Chapter.2
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「たいっへん申し訳ないんですけどー、彼女どうやら風邪ひいたみたいでー。」
「風邪、ですか」
「ええ。昨日は元気だったんですけどー、今朝はまるで90歳のお婆ちゃんみたいな声なもので、今日は出勤していないんですぅ。」
先日の店員がおなまーえの顔を覚えていてくれたようで、この帽子の製作者に会いたいと申し出たところ、体調不良で寝込んでいると言われてしまった。
「あー、そうですか…。ちょっとこの帽子で良いことがあったのでそのお礼をしたいと思ったので…。お手数ですけど、これその方に渡しておいてくれますか?」
「あら!チェザーリのマドレーヌじゃない!私のもう一人の娘がここで働いてるのよ!」
「あ、じゃあかえって迷惑ですかね?」
「いえいえ、喜ぶと思いますよ。ちゃんと渡しておきますからね!」
手土産を渡し、おなまーえはお店をぐるりと見渡した。
先日訪れたときは穏やかで素朴な魔力が微かに感じられたが、今は"臭い匂い"に包まれていた。
この匂いはおなまーえも何度か嗅いだことがある。
「……あの、つかぬ事をお聞きしますが、昨日の夜の店番ってこの帽子の女性でしたか?」
「ええ、そうよ」
店内に充満している魔力の残り滓と、突然体調不良になった女性。
何も関係がないとは思えなかった。
(でもここはしがない下町の小さな帽子屋さん。"彼女"がこんなところになんでわざわざ……)
難しい表情で黙りこくったおなまーえに、店員は困惑した表情を浮かべる。
「あのぉー、お客様?どうかされましたか?」
「……いえ」
ここは彼の力を借りた方が賢明だろう。
「あの、もしこの帽子の製作者さんがお困りでしたら、荒地のハウルの元を訪れなさいとお伝えください」
「ハウル?ハウルって、あの女の子の心臓食べちゃうやつ!?」
あぁ、この街ではそんな風に噂されているのか。
確かに彼はいろんな女の子の心を奪ってはきたが、心臓を食べるなんて野蛮な行為は決してしない。
その正体は荒地の魔女だろう。
「あんた奴の仲間!?もしかして荒地の魔女!?」
ギョッとした表情でおなまーえを見てくる店員に、怖がらせて申し訳ないと目を細めた。
「大丈夫。私は魔法は得意ではないから。でもちょっと心外です。荒地の魔女なんかと一緒されるなんて。」
なるべく柔らかく言ったつもりだったが、溢れる殺気はとどめきれていないようで、店員はすっかり腰を抜かしてしまっていた。
****
店を出て1番栄えている広場に足を運んだ。
(……こんな人目につくところなのに"彼女"の魔力を感じる)
路面電車と車が行き来し、ぴっちりとスーツを着こなした男性や粧し込んだ女性が忙しなく歩いている。
一般人の多いこの場所でも、荒地の魔女の微かな魔力跡が感じられた。
彼女はハウルとおなまーえを我が物にしようと望んでいる。
正確には、2人の心臓を食べようと企んでいる。
魔術回路である心臓を抉り取って捕食する事で更なる強さと魔力を手に入れようとしているのだ。
おなまーえの人より魔力量の多い臓器はさぞかし美味なのだろう。
彼女は何度か命を狙われていた。
(あんま深追いしても逆に追い詰められそうだし、今は手出しできないかな)
幸い、向こうも今すぐにおなまーえに干渉はしてこない。
大勢の一般人を巻き込むデメリットを考える程度の理性は働いているようだ。
(ひとまず戻ってハウルに相談しよ…)
そう思って来た道を戻ろうとしたとき。
「ねぇ子猫ちゃん。君、しばらくそこにいたでしょ。誰か待ってるの?」
「え?」
不意に声をかけられて、うっかり返事をしてしまった。
兵隊の格好をした2人組だ。
見廻りか休憩の時間なのだろう。
「ほぉ、可愛い顔じゃないか。まさに仔猫ちゃんって感じだな。」
「……」
おなまーえはキッと2人を睨みつけるが、彼らからしてみればそれも可愛い抵抗であった。
「ほら、仔猫ちゃんが警戒しているぞ。やっぱりお前の誘い方が下手なんじゃないか?」
「うーん、その顔も可愛いけど、俺は仔猫ちゃんの笑顔が見たいかなぁ。よかったらお茶でもいかがですか?」
「こんな可愛い子を広場に立たせておくなんて、男が廃るってもんだよ」
「…結構です。先約がいますので。」
「うわ、声も可愛いなぁ」
女性ということで完全に舐められている。
魔法を使って逃げることもやぶさかではないが、普段この街で買い物をする以上、面倒ごとも起こしたくない。
(あーあ、どうしよっかな。こんな時にハウルが居てくれたら。)
彼女は心の中で無意識にハウルに助けを求めていた。
「おまたせ」
不意に蕩けるような優しいテノールが耳元に直接響いた。
「…ぇ?」
まさか本当に助けに来てくれるとは思っていなかったのでおなまーえはつい反応に遅れてしまう。
「お、お前はこの前の!」
「おや、何時ぞやの兵隊さんじゃないか」
ハウルはおなまーえの肩に手を置いて引き寄せた。
「この前の小鼠ちゃんには振られたのか?」
「すまないね、この子は僕の妹なんだよ。今日もまた散歩して来てくれないかな。」
ピィンと彼が指を動かせば彼らの足が勝手に動き出し、2人はあらぬ方向へと進んでいってしまった。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「この前の小鼠ちゃんって?」
「……」
彼はおなまーえの問いには答えず柔らかく微笑んだだけだった。
その態度が気に食わなく、おなまーえはそっぽを向く。
「……まぁいいけど、あんまり女の子泣かせてるとそのうち痛い目見るよ?」
「大丈夫。ずっと探していた人には会えたから。」
「え?」
おなまーえは驚いてハウルの方を見た。
しかし既に彼はそこに居らず、特有の香水の香りだけが残されていた。
「……会えたって…まさか、ソフィーさん…?」
この時、おなまーえは確かに自身の楽園にヒビが入ったことを感じた。