24. 星の下、花の影
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
Underneath the stars. Shaded by the flowers.
星の下、花の影
逃げて、逃げて、逃げて。
彼女は屋敷の外に出た。
鎖に繋がれているブレイクが追いかけられるはずもないのに、彼から逃げるように屋敷玄関のドアを勢いよく閉めた。
「っ…はぁ……」
雨に打たれながらホッと一息つく。
(落ち着こう。感情的にならないようにしなきゃ。)
彼に拒絶された。
ぶるっと体が震える。
寒さではなく、ブレイクに否定されたという事実が耐え難いほどの苦痛だったからだ。
(こうしてる間にもオズ様の処刑が始まるって言うのに…)
身体が言うことを聞かなかった。
思考が停止してきかなかった。
なにも考えないようにしないと心を保てなかった。
頭を動かすとどんどんと良くない方へ思考が偏って行ってしまう。
冷たい雨はおなまーえの頭を冷やしていった。
(あれは……)
ふと木の陰に人形が置いてあるのが見えた。
泥にまみれた小汚い人形。
おそらく道に落ちていたのを誰かが木の下に移動させたのだろう。
「エミリーだ…」
ブレイクがずっと肩に乗せていた人形。
気持ち悪い声でケタケタと笑うこれはブレイクの唯一の友といっても過言ではない。
持ち上げれば、エミリーはおなまーえの手にぐったりともたれた。
(渡さなきゃ、いけないよね)
おなまーえはエミリーを大事そうに胸に抱えて目を瞑った。
「……なんでここにおなまーえさんがいるの?」
不意に掠れた男の声がした。
まさか外に人がいるとは思わずぎょっとしてそちらを見る。
そこには座りこみ淀んだ空を見続けるヴィンセント=ナイトレイの姿があった。
「……ヴィンセント様こそ、こんなところにいては風邪をひかれますよ?」
「ああ、僕はいいんだ。頭冷やしたいから。」
「そうですか。……私も似たようなものですよ。」
「ふーん…」
おなまーえは彼に近づきもせず、また彼もそれ以上はなにも喋らず、ただ2人で雨に打たれていた。
そのつかず離れずの関係がどうしようもなく心地よかった。
どれくらいそうしていただろうか。
おなまーえのドレスはぐっしょりと濡れ、肌はヒンヤリと冷たくなっていた。
おなまーえが顔に張り付く髪を鬱陶しげにかきあげたその瞬間。
――ドンッ
あたりが大きく揺れた。
「えっ!?」
一瞬地震なのかと疑ったがこの揺れはパンドラを中心に発生している。
建物の中心、広間のあたりから風圧が加わり次々と窓ガラスが割れた。
これは明らかに自然災害などではない。
「なに…!?」
彼女は立っていられずしゃがみこむ。
(フレイムが、怯えている…?)
何か得体の知れない大きな気配。
並みのチェインでは出せない圧力が屋敷から感じられる。
座りっぱなしのヴィンセントも(さして驚く様子はなかったが)視線を建物に向けた。
割れた窓から燃え盛る炎と黒い羽根が溢れ出てくる。
今はオズの処刑の時刻。
とするならば、この羽根は……
「っ、レイブン…!?」
「…そうだよ」
ギルバート=ナイトレイは、今のマスターとかつてのマスターとの間で揺れていた。
(また悩んで大事なものを見失うと思ったけど、彼も成長したんだ…)
一歩前に進んだ同僚におなまーえは少しばかり羨ましいと思った。
「ギルバート様…」
「…兄さんは全てを思い出しちゃったんだよ」
ヴィンセントはおなまーえに話しかけるわけでもなく、ポツリポツリと語り出す。
「兄さんは酷いよ。ずっと忘れていたままでいてくれた方が良かったのに。兄さんがずっとずっとオレのそばにいてくれたから、オレは兄さんのために」
彼はそこで息を小さく吸い込んだ。
「兄さんのために『オレのいない過去』をあげたいのに」
「……」
彼もまた、大切な人のために葛藤するただの人間だった。
大切な人に過ちのない過去をあげたいと願い、バスカヴィルの民として活動してきた。
そんなヴィンセントの姿に自分自身を重ね、おなまーえもつい俯いてしまった。