3. 薔薇の花を集めながら希望を歌いましょう
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ヴィンセントをレインズワース邸の玄関まで送り届けるため、ブレイクは細長い廊下を歩く。
「その服、パンドラに向かうつもりだったのかな?」
「えぇ、少し調べたいことがありまして」
「へぇ、なんだろうな」
ヴィンセントはわざとらしい顔で尋ねた。
「……これは私個人の憶測ですが、今回の蟲の逃亡事件、パンドラ内部のものが手を貸した可能性があるかと。」
「……へぇ?」
「蟲からなんらかの情報が洩れるのを恐れたのかもしれませんネ。あからさまに内部の犯行と思われぬように外へと逃し、人知れず消し去るか、なんらかの事故を装い殺害する。『子供を助けるために仕方なく殺したんだ』とかそんな理由をつけたりしてネ?」
ブレイクは遠回りにはっきりと「お前が怪しい」と伝えたのだが、ヴィンセントはクスッと笑うだけで特に反応を示さなかった。
「だとしたらおなまーえさんとか怪しいんじゃないかな。ほら、第一発見者なんでしょう、彼女」
それどころかつい先ほどまで共にいた女性の名を口に出した。
「推理小説でも定番じゃないか。第一発見者を疑って」
「あの娘にそんな度胸はありませんヨ」
「ふぅん、信用してるんだね」
「信頼してるだけです。少なくともあなたよりは。」
そちらから聞いて来たというのに、ヴィンセントはどうでもいいという様子で大欠伸をした。
「でも怖いなぁ。組織内にそんな人がいたらと思うともう…」
「はっはっはっ」
ゆっくりと振り返ったブレイクはエコーも身構えるほどの殺気を放つ。
しらを切るだけではなく、他人に濡れ衣を着させようとしていたとは。
やはり彼女を下がらせて正解だった。
嘘の証拠をでっち上げられて、ウィリムアム=フィリプスを殺した犯人に仕立て上げられる可能性もあった。
「ご心配には及びませんヨー。そんな輩が本当にいるのなら、たとえそれが誰であろうとも私が必ず追い詰めてみせます。」
「それは…楽しみですね」
一触即発。
そんな空気を残し、ヴィンセントはレインズワース邸を後にした。
****
ヴィンセントが出て行き、間も無くギルも客間を出た。
残ったのはおなまーえとシャロン。
「申し訳ございません、本当に…」
先に口を開いたのはおなまーえ。
何から何までお世話になりっぱなしだ。
「ヴィンセント様がレインズワース邸を後にしたら私もすぐにバルマ邸に戻りますので」
「いえ、おなまーえさんはどうぞお泊りになってください」
「でもここからならさほど遠くはないので…」
今朝、徒歩で来れた距離だ。
30分ほどはかかるが歩けない距離ではない。
「もう、今更遠慮なさらないでください。女性をこんな時間に外に放り出すほどレインズワースは非情ではありませんわ。」
たおやかな笑顔。
自分の想い人は、この女性のしなやかで優しいところに惹かれたのだろう。
これ以上断るのは逆に失礼にあたるので、おなまーえはお言葉に甘えて泊まらせてもらうことにした。
****
使用人用の湯浴みを使わせてもらい、簡素な寝巻きも貸してもらう。
さらっとした生地は決して安物ではないのだろう。
浴室から上がって待っていたのはブレイクだった。
「ブレイク様!気がお早いです!契りを結ぶのでしたらお部屋で…」
「断じて違いますから安心してください」
蟲を死なせてしまったことに罪悪感を感じていたが、彼の姿を見た途端悩みなどすべて吹き飛んだ。
「お部屋まで案内しますから」
「あ、その前に…」
おなまーえは深々とお辞儀をした。
「先程は助けてくださりありがとうございます」
レインズワースがわざわざ御者を用意するメリットはない。
この意味するところは、即ち彼はヴィンセントに利用されていたおなまーえを助けてくれたのだ。
「……へえ」
「どうされました?」
「あなたにも感謝を述べる脳みそがあったんですね」
「そういう手厳しいところも好きぃ!」
ばっと飛びつこうとしたら額に手を当てられ、ただ腕を振り回しただけに終わった。
腕のリーチの差が疎ましい。
「で、どう思いましたカ。率直なあなたの感想を聞かせてください。」
「え?ブレイク様のSなところが大好…」
「それは知ってます。ヴィンセント=ナイトレイの方ですよ。」
「なんだ、そっちですか」
おなまーえは姿勢を正した。
ブレイクが歩き出したので彼女もそれに続きながら答える。
「良い馬でしたよ、ナイトレイ家の馬は。ほぼ未経験の私でも指揮できるくらいには。」
「……やっぱりですね」
「にしてもタイミングが良すぎます。エコーがたまたま被疑者の息子を見かけたとはいえ、あのシーンで鉢合わせるなんて。」
「ええ、私もそう思ってカマかけてみたんですが、眉ひとつ動かしませんでしたヨ」
ブレイクは一室の前で足を止めた。
今夜はここで休めということなのだろう。
夜も遅い。
ここの主人に再度挨拶をするのは明日にしたほうがいい。
「シャロン様にご好意ありがとうございますとお伝えしておいてください」
「わかりました」
ブレイクが扉を開けてエスコートしようとしたがおなまーえは動かない。
「どうかしましたカ?」
「おやすみのキスはくれないんですか?」
「寝言は寝て言ってください」