24. 星の下、花の影
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あたりの揺れはものの数分で収まった。
レイブンが能力を行使したために起きた一過性のもので、中の騒ぎを聞くに、オズとギルはどうやらうまく逃げ出せたようだ。
ヴィンセントはゆらっと立ち上がるとおなまーえの腕をがっしりと掴んだ。
「いっ」
「……」
顔を歪めたおなまーえに構わず、彼はずんずんと歩き出した。
「い、痛い!ヴィンセント様!!」
彼女は抵抗するが、冷え切った指先に力が入らない。
屋敷の中に入っても腕は解放されず、彼の向かう先に気付いた時にはもう手遅れだった。
「いやだ!やめてください!ヴィンセント様!」
2人が辿り着いたのは湿気の多い地下牢。
先程おなまーえが逃げ出したブレイクの牢屋の前だった。
「放して!」
握力では流石に男性には勝てず、おなまーえはイヤイヤと首を振りながらも引きずられる。
あまりにもおなまーえが抵抗するのでヴィンセントは首根っこをぐっと掴んだ。
「かはっ…!」
半ば強制的におなまーえはまた彼の繋がれている地下牢に連れていかれた。
相変わらずブレイクの見張りはリリィがしていた。
彼女は突如音もなく隣に立ったヴィンセントに驚く。
「ヴィ、ヴィンセント!?それにおなまーえも!な、何しに来たんだっ!」
後ずさりしながらも彼女はずぶ濡れのヴィンセントとおなまーえを心配してくれた。
ヴィンセントは牢屋の鍵をいじるため、首をつかんでいた手を離す。
「げほっ、ごほっ」
急に脳に酸素が周り、おなまーえは膝をついた。
牢屋の鍵はちょっとやそっとでは開かなかったようで、彼はディミオスの力で牢屋を切った。
鉄はカランという音を立ててあっけなく床に転がる。
おなまーえは息を整える間もなくヴィンセントに腕を引かれ牢屋の中に入る。
「……こんなところになんの御用でしょうか、ヴィンセント様」
ただならぬ気配を感じ、ブレイクが警戒の目を向けた。
ヴィンセントは焦点の合わない目でゆらりと顔をブレイクに向けた。
「…なん、の…?」
ポタポタと髪から水が滴り落ちる。
続いて彼はこちらを見た。
「たまたま…おなまーえさんがいて……それで…」
――バキィッ
そして次の瞬間、無気力な態度からは想像もつかないほど強い力でブレイクの右頬を殴った。縛られている彼は拳の動きは見えたが避けることはできない。
「なっ…!!」
ヴィンセントはブレイクの髪を掴み、無抵抗な彼をなおも殴り続ける。
「やめて!」
「ねぇ帽子屋さん。僕、わからなくなっちゃったよ。どうして兄さんはあんなことを……どうして僕に、あんな…っ!!」
「おぉおおい!どうしたんだヴィンセント!!」
リリィも困惑する。
おなまーえは意を決してヴィンセントの左手を押さえ込んだ。
「やめてください!!」
「……」
攻撃が止まった。
シンと辺りが静まり返った。
静寂はブレイクの笑い声に破られる。
「……ふ…ククッ…」
彼はぷっと血を床に吐きつける。
「何かと思えば可哀想に。お兄様にフラレちゃったんですかぁ?」
「っ!!」
途端ヴィンセントの目の色が変わった。
左手にしがみついているおなまーえを振り払うと、今度は彼女の髪を無遠慮に掴む。
短くなった金髪にブレイクの血が付いた。
「イッ…」
「黙れよ」
「……」
おなまーえはいわゆる人質。
ブレイクもそれ以上は軽口を叩くことはしなかった。
だがすでにヴィンセントの逆鱗に触れたことは変えようのない事実である。
「……ここで、帽子屋さんの大切な人を穢せば、少しは晴れるかな、このイライラを」
「なっ…!」
「っ!」
右手で再度首を掴まれ、おなまーえは無理やり顔を上げさせられた。
驚く間も無く、ヴィンセントの整った顔が近づき、冷たい唇が重ねられる。
「んっ!!クッ…はっ…ぁ」
息苦しさに口を開ければヌルッとした舌が滑り込んでくる。
「んんっ…!!」
目が視えないとはいえ、好きな人の前で、その人が嫌っている人とファーストキスだなんて。
(嫌だ嫌だ嫌だ…!!)
嫌だと頭を振っても解放されなかった。
くちゅりと鳴る水音に悔しさがこみ上げる。
嫌いな赤い目が細まった。
彼女はたとえ横目でもブレイクの表情を見ることはできなかった。
(ああ、なんてひどい…)
最早拷問だ。
愛しい人の目の前で穢されることがこんなに辛いことだなんて。
おなまーえの目尻から雫が溢れた。