4. あなたの声は夢よりも甘く響きました
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Your very voice is in my heartbeat, sweeter than my dreams.
あなたの声は夢よりも甘く響きました
それから2日経った。
仕事の合間を縫ってレイムもおなまーえもシャロン捜索に加わっていたが、なんの情報も得られずにいた。
今日は四大公爵家の会議の日。
先日流れた分の埋め合わせがパンドラで行われる。
いつものようにバルマはシェリルの車椅子を引き、レインズワースの使用人であるかのように振る舞う。
レイムとおなまーえは中に入れないため廊下で警護をしていた。
扉が閉められ、ベザリウス、ナイトレイ、レインズワース、バルマの四大公爵家の頭が揃い会議が始まった。
特に有益な情報もないまま首狩りに関する議論が始まる――はずだった。
――ドォォオンッ
荘厳な扉の向こう側から、尋常ならざる大きい音がした。
「……兄様?」
「何かあったんだろうか」
兄妹は顔を見合わせる。
――バンッ
程なくして重々しい扉が勢いよく開かれた。
そこから飛び出てきたのは…
「お、オズ様!?」
「なに…!?」
「とにかく逃げて!アリス!」
巨大な黒ウサギに抱えられたオズであった。
続いてパンドラの役人たちも彼らを追いかけて行く。
「追え!」
「逃すな!!」
見るも明らか。
公爵の会議に乱入したテロリストと勘違いされても仕方がない。
おなまーえとレイムはオロオロするばかりである。
「あらあら、私の体調が良くなってやっと会議ができると思ったのに、大変なことになったわねぇ……」
中からゆっくりと出てきたのはシェリル=レインズワースとその車椅子をひくルーファスだった。
「お怪我はありませんか、レインズワース女公爵」
「うふふふ、ありがとう。大丈夫よ。」
この女性はブレイクとおなまーえの仲を容認してくださっている。
おなまーえの憧れの女性だ。
「レイム!」
オスカー=ベザリウスが兄の名を呼んだ。
2人でヒソヒソと話をしている。
そして話が終わったかと思えば兄は悲鳴をあげながら走りだした。
「ひぃー!!」
「ちょ、兄様!?」
「おなまーえちゃんも行ってあげて。ここは大丈夫だから。」
ちらっとシェリルの後ろにいるルーファスに視線を向ければかすかにコクリと首が動いた。
「ありがとうございます。行ってまいります!」
おなまーえも走りだした。
追いつく頃には、レイムは既に早歩きをしていたが、彼女は走らないとそれについていけない。
「兄様!やっぱり彼はオズ=ベザリウスなの!?」
「ああ、そうだ。アヴィスから生還してきたらしい。ビーラビットと契約してな。」
「ビ、ビーラビット!?」
レイムは手袋の親指を噛む。
小走りで続くおなまーえも親指を顎に当てて考える。
「考えろ!考えるんだ、レイム!!」
「オズ様を保護するんだよね!?」
「あぁ、だが…」
そこで彼はピタッと立ち止まった。
「あんなでかいウサギを隠す場所があるかー!!」
「おおおおちついてって、兄様!!」
「あああ、考えろ考えろ!!私はできる!できるはずだレイムー!」
「あ、あにさま!」
レイムはしゃがみこみ、ダンダンと壁を叩く。
こんなところ誰かに見られでもしたら……そう思ってあたりを見渡そうとしたそのとき。
――ガシッ
「「!?」」
兄妹は何者かに首を抱え込まれ、そのままずるずると近くの部屋に引きずり込まれていく。
「だ、誰だ!?ななな何をするんだね!」
「は、離しなさい!」
――バタン
扉が閉められる。
腕が緩みクルッと振り向けば、ここ3日探していた顔がそこにあった。
「ザークシーズ…!」
「ブレイク様!っと、なぜこんなところに…」
思わず抱きつきたい衝動に駆られたが、今はそれどころではない。
グッとこらえて疑問を投げつける。
ブレイクは指を唇に当てて「しーっ」と言った。
彼は兄妹から腕を外すと扉の鍵を締める。
なんのためにこの部屋に引きずり込んだのか、それは中を見てすぐに合点がいった。
「ギルバート様!」
「ああ、大声は出さないで」
レイムが叫ぶ。
ソファの上にグッタリと横になるギルの姿があった。
すかさずおなまーえは駆け寄って額の汗を拭う。
「一体どうされたのです?」
「少しばかり無理をさせてしまいました。今は休ませてあげてください。」
苦しそうに顔を歪めるギルを少しでも労ろうと、おなまーえはタオルに水を染み込ませ彼の額に置いた。
レイムはソファの周りに散らばっている羽を一枚手に取る。
「無理って、鴉をお使いになられたのか」
「帰って来るために、仕方なく…ネ」
ブレイクがゴホッとむせる。
おなまーえはそこでようやく彼の口元に血が付着しているのに気づいた。
「どこかお怪我なさったんですか…?」
「なんでもないですヨ」
部屋の隅に置かれていた別のタオルを濡らし、おなまーえはブレイクの口元の血を拭った。
彼は微動だにせずされるがままだ。
「それよりも、私の質問に答えてください」
あらかた拭き終えタオルを放すと彼はレイムとおなまーえに問いかけをした。
「私がいなくなってから今現在までパンドラで起きていること……いや、それよりもまず、シャロンお嬢様に何かあったのではないですか?」
確信めいた言い方に、兄妹は顔を見合わせた。
そして互いにコクリと頷きあうと重々しく口を開く。
「まだ…公にはされていないが、シャロン様は現在行方不明だ」
「2日前、ギルバート様たちとともに自室に籠られて、翌朝メイドが訪ねた時には既にもぬけの空だったそうです」
「まだ誘拐と決まったわけではないが、女公爵が秘密裏に調査をしていらっしゃる」
「でも残念ながら、手がかりも見つかっていないのが現状です」
ブレイクはテーブルに腰をかけ紅茶を淹れている。
主人が行方不明だというのに、そんなゆっくりしてて良いのだろうか。
しかしその様子が空元気であることは、小刻みに震える手ですぐにわかった。
「女公爵は調査ために、体調不良という名目で2日前の会議を欠席され、その埋め合わせが本日行われていました」
「だが、そこにいきなりオズ様と黒うさぎが落ちて来て…」
レイムはメガネをキュッキュッと磨いている。
ストレスが溜まった時の彼の癖だ。
「ああ、鴉使ったから黒うさぎの封印が解けちゃったんですネー」
そう言ってブレイクは険しい顔で考え込んだ。
30秒ほど俯いていたが、不意に彼は何か思いついたような顔をして部屋を出て行こうとする。
「おい、どこへ行く」
しゃがみこんでいたレイムが呼びかけるが返事はない。
「待て!話はまだ終わっていないぞ!」
すかさずおなまーえがそれを追いかけた。
「兄様はオズ様と黒うさぎを!私が追いかけるから!」
風の如くおなまーえも去っていった。
残されたレイムはしばし呆然とするが、すぐに目先の解決しなければならない事案について考えた。