3. 薔薇の花を集めながら希望を歌いましょう
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翌朝にはシャロンに感謝の言葉を述べ、パンドラに向かった。
蟲の件で色々と報告しなければならないことがあるからだ。
バルマ邸に帰還できたのはさらにその翌日のこと。
日も既に頂点に達した頃になんとか帰宅した。
兄とは違って夜更かしなど簡単にできる体質ではないのでおなまーえはヘロヘロだった。
「失礼します。おなまーえ=ルネット、ただ今戻りました」
上から下まで本に囲まれた書斎の入り口から声をかけると、中に入るようにという指示が下された。
「……収穫はあったか?」
「はい、多少は」
ルーファス=バルマ。
おなまーえが仕えているこの家の主人。
彼女はまず蟲の件について知るところを全て話した。
耳聡い彼のことだから既に知っているとは思うが。
「ここからは憶測ですが、この件にヴィンセント=ナイトレイが一枚噛んでいるかと」
「うむ、その意見には我も同意しよう」
「光栄痛み入ります」
ルーファスは本に目を落としたまま、こちらをチラリとも見ずに話す。
幼いおなまーえを拾い未だ正体不明の彼女の過去には興味があるが、そもそも彼にとっては、とある女性以外は特別興味の対象ではないのである。
続いて彼女は謎の少年「オズ」について説明した。
つかみ所の無く、何かを抱えていそうな少年。
「ふむ……オズ、とな」
これにはルーファスも顔を上げた。
美しい切れ目がさらに細められる。
「はい。愛称なのかもしれませんが、詳しくは教えてもらえず…」
「汝もそこまで鈍い性格はしてなかろうて」
カッカッとルーファスは笑った。
おなまーえは苦笑いをする。
先日、空き時間にオズという名前の人物を少し調べてみたが、四大公爵家でただ1人ヒットする人物がいた。
「……推測な上、裏付けも取れていませんよ」
おなまーえはスゥと息を吸った。
「彼は10年前にアヴィスに墜とされた"オズ=ベザリウス"の可能性が考えられるかと」
「そうじゃな…」
ルーファスはしばし考え込む。
また何か策を練っているのだろうか。
「また進展があれば報告しろ」
「はっ」
彼女は深々と頭を下げた。
「失礼します」
声のした方を向くとレイムが立っていた。
「もう時間か」
「はい、馬車のご用意もできています」
しかしルーファスは動かない。
本日は四大公爵家の会議のはずなのに。
「ルーファス様?」
「……本日の会議は中止じゃ」
「はい?」
彼はレイムとおなまーえの顔を交互に見た。
「汝等には知らせておこう。今朝方連絡があってな、レインズワースの娘が行方不明なった。」
****
ルーファスの部屋を出てすぐ、久しぶりに兄と会話をした。
顔を合わせるのが数日ぶりというのももちろんあるが、そもそも普段の会話が事務的な連絡のみである。
決して兄妹間で不仲な訳ではないし、幼い頃はよく面倒を見てもらっていたが、大人になってから互いに余裕もなくなり会話をすることが少なくなった。
こうして互いに言葉を交わすのは久方ぶりなのだ。
「兄様、落ち着いて」
「あ、あぁ…」
というのもレインズワースの娘、シャロンが行方不明と聞いてから、どうもレイムの様子が落ち着かない。
心配なのはわかるがそれ以上の何かを彼から感じる。
「ルーファス様もきっと動いてくれてるよ。だからきっと見つかる、大丈夫。それにほら、ブレイク様だっている大丈夫だよ。」
「そのザークシーズがいたのならシャロン様は誘拐などされないだろう」
「あっ…」
レイムの言う通りだ。あの男がいたのであれば、どんな賊でも刺客でも撃退してみせるだろう。
何せパンドラ一の剣豪だ。
「つまり、今ブレイク様がレインズワース邸にいない…?」
「おそらく。とにかく私はナイトレイ家とベザリウス家に連絡を入れるから、お前は休んでろ。」
「でも…」
「そんな目の下にクマを作って、仕事が務まるか?」
文字列だけ見れば厳しい一言だが、兄は優しく笑っておなまーえの頭を撫でた。
「……もぅ、子供扱いしないでよ」
「はは、ごめんごめん。……久しぶりに話せてよかった。」
兄が廊下を歩いていき角を曲がるまで、おなまーえはじっと彼の背中を見ていた。
(……もう少し兄孝行するか)
シャロンの安否、それからブレイクの所在は確かに気になるが、今は兄に言われた通り休もう。
おなまーえは素直に自室に戻っていった。
end
時系列としてはチェシャ猫のあたり