Chapter.3
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Chapter.3
その日ハウルは帰宅しなかった。
それをいいことに、おなまーえも彼のベットで休むことはしなかった。
一晩中工房に閉じこもっていたのである。
街の夕刊によると、予想より大分早まるがいよいよ戦争が始まるらしい。
いつでも商品を出荷できるように、早めに完成させたほうがいいと判断した為である。
戦争のために作ってきた魔力兵器の数々は、魔力を持たない一般人でも扱えるようになっている。
魔法が戦争の要を握るこの時代では、おなまーえの作る兵器は正に理想的な戦力であった。
(世界があとほんの少し歩み寄れば、こんな兵器いらないのにね)
そう思いながら、おなまーえは最後の一台まで丁寧に作り上げた。
****
――ドンドン
――ドンドンドンドンッ
ドアが乱暴に叩かれる音がして彼女は目を覚ました。
(……いけない、いつの間にか寝てたみたい)
昨夜は作った兵器のテストを行い、半分ほど調整し終えたところで睡魔に勝てず机に突っ伏してしまった。
変な体勢で寝ていたため、首の後ろと頬が痛い。
扉を叩く音は止んでいた。
おそらくマルクルが代わりに出てくれたのであろう。
「あー、もうこんな時間」
日はとっくに昇っていた。
おなまーえは眠気覚ましにシャワーを浴び、白のシャツに紺色のスカートを履く。
「早ければ今日納品だろうなぁ」
あとで残りの分の点検も済まさなければ。
おなまーえは身を整えてリビングに直結している扉を開けた。
「マルクルおは…」
「もう、いい加減にしてください!怒りますよ!」
マルクルに怒鳴られたのかと思った。
しかし彼の視線の先はおなまーえではなく、見たこともないおばあちゃんが玄関にいた。
(……え、誰?)
おばあちゃんは見るもの全てが目の珍しいらしく、キョロキョロと家の中を物色している。
「ここは魔法の家なんだね」
「もーぅ!」
「おはよ、マルクル」
「あ、おなまーえさん!」
マルクルがおなまーえの腰に抱きついてきた。
彼女は抵抗せずそれを受け入れる。
「どういう状況?これ」
「僕もよくわかんなくて、荒地から勝手に入ってきたみたいなんです」
「へー、荒地から…」
このおばあちゃんは何故荒地なんて場所にいたのだろうか。
あそこは人の歩く場所などではなかったが。
(にしても、複雑な呪いだなぁ…)
誰がかけたのか(まぁ検討はつかないわけではないが)、ちょっぴり厄介な呪いがこのご老人にはかけられていた。
(でも、病ならともかく、呪いは私にはどうしようもできないね…)
侵入者とはいえ、どうやら危害を加える意思はないようだし、放置しておいて問題ないだろう。
マルクルの頭をよしよしと撫でて引き剥がすと、おなまーえはフライパンを取り出した。
「とりあえず朝ごはんにしよっか」
「ケッ!ケッ!オイラは今機嫌が悪いんだ!料理なんてやんないよ。」
「あら?私何かしちゃった?」
基本的にカルシファーはおなまーえの話もよく聞いてくれるが、ごく稀に言うことを聞いてくれない時がある。
それが今回のように機嫌が悪くなった時だ。
「おなまーえ、昨晩薪くべるの忘れただろ」
「あっ」
風呂から上がって一度も工房を出なかったため、確かに薪をくべるのを忘れていた。
このおばあちゃんが昨晩のうちに侵入してくべてくれなければ、カルシファーは消え入りそうになりながら朝を迎えていただろう。
「あーあ、仕方ない。マルクル、パンだけでもいいかな?」
「私がやってあげる」
「え?お婆さん?」
思わぬ申し出と引ったくるような手つきで、おなまーえはついフライパンを渡してしまった。
「無理ですよ、カルシファーはハウルさんとおなまーえさんの言うことしか聞かないんです。今日は機嫌も悪いみたいですし…」
「そうだ。料理なんかやんないよ。」
「さぁカルシファー、お願いしますよ」
ご老人はどうやら人が嫌がっていても自分のやりたいことを押し通すタイプらしい(この場合カルシファーが人かどうかは別として)。
「やだね。おいらは悪魔だ。だーれの指図も受けないよー。」
「言うこと聞かないと水を掛けちゃうよ?それとも取引のことをハウルにバラそうか?」
「チェッ!チェッ!こんなばあちゃん入れるんじゃなかった!」
(取引…?)
気になる単語が聞こえた。
カルシファーはご老人と何の取引をしたのだ?
「さあ、どうする!?」
「う、うぅ…」
ご老人はフライパンを無理やり押し当てた。
ギリギリまで抵抗していたカルシファーだが、とうとう観念してフライパンを受け入れた。
「そうそう、いい子ねー」
「チェッ!チェッ!ベーコンなんか焦げちまえ!」
「カルシファーが言うことを聞いた…」
「珍し…」
おなまーえとマルクルは目を丸くさせた。
「お茶も欲しいね。ポットもあるの?」
「あ、はい。マルクル」
「わかった」
何故だろう。
ついつい彼女の言うことを聞いてしまう。
魔法ではないが、そんな不思議な力が彼女にはあった。