3. 薔薇の花を集めながら希望を歌いましょう
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Gathering the roses. We sang for the hope.
薔薇の花を集めながら希望を歌いましょう
雨が降っている。
聞き込み、痕跡調査、行動推測。
パンドラ構成員と共におなまーえはできることは全てやったが、どうしても蟲に辿り着けない。
一般人が巻き込まれる前になんとしてでも捕獲しなければ。
(私のチェインはチェインにしか効果がないしし……こんな時シャロン様のような力があれば……)
能力が限定的な自分のチェインを少し恨んだ。
(まぁ、兄様の無能チェインよりはマシか…)
街での聞き込みはあらかた完了した。
収穫がないことを考慮すると、やはり残るは路地裏だ。
足を進めようかほんの少し躊躇していたその時。
――ドゴォン
何かが崩れる音が聞こえた。
建物が崩れたようなそんな音。
「今のは…」
ちょうど足を進めようとした先からである。
蟲の可能性は十分高い。
――バンッバンッ
雨音に紛れて、銃声も聞こえる。
なんにせよ、誰かが襲われている。
おなまーえは腰の剣をいつでも抜けるように警戒した。
「行きましょう…」
「「はっ!」」
部下を引き連れ、細い路地裏に足を進めた。
****
「撃つなぁああ!!」
ひときわ大きい声が聞こえる。
一行は歯を食いしばって速度をあげた。
足元ではネズミが逃げ回る。
(間に合え…!)
視界が明るくなり、ひらけた場所に出る。
「っ!?」
冷たい雨が彼女を打ちつけた。
「やめろ!触るな、なんで、なんで撃ったんだ!!この人はもう…!」
「オレじゃないっ!」
「これは、一体…!?」
倒れる蟲の契約者、暴れるオズ、それを抑えるギル。
そして頭から血を流している男が1人。
「っ!!ウィリアム=ウェスト!!」
名前を呼んで蟲の契約者に駆け寄ったが、彼は頭を撃ち抜かれ即死していた。
重要な情報源が殺された。
暴れるオズを押さえながら、ギルバートが苦しそうに言葉を紡ぐ。
「っ、オレは、撃っては…」
「……僕だよ」
ギルでもないオズでもない声に、おなまーえと構成員は振り返った。
「だってその子が今にも殺されそうだったし、第一その人にはもうアヴィスに堕ちるか死ぬかのどちらかしか残されていなかった。だからさ、これは仕方なのないことだよね…?」
金髪のオッドアイ。
おなまーえの好きではない、鮮やかすぎる赤色の目。
「ヴィンセント…!」
「ヴィンセント様、なぜこんなところに…」
彼はこちらにニコッと笑いかけてきた。
隣にはエコーもいる。
貴重な参考人を殺された。
おなまーえは彼を強く睨みつける。
「っ…」
「……」
「……」
気味が悪い肌の静寂の中、ただ水音だけが空間を支配する。
小雨だった空からは、本格的に雨粒が降ってきた。
暴れるオズを抑えて、ギルがヴィンセントに問いかける。
「ヴィンス、お前が乗って来た馬車はあるか」
「うん、近くに」
「こいつを安全な場所で休ませたい。貸してくれ。」
「だめだ、ギルっ!オレはフィリップにっ!」
「いいよ、ギル。キミの頼みだったら僕はなんだって聞いてあげるんだ。」
ヴィンセントはこちらを見た。
「でも、さっき御者の人がすぐそこで落馬しちゃってね。おなまーえさん確か乗馬できたよね。」
「……えぇ、多少心得はありますが…」
この男の話はたとえ本当だとしても疑わしい。
果たしてその御者は落馬などしたのだろうか。
とはいえ、貴族であるヴィンセントからの命令に従わないわけにはいかないので、おなまーえは渋々ながら御者の代わりを務めることを承諾した。
パンドラ構成員たちに向かい合い、指示を出す。
「すみません、私はここで離脱させていただきます。あなたたちはパンドラからの応援を要請してください。事のあらましは見たとおりに。」
「「はっ」」
空を見上げる。
今日は嵐になりそうだ。
****
「そうですか、大体のお話はわかりました」
ナイトレイ邸に向かうのかと思いきや、一行はレインズワース邸に来ていた。
客間に通され、ありがたいことにタオルまで貸してくれた。
「夜分にすみません、ミス・レインズワース。ギルがナイトレイには帰らないってダダこねるものだから。」
「私まで厄介になってしまい申し訳ございません」
「いえ、私は別に…」
ヴィンセントに引き続きおなまーえも謝罪を述べる。
それにしてもやはりこの男は怪しい。
ナイトレイの馬車の馬は、流石としか言いようがないほど調教されていた。
おなまーえの拙い弾きも、馬のおかげでなんとかなっていたと言って過言ではない。
(こんな上質な馬が、御者を落とす程暴れるだろうか)
不信感は募るばかりだ。
「さて、それじゃ僕らは行こうか。おなまーえさん、帰りもお願いね。ナイトレイ邸に着いたら泊めてあげるから。」
「……お気遣いありがとうございます」
ナイトレイ邸。
できれば近寄りたくはないのだが、ヴィンセントを送り届けなければならないのも事実。
おなまーえは重い腰を上げた。
「あら、お帰りになられますの?」
「ええ、事後処理がありますし。それに僕はギルと違ってあまり歓迎されてないみたいだからね。」
バタンとはしたなく音を立てて入って来た人物は、パンドラの制服姿のブレイク。
おなまーえが好きな方の赤い目だ。
「……」
馬の準備をするためおなまーえは先に出ようと動いたが、彼はニッコリと笑うと彼女の行く手に手を出した。
「えっと…」
「こちらで御者を用意しました。おなまーえさんよりは安全な運転ができるでしょう。玄関までお送りしますヨ?ヴィンセント様」
レインズワースが御者を出してくれたおかげで、おなまーえは彼を送り届ける必要がなくなった。
ブレイクは視線をおなまーえに向け口だけを動かす。
(…ここにいなサイ)
薄い唇はそう告げていた。
「…では、お言葉に甘えます」
「なんだ、つまらないな」
そう言ったヴィンセントに向き合い、承諾を得るとおなまーえは再度客間に戻った。