を込めた。
ところがピカッと空が光った瞬間、おなまーえの体は重力とは異なる方向に引っ張られた。
「っ!?」
落雷の眩しさについ目を閉じた。
――ズドーン
先程まで2人がいたところに雷が落ちる。
ゆっくり片目を開けると、おなまーえの手を引くハウルの姿が見えた。
彼は無表情にこちらを見ている。
意識を取り戻したのだ。
「ハウル…!」
「………」
笑顔で彼に抱きついたが反応がない。
「えっと…帰ろう?カルシファーのところに。」
「………」
返事もないが言葉は通じたようで彼はおなまーえを抱き上げて進み出した。
雷のおかげで使い魔たちの数は大幅に減っている。
「私、1人で飛べるよ?」
「………」
やはり返事はない。
ただ無表情に前を向いている。
しかしそれでもなお、優しく抱きしめる腕を、おなまーえは寂しい気持ちで見ていた。
雨はいつの間にか止んでいた。
天使を抱えた悪魔が、静かに夜空を駆けていった。