23. 枯れない花の中に私たちはいたはずなのです
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We were there, in everlasting bloom.
枯れない花の中に私たちはいたはずなのです
コツコツと階段を降りる。
ロッティに言われた通りに、おなまーえは東の地下牢に来ていた。
牢屋の前には小さな少女が座り込んでいる。
「……リリィ」
おなまーえが呼びかけると少女だけでなく牢屋の中の彼も大きく反応した。
ジャラッと鎖が大きく揺れる。
「おなまーえか!さっきのは、もしかして…!」
「うん、最後の封印が解かれたみたいですよ。グレン様も蘇ったし、早速オズ=ベザリウスを処刑すると。」
「っ!」
ブレイクは驚き反応したが、何も言わない。
「そうか!いい気味だな、帽子屋!!そいつが死んだら次はお前を殺してくれるようにグレン様にお願いしてやるから覚悟しろ!!」
牢屋の奥に向かって叫ぶリリィの頭をよしよしと撫でる。
「リリィ、後で遊んであげるからさ、今だけちょっと席外してもらっていい?」
「む?」
何か怪しいことをするのではないのかという疑いの目が向けられた。
「大丈夫。ちょっとリリィに見られてると気まずいってだけだから、そこの入口のところで見張ってて。」
指差したのは先ほど降りてきた階段の下のところ。
何かあってもあそこならリリィもすぐに駆けつけられるだろう。
「うーむ…わかった!少しだけだからな!」
「ありがとー」
タッタッタッと走り去っていくリリィに手を振って見送り、おなまーえはふぅと溜息をついた。
リリィの座っていた椅子に腰をかけ、足を組む。
(ひどい…)
ブレイクは牢屋の中で両サイドから伸びた鎖に腕を拘束されている。
契約者の動きを封じる刻印はない。
今彼は帽子屋の能力を使うことができないため必要ないのだ。痛
々しいその姿におなまーえは目をそらした。
「おなまーえさん…」
「こうして…2人きりで話すのは、ブリジットデイ以来ですね、ケビン」
「…やはり……貴女は、この時代の人間ではありませんね…?」
「………」
おなまーえは無言で肯定を示した。
ブレイクは続けて質問を投げかける。
「貴女は……おなまーえ=ルネットは、おなまーえ=シンクレアなのですか?」
「…えぇ、そうですね」
彼女は不敵に笑った。
「貴方はもう見えないかもしれないけど、後で誰かに私の目の色を聞いてみたらいい。あの頃と変わらず、ケビンとお揃いの禍罪の子だから。」
ブレイクは悔しげに眉をしかめた。
今の彼はおなまーえに触れることはおろか、みることもできない。
目は開いているのに、その眼球は何も映さない。
「目が見えなくなって初めて後悔しました?」
「………」
「視覚から得られる情報は当てにしていないって言ってたくせに」
「………」
彼は答えなかった。
調子に乗っておなまーえは話し続ける。
ところがふと気が緩んでつい墓穴を掘ってしまった。
「貴方の体も、随分と限界なんですね」
「も、ということは、貴女もなんですか?」
「…あーあ、失言しちゃった」
おなまーえはいたずらがバレた子供のようにお茶目に笑った。
ブレイクは表情を変えずに彼女を真っ直ぐ見つめる。
「……最初から私がケビン=レグナードだと知っていたんですか?」
「いいえ、残念ながら」
座ったまま組んだ足を伸ばし牢屋の檻に靴底を当てる。
まるで壁を登るかのように足を柵に沿って上にあげた。
「私記憶喪失だったんです。アヴィスから出る際に脳がバラバラになったみたいで。でもそのおかげで貴方が改変する前の記憶と後の記憶の両方があるんです。」
膝が伸びきるとすうっと重力に従って足を下ろす。
その勢いでおなまーえは立ち上がり、壁に掛けてある牢屋の鍵を手に取った。
リリィがギョッとした表情をしたので、人差し指を唇に当てて静かにと指示する。
「正しくケビンのことを思い出したのは歌劇場で貴方の正体を知った時」
ガチャンと牢屋の鍵を開けて中に入った。
リリィがこちらを凝視しているが声をかけるようなことはしてこない。
ゆっくりとした足取りで彼に近づいていく。
「っ…何故、その時に言ってくれなかったんですか…!私のことを憎んでいるからですか…!」
「言ったとして貴方はどうした?シャロン様を見捨てて私に仕えた?」
「っ」
彼を縛る鎖を優しく撫でる。
そして手に達すると、いわゆる恋人つなぎのように指を絡ませた。
「貴方は私の生存を知って安心したかっただけでしょう?自分はおなまーえ=シンクレアを殺していなかったって」
「っ…!」
「罪悪感から解放されたかったのでしょう?」
一方の手の指で彼の手のひらに文字を書く。
丁寧に、一角一角ゆっくりと。
もう一方の手で、そっと彼の頬に手を添えた。
最後にベットで横になっていたときより、心なしかやつれたように思う。
「ケビンはずるいね。私のこと忘れて別のお嬢様に浮気してたなんて。」
「………」
艶かしい仕草で紅い唇をブレイクの耳元に寄せる。
彼はおなまーえが手のひらに書いた文字を必死に解読しているようだ。
「この人殺し」
「っ…」
彼は何も言わずに俯いた。
文章を書き終え、おなまーえは手を離した。
『タスケル イノチニカエテ』
全部が伝わったかわからないが、リリィが見張っている手前、これ以上の接触は危険だ。